外道にならなきゃ裁き切れない悪もある、正義を語る外道と外道以上の外道との戦い - ブラック・エンジェルズの感想

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ブラック・エンジェルズ

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画力
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ストーリー
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キャラクター
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設定
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演出
4.00
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外道にならなきゃ裁き切れない悪もある、正義を語る外道と外道以上の外道との戦い

4.54.5
画力
5.0
ストーリー
4.0
キャラクター
4.5
設定
4.0
演出
4.0

目次

インパクトが強かった衝撃的作品

週刊少年ジャンプの黄金期を支えた団塊ジュニア世代が、最初にジャンプを手に取ったころに連載されていたであろう漫画が、このブラックエンジェルズである。

主人公の武器が自転車のスポークという身近な道具が恐ろしい凶器になるというのも斬新だったが、そのスポークが頭に突き刺さって悪者が絶命するシーンは、読み手の子供としてはなんとも痛そうでかなりインパクトが強かった。

今改めて読むと、劇画調で絵柄に古臭さは感じるものの、最近の漫画にはない劇画特有の男臭さや渋さがあって、この時代の作家にしか出せないゆるぎない安定したカッコよさというものを感じる。

ブラックエンジェルズはその集団の根幹にある指針のようなものは終始一貫しているものの、作中で敵対するものが変わっているため、色々な楽しみ方ができるのも特徴的である。

勧善懲悪だったり、大きな組織との対決だったり、訳の分からぬ個性だけはやたらきつい敵との戦いであったりは、いずれも週刊少年ジャンプが最も得意とするヒット作品の王道ストーリーで、そのいい所を全部持っているのがこのブラックエンジェルズだ、と後になって気づいたりもする。

序盤の超人的能力を身に着ける前の雪藤の戦い方などは、今の若者が読んでも斬新な刺激があるのではないだろうか。

また、最近は多くの作家が作品をデジタルで仕上げていて、コピーを多用する傾向が見られるが、この作品にはそういった「楽をしてきれいに仕上げる」という手抜き感を一切感じない。そういった作画の丁寧な力強さが、非常に魅力的である。

非情な中に人間らしさも

主人公雪藤は、黒い天使として活動する時は冷酷極まりないが、戦闘以外では非常に人間らしい。喜怒哀楽もあり、バイト先の女性に恋をしたり、途中から仲間になる松田には終始態度に敬意が感じられ、気遣いがあるキャラクターになっている。

最近はクールなキャラはクールなままでミステリアス、ということが多いが、雪藤に関してはむしろ外見の冷酷さに反し、意外に激情型で情熱的と言える。

チャラけた松田とは対照的に思われがちだが、本質的には似た者同士であると思う。

著者の平松氏が太陽にほえろのファンであったのか、松田は松田優作氏が演じたジーパン刑事を彷彿とさせ、松田の先輩刑事露口などは、山さんという刑事を演じた露口茂氏が元ネタだろうと思わせる。

シリアスなばかりではなく、そういったシャレのような遊び心もあり、著者平松氏のユーモアを感じて、雪藤の完全に冷酷じゃない人間性も、平松氏の分身だからだろうという気もする。

女性の描き分けが素晴らしい

昭和50年代の劇画調の少年漫画は、男性は良く描けているのに、女性の魅力がいまいち、という作品も多い。その点この作品は、麗羅のような大人の色気があるキャラ、ジュディのような天真爛漫で可愛らしい女の子などがしっかり描き分けられ、敵の女性キャラも非常に個性あふれて魅力的である。

雪藤が組織対組織の対決に挑む前に、1人でブラックエンジェルの仲間を探しつつアルバイトを転々としていた先で事件の被害者になった脇役女性の描写なども、「そんなに美人ではないが誠実そうなオバサン」とか、「可憐なバイト先の先輩女性」などがしっかり描かれていて、平松氏が一見の脇役にもしっかりキャラクター作りをしている姿勢を感じられる。

敵キャラの女性についても、太った典型的なオバタリアン(今となっては死語であるが)のようなキャラや、薬師丸ひろ子さんのような可愛らしい風貌のキャラまでおり、同じ悪党でも男性キャラより個性的でインパクトがあり、印象が強く残る。

毒を以て毒を制す、外道VS外道以上の外道

この作品を見てびっくりするのは、悪い奴が悪すぎる上に、反省を促すとかやり直す機会を与えるなどという概念が全くない点である。

反省する価値がない悪党を表現するために必要な手法だったと思われるが、悪党の暴力や殺人の描写に全く容赦がない。逃げ惑う女性やお年寄りなども容赦なく銃撃されるし殴られる。唯一子供が殺害されるようなシーンだけは少年誌の漫画なのでぼやかされており、新聞などで殺されてしまったことが報道されるという手法が取られることもあるが、基本は被害者が誰だろうと容赦がない。(ちなみに犬などもそうである)

雪藤たちが、敵に対し「ド外道」「地獄に落ちろ」などと言っている以上、外道というのはその名の通り道を外していることなので、自分たちは道を外してないんだよという意味では正義とも取れるが、やっていること自体は俯瞰すると双方外道であり、実は外道同士の戦いだったりする。

まさに毒を持って毒を制すような漫画なのであるが、それでも雪藤の側が正義に見えてしまうし、子供の頃に連載をタイムリーに読んでいた世代は、ブラックエンジェルズは正義の集団だと思っていたのではないだろうか。何となくこの作品を通じ、子供は無意識に大人が作った法律も完ぺきではないし、大人社会の理不尽さを感じるきっかけにはなったかもしれない。

大人になって、外道同士の戦いだという事が理解できた上で読むと、非常に悲哀すら感じる作品である。

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