どの世代も楽しめる神がかった総集編
初期のドラゴンボールを詰め込んで
この映画、公開されたのが1986年12月。もはや30年も前なんだよね…でも何度でもみたいなと思える、記念すべきドラゴンボール劇場版の第1作目である。
構成としては、初期のドラゴンボールで、孫悟空がブルマと出会い、ドラゴンボールを探す旅をしながら、ヤムチャや武天老師、プーアルやウーロンなどと出会って、どんどん旅がおもしろくなっていく、ちょうどその時代が舞台。グルメス王国との闘いがパラレルワールド的に加わって、お正月のちょっとした特番になっている。30年も昔の映画なのに全然色褪せないのは、やはりドラゴンボールが今でも人気があるということと、ちょうどその時子どもだった世代の人でも懐かしく観れるからだろう。今ではもはや影も形もないほどに出演がなくなったキャラクターたちが出てきてくれるし、チビ悟空の声も若くてハリのある感じ。誰が見ても懐かしいと思う映画だ。ドラゴンボールの映画がここから始まったんだなーって思うと、やっぱりファンとしては感慨深いものがある。そのためか、2006年、2009年とDVD化されたりもしていて、ドラゴンボールがいつまで経っても不動の人気であることがよくわかるだろう。
序盤の展開が、まさに初期のドラゴンボールのダイジェストになっているのがいいところで、あーそうだよねーこんなことあったわーって復習になるのと、初期メンバーでわちゃわちゃしていた週刊少年ジャンプの雰囲気を味わえるのが楽しい。
グルメが流行った時代
なんでグルメス王国という名前なのかと言うと、それはちょうどその時期はグルメが流行っていたから、ってことらしい。ちょうどミニスカとOLってのがブームになっていて、OLたちがランチに出かけてご飯を楽しむ風習は、このあたりに生まれたんだろう。ダイアナさんが来日したりして、ファッションとか女の人の楽しみがぐっと深まったあたりみたいだ。流行を忘れないドラゴンボール。どの映画・アニメでもタイムリーに何かしら加えてくる、鳥山明さんのユーモアだろう。
グルメス王国では、グルメス大王が君臨。国内から掘り出されるリッチストーンのおかげで上層部の財政は潤いまくり。苦労するのはいつも村人。大切な土地・畑・森が荒らされて疲弊し、王城だけが守られる。その中でグルメス大王は、常に美味しいものを食べ続けないといけない病気のような状態になっていた。昨日よりおいしい物じゃないと体が受け付けない…いったいどんな病気だよ…そのせいで、むしろ飢餓なの?というような状態のグルメス大王。もはやドラゴンボールに願いを叶えてもらうしかあるまい…そこで悟空たちとの争いになるのだ。
今作でのヒロインはパンジ。村の森を以前のような豊かな森にしたいという願いから、武天老師を探す旅に出て、ドラゴンボールを探す悟空たちと合流するのである。
もはやこのグルメス大王は時代の風刺に近い。まさに、おいしいものが食べたいと金を払い、グルメにのめり込む人って本当に幸せなの?と言っているかのよう。実際パンジの願いがかなえられたとき、グルメス大王は人間だったころの姿に戻り、ただのリンゴが本当においしいを思えるようになってしまうのだから。鳥山さんには、グルメにハマる人がグルメス大王みたいに醜いものに見えていたのかもしれないね。
このころのドラゴンボールはギャグテイスト
本当に初期のドラゴンボールは、ギャグ多めなんだよね。シリアスな、世界を救う・宇宙を救う話ではなくて、悟空という不思議な強さを持つ少年が、ブルマとドラゴンボールを探しながら、邪魔する悪党どもと闘いを繰り広げる、単純な漫画だった。まさにジャンプらしく、パフパフされたくてたまらないカメ仙人のじっちゃんや、恋人がほしいからとドラゴンボールを使おうとするお嬢様なブルマ、私利私欲に走りがちなヤムチャ一行などなど…悟空も純真無垢で、見た目も小さくてかわいらしいんだよね。ド田舎から出てきたせいで、常識が通じない悟空。型破りな行動と、型破りな強さがギャップになってて、好きだった。初期のころのドラゴンボールの単行本は、相当読んだ記憶がある。ピッコロ編くらいまではまだ許せたんだけどな…以降、大きくなって死んだり生き返ったりするようになったドラゴンボールは、最強をいかにして極めていくか、という話になって壮大な宇宙も巻き込む展開へと変わっていったからね。最新ではなんと宇宙同士が死闘を繰り広げ、負けたら宇宙ごと焼失するという規模がまったくおかしいバトルロワイヤルを繰り広げている。しかも、そのゲームを始めたのは悟空が宇宙を統べるトップの王様と仲良くなって、デスゲームにしちゃったっていう流れだから…純真無垢だったころの悟空が好きだった自分としては、もうだいぶ手の届かないところに悟空が行ってしまった気がしてならないよ。だってほぼ悪役じゃん…遅かれ早かれ生産性のない宇宙は消される運命だったとはいえ、悟空がおっぱじめてしまって悪者になっているストーリーなんて、できれば見たくないよ。
ということで、この映画のほのぼの感、ラスボスのくせに強いのか弱いのかわからない、くだらなさが好きなんだわ。
まだまだ最強ではなかったからこその輝き
一番いいのは、悟空がまだ全然最強ではないということ。むしろ世の中にはたくさんの強い人がいて、そんな人たちと戦ってみたい…!と思っている、かわいい男の子だ。強くなるために修行して、がんばって、じっちゃんに褒めてもらいたい。だからがんばり続けられるんだ。そう言ってた悟空が、いつの間にか父になり、おじいちゃんになり、それでもまだ宇宙をまたにかけてバトルばっかりしているっていうんだからびっくり。最強でなかったからこそ、ピンチもあって、大逆転もあって、最後はちょっぴり嬉しくなるようないい話がある。それがいいところ。
今作では、本編でピラフが願いをいよいよ叶えようとしたまさにそのとき、ウーロンが「ギャルのパンティおくれー!」と叫んだストーリーとよく似た展開となっている。腹の中にドラゴンボールを集めてしまったグルメス大王。そこで外からパンジが願い事を叶えてほしいと叫び、無事平和的解決がなされるという流れだ。詰めの甘い敵が多くてかわいい。一番がんばっていたのはボンゴ。パスタはナイスバディだっただけだ。
何度でも見に来る
短い映画の中で、ドラゴンボール初期の総集編を楽しみつつ、その時代の流行りを若干ディスった感じの大王を倒すストーリー。2000年代以降に生まれた世代であっても十分に楽しめる内容になっているはずだ。ドラゴンボールが好きなら、単行本の10巻くらいまでをまさか読んでいないなんてことは…ないよね?あそこくらいまでが一番いいんだからね?一つの区切りがつくあの時までが孫悟空の大きなターニングポイントになっているんだからね?読んでない人はまずその単行本を読んで、この映画を観て、ちゃんと「こうやってドラゴンボールは作られた」っていうシーンを覚えておいてもらいたい。割とこの映画に関しては、よくまとまっているから好き、と答えるファンが多いし、やっぱりおもしろいんだと思う。時代が経過しても、受け入れられる漫画ってすごいよね。自分としても、たまには戻ってきて、また楽しむだろうし。何回でも読めちゃうのって、ツボの抑えどころが相当うまいってことなんだと思う。鳥山さん、最強だ。
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