七つ屋 志のぶの宝石匣(1~4巻)を読んだ感想 - 七つ屋 志のぶの宝石匣の感想

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七つ屋 志のぶの宝石匣

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演出
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感想数
1
読んだ人
1

七つ屋 志のぶの宝石匣(1~4巻)を読んだ感想

4.44.4
画力
4.0
ストーリー
4.0
キャラクター
5.0
設定
4.5
演出
4.5

目次

テーマは宝石・質屋という非日常的な世界

この漫画の主なテーマは、宝石や質屋という日常生活ではあまり馴染みがない世界です。気軽にいろいろ手に取ったり、おいそれと立ち入ったりすることのない、わたしたち(わたしだけ?)があまり知らない事柄がいっぱい出て来ます。特に宝石などは、男性にはあまり興味が持てない世界かもしれませんね。でも、作者の二ノ宮知子先生は、これらの事柄や非日常的な世界さえ上手く面白く処理し、一般の読者にも身近な世界へと引き寄せてくれています。書店ではじめて目にしたとき、宝石には興味があるけれど質屋はちょっと・・・と思い、まずはさらっと立ち読みだけにしようと思っていました。ただ、いざ読み始めると、知的好奇心をくすぐる宝石・質屋ネタの数々や、何より二ノ宮節が炸裂した主人公らの魅力にグイグイと引き込まれ、気が付けば数話読了後にレジで精算を済ませていました。宝石の薀蓄などが好きな方はもちろんのこと、宝石に馴染みのない方でも十分に楽しめ、読了後はそれなりに語れるくらいの知識が自然と身につくと思いました。基本的にはマニアック過ぎず、ほどよい感じでスラスラっと読めるのがとても良いです。カバーの折り返し部分に、その巻で登場する宝石のカラー写真が掲載されているのも、心憎い配慮だと思います(この点、のだめカンタービレの時はちょっと苦労した記憶があるので、わたしにとってはとてもありがたい改善です)。その一方で、ダイヤやルビーほど知名度が高くない宝石や聞いたこともないような鉱物の名前が話の流れを妨げない感じでさりげなく登場するのも良いです。入念な取材に裏打ちされていると感じる記述がそこかしこに現れ、読み物としても表層的でない深みを感じます。他の作品についても言えることですが、今回もご自身の専門分野とは言い難いジャンルを開拓して、大胆に話を展開させていく二ノ宮先生のバイタリティには、いつも驚かされます。宝石の質入れについては、わたし自身は経験がないのですが、経験のある知人によると、この漫画に出てくるネタは実務を踏まえたよくできた話になっているとのことでした。宝石のみにスポットをあてると、まかりまちがえばただのノウハウ漫画になってしまうおそれもあったのに、併せて質屋も取り上げて独特のリズム感を出しているのは、テーマ構成として秀逸だと思います。少し残念だなと思うのは、宝石を取り扱った漫画なのに、カラーで見ることができないというところでしょうか。宝石の煌めき感は、たとえ二ノ宮先生のような画力のある方でも、やはりカラーでないと十分には引き出すことができないと感じました。今後の期待という意味では、アンティークジュエリーをもっととりあげてほしいところです。宝石のカッティングについては、日々技術が進歩し、新たなものが次々と生み出されていて、この漫画でもカッティングの話が取り上げられています。ただ、レトロで懐古的なデザインもまた魅力があり、さらに物語の深みを増してくれるものと信じています。

のだめカンタービレなど過去の作品とくらべて

のだめカンタービレでクラシック音楽、87CLOCKERS でコンピュータ、そしてこの作品では宝石や質屋の世界と、扱われたテーマはまたまたガラっと変わりました。ただ、のだめカンタービレなどと同様、この作品でも、不思議ちゃん系のヒロインとイケメンで才気あふれるヒーローの取り合わせで喜怒哀楽の物語が展開していきます。なにぶんニッチなテーマなので、読み始める前には、どんなトリッキーな作品なのだろうとも思わせられますが、基本的には、のだめカンタービレと同じ流れの中にいる作品かと思います。読者の想像のちょっと斜め上を行く感じで、良い意味で期待を裏切るといいますか。芸人でいうところの芸風というか、この二ノ宮節が作者の安定感や読者の安心感にもつながっているのでしょう。最終的にはこの物語もハッピーエンドで終わると予感していますし、現にそうなることを願ってもいます。ただ、作家としての色がついてしまうことは否めず、ともすれば飽きにもつながるおそれがあるようにも感じます。のだめカンタービレとちょっと違うとな感じるのは、ぶっとんだりとんがったりした登場人物のキャラが、この作品ではかなりマイルドになっているように思えるところです。ヒロインの志のぶは、ハッチャけたり浮世離れすることもないごくごく普通の子にも見えますし、髪型や服装もリアルな世界にいる同世代の方のものと変わりありません。その落ち着いた佇まいには、のだめよりも親近感が持てます。この点、のだめカンタービレ連載時からはすでに10数年も経っており、二ノ宮先生が円熟期に入ったことも影響しているのかなとも思いました。また、お子様も生まれてお母さんになったことも何らかの影響があるのかもしれません。

ストーリー展開

不思議ちゃん系のヒロインとイケメンで才気あふれるヒーローの取り合わせがのだめカンタービレとほぼ同じなためか、ストーリー展開は少しパターン化してしまっているようにも思われます。ただ、いくつもの「謎」が散りばめられていて、冒頭から一気に読者を物語の中に引き込み飽きさせないのは、つかみ上手なストーリーテラーである二ノ宮先生の真骨頂といったところでしょうか。幼い頃に質入れされた顕定、質流れしたら婚約成立する志のぶ、気が淀んだ宝石を浄化する力がある(と志のぶには思える)鷹臣など、ミステリアスな登場人物が織りなす日々のやりとりの中で、様々な事件の端緒となる数々の宝石を巧みに登場させるなど、伏線の敷き方がとても絶妙で、今後の展開を期待して読み進めることができます。もちろん、この2人がどのような恋愛関係に発展していくかも気になるところです(ハッピーエンドだとは思いますが)。謎めいてはいるものの、ストーリーラインはスッキリとしていて癖がないので、一気にサラサラと読めるのも魅力だと感じました。 ただ、人によっては、インパクトや抑揚に欠け、このままズルズル行ってしまうことを懸念するという方もいるかもしれません。さらに、物語ではほぼ1話完結の小さな謎と数話(最終巻まで?)に渡る大きな謎があるのですが、全体が謎めいたまままだと、ちょっと話に入り込めないという方もいるかもしれません。この点は、私も多少居心地の悪さを感じているので、メリハリとリズム感を持たせた展開に期待したいところです。また、質屋が舞台であることから、必ずしも明るいことばかりというわけにもいかず、質流れなどといった不幸な場面も登場します。ただ、ネガティブな場面も持ち前の明るい画風や何らかの光明が見えるストーリー展開でうまくカバーし、読者に不快感を持たせないように仕上げられているのも二ノ宮先生の技量が存分に発揮されているからかと思います。難を言えば、雑誌への掲載頻度が少ないことでしょうか(3か月に1回ほど)。まだまだ謎が深くて、これからどうなるのか楽しみではあるものの、読後あまり間が空いてしまうと、次に読んだ時に前の内容が曖昧になって話の流れが追いづらくなってしまいます。二ノ宮先生はどちらかと言えばスロースターターで、あとになるほどより面白くなるタイプの作家さんだと個人的には思っています。あまり間延びせず、心地よい期待感を持ちながら読み続けられるよう、今後のご活躍とストーリー展開に期待したいところです。

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