土佐の伝統の琴を廻る女性たちの物語 - 一絃の琴の感想

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一絃の琴

4.504.50
映像
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脚本
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キャスト
4.50
音楽
3.50
演出
4.50
感想数
1
観た人
1

土佐の伝統の琴を廻る女性たちの物語

4.54.5
映像
3.5
脚本
4.5
キャスト
4.5
音楽
3.5
演出
4.5

目次

粛々としたしきたりの中で生きる人々

ドラマをみたきっかけは、ドラマの内容がというより主演の田中美里さんがとても好きだったという単純明解な動機でした。今見直すと、皆さんお若い!原作は宮尾登美子さんの「一絃の琴」です。明治維新の後の混沌とした、しかしまだ幕府の頃の風習と文明開化を推し進める新政府のごちゃ混ぜになった時代の物語です。中央からは遠く離れている土佐、明治維新の立役者を多く輩出したところでもあります。

主人公は二人の女性の生涯

一弦の琴の主人公は二人の女性です。一弦琴の先生をしている市橋苗と弟子の蘭子です。一度嫁いだものの実家に出戻った苗は、妹が出産のとき亡くなった後添いとして再婚します。再婚先の夫は弁護士で苗の塾への理解も深く幸せな再婚をしています。私は一弦琴の伝承を巡ってやがて袂を分かつ師匠と弟子のエピソードよりも、愛情に恵まれず傷ついた最初の結婚生活から出戻った後、一弦琴を支持していた師匠有伯への淡い思慕、一弦琴作りでは名人の紋の助との交流など好きです。 実家でも肩身が狭く唯一の心の支えになっていった一弦琴、一途な師匠との交流にじれったい!とイライラしつつも先がどうなるのか気になって仕方ありませんでした。

師匠との別れと再婚

結局師匠とは師弟関係を超えることはできませんが、苗の一弦琴への根源的な部分へ大きな影響を与えていると思います。妹が出産でなくなり、後添いで二度目の夫のところへ嫁ぎますが苗は身ごもることができませんでした。妹が出産していたことから、不妊の原因は自分にあるとかた婚家で肩身の狭い思いをしていきます。苗は夫や舅、姑にも良く使え周囲からは評判の奥方であるものの、やはり心の底で暗い思いを抱えています。苗の暗い思いは作品を通じて描写されていて、私の好きな明るいキャラクターの田中美里さんとは全く違いました。しかし、女性として子供を授かれない負い目や後継ぎを生まない女への周囲の目など当時のことがよく描かれています。

一弦琴の普及と弟子たち

子供に恵まれない苗は、一弦琴の塾で良家の子女を教育しています。ここでも自分に子供いないことで「跡目」の問題が取りざたされてきます。苗自身は才能を認めた娘がいるのですが、貧乏士族の娘雅美。自分と同じ一弦琴の感性を持ちふたりといない逸材と認めています。一方で有力者の娘の蘭子は、一弦琴の実力も高く大変な美少女です。ただし苗の根源にある一弦琴の「寂」を理解しておらず華やかで派手な解釈の持ち主です。苗には一弦琴の本来の姿を歪めてしまうと危惧していました。 雅美は才能があるものの、階級社会の名残で貧乏な家に生まれ育ちつつましすぎる女性で、蘭子の華やかな容姿、一弦琴は少々鼻持ちならない傲慢なところが見え隠れ(隠れてない気もしますが)します。女同士のバトルでは元々の立ち位置に格差があり、どうしたって雅美に勝ち目が見いだせず「形成逆転の痛快さを期待しつつ」物語は進んでいきました。

後継問題に揺れる一弦琴の塾

やがて塾は後継者問題が大きくなっていきます。心では貧乏氏族の娘雅美と思っているものの、ジル両者の親を持つ蘭子は塾の生徒たちや親たちからも支持を得てしまっています。そんな折、蘭子が雅美の親友雪江が、芸妓に身を落としたことをネタに雅美を謹慎処分に追い込みます。真相は薄々感じていたものの、処分をしないと収まらないと苗は雅美に謹慎を申しつけざるを得ませんでした。塾の後援者たちの跡目を蘭子にという声は一層強くなっていく中、蘭子は苗の夫に思いを寄せていて三角関係の雰囲気も出ています。このあたりでは一弦琴の後継者だけでなく、子供のいない苗が若い蘭子に夫を略奪されるのではないかと、ヒヤヒヤしながら見ていました。一弦琴の名器「丸紋の琴」についても、蘭子が財力を縦に強引に手に入れようとして苗と対立したり、このお二人の衝突は水面下でヒートアップしていきます。

苦労ばかりの人ではなかった!苗

賢婦人と評判の苗は表の顔で隠しつつ、自分の塾のことなのに、自由にならない後継者問題の反撃に出ます。裏で後継者にする赤ん坊を探してもらい養子の準備をしつつ、弟子や関係者には内密で雅美に師匠から伝授された秘曲の「残月」を伝えます。雅美は期待に応えに弾きこなせるようになります。一方で、塾の生徒達を集め密かに養子にした跡取りを披露します。誰もが蘭子だと疑わなかった中、蘭子はショックを受け塾を去ります。

苗の決断と一弦琴の衰退、その後の蘭子

時は流れて、蘭子はエリート銀行員の夫と結婚し日本各地を転勤、転勤で過ごします。その後夫に先立たれた蘭子は高知に戻ってきていました。このころ一弦琴は、土佐の人々にさえ忘れ去られた存在となっていました。苗は時代を読んでいたのか、養子に迎えた稲子に才能がないと判断したのか結局後継者として披露したものの稲子に一弦琴を教えることはせず塾は一代限りで閉めてしまいました。未亡人となった蘭子は苗と同じく子供はできず、華道の師範免許で生計を立てようと試みますが元々プライドの高い蘭子は弟子とはうまくいっていません。そんな時に、稲子に紹介された地元の放送局から一弦琴の演奏依頼が舞い込みます。

人間国宝となる蘭子

「残月」の伝承者の雅美は戦災に合い行方知れず、塾で実力のあった蘭子にお鉢が回ってきたことがきっかけになり、蘭子の一弦琴の演奏が評判を得ます。今では名家へ嫁いだ稲子から苗の遺品の楽譜を譲り受け「残月」の演奏にも挑戦し一弦琴の第一人者になります。また、塾生だった当時苗に戒められた名器の「丸紋の琴」も入手します。やがて人間国宝になった蘭子もまた、後継者を育てないままこの世を去ります。一弦琴を巡って、名声を手に入れながら後継者を持たず廃れるがままにして世を去る女性が二人という終わり方です。子供を産み育て家を反映させる礎になる女性、という女性観とは異なり努力してその地位に上り詰めながらぬぐい切れない「寂」にとらわれて生きた苗と、有力者の家に生まれ欲しいものは手に入れてきた蘭子の挫折と、自分を選ばなかった師匠への意地を通した蘭子の二人の物語でした。

それぞれの結末がひとまとめにできない

苗の場合は、後継者にした養子が才能がなかったのか、普通の女性としての幸福を選ばせたのかはわかりません。名家に嫁ぎ何の苦労もなさそうな養子の稲子は、この物語の登場人物の女性としては救いになる存在かもしれません。苗は、子供ができないことで婚家への罪悪感を抱えまま一弦琴の世界では名声を得るものの、いつまでたってもどこか陰のある女性で、とても成功して幸せそうな女性とは写りませんでした。窮屈そうな時代に生きた女性のひとりだと思います。近代化が進み女性もやや世の中での活動が許されてきた時代に生きたのが蘭子、雅美、稲子。人間国宝という苗の偉業以上に栄誉を受けた蘭子も、塾生時代まではなんの不自由もない我儘で美しいお嬢でしたが後継者問題では挫折。結婚後はエリート銀行員の妻として一弦琴からは遠い世界で生活していましたが、夫の死とともに生計のために弟子を取らざるを得ずという乱気流の中のような生涯といえます。才能を認められていた雅美にいたっては、行方知れずとこの中では一番浮かばれない人物になってしまいました。苗、蘭子ともにどちらも後継者を残さず一代限りと潔さを感じますが、「幸せな一生を送りました」と締めくくれないのが後味の悪さに繋がってしまいましたが、むやみにハッピーエンド!でないところが私はよかったと思います。

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