みんな、自分が大好きで、大嫌い。 - クズの本懐の感想

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クズの本懐

4.134.13
画力
4.25
ストーリー
4.50
キャラクター
4.25
設定
3.88
演出
3.75
感想数
4
読んだ人
7

みんな、自分が大好きで、大嫌い。

5.05.0
画力
5.0
ストーリー
5.0
キャラクター
5.0
設定
5.0
演出
5.0

目次

「普通じゃない関係」に潜む、重要なこと

メインキャラクターである粟屋麦と安楽岡花火の「普通じゃない関係」がこの物語の主軸になっているのは、言うまでもない。そこが『クズの本懐』の、他の漫画と違う大きな点であったし、1巻を読む手が止まらなくなる要因でもある。

しかし、この「普通じゃない関係」に、ここまで胸が締め付けられるとは、1巻を読み進めている途中の読者に想像ができただろうか。できなかったはずだ。少なくとも私は、できなかった。

物語の前半を読み進めているときに私が考えていたことを正直に記すと、「まあなんやかんやで麦と花子がくっついて終わるんだろ」という陳腐な想像だった。もちろん、だからといってつまらないと思っていたわけではない。恋愛の絡む話の面白さ、深さはその過程にあると思っているので、結果そうなるとしてもその過程に興味があった。しかし、実際最後まで読み切ったとき、その安易な想像を悔やむ羽目になった。

自分の想い人を目の前の相手に投影して代わりとした麦と花火の二人。それがこの物語の主軸だと、最初に記した。しかし、その設定を、おそらく、私を含めた多くの読者が甘く考えていたのではないかと思う。その関係性を「物語の進行の主軸となる要素だ」と、「目を引く、アブノーマルな設定だ」と、簡単に考えすぎていた。

最後まで読んだとき、痛感した。

この二人は、こうでなくてはならなかったし、こうであったからこそ、苦しんで、そして、最後には前を向けたのだ。

そのことが、本当に、苦しくて、切なくて、そして美しかった。

隠れたメインキャラクター

麦と花火、そしてその二人を取り巻く人々の変化に伴って揺れ動く二人の心。それがこの物語を進行させて、私たちを虜にした。

しかし、すべてを読み終わった後に、「あれっ」と思った方は多かったのではと思う。

立ち位置としては「主人公」ではなかったはずのキャラクターであるのに、その性質が初登場とラストで大きく変化し、そしてそれが私たちの心を大きく動かしたキャラクターが一人いたのだ。

麦の想い人の「皆川茜」である。

自分に好意を向けてくる相手を次から次へとつまみ食いして、自らの価値を確認し続けていた彼女は、花火の想い人である「鐘井鳴海」にも手を出したことによって、その価値観に大きな変化を起こす。「自分の容姿が良いこと」「身体の“具合い”が良いこと」などにのみ自信を持っていた彼女は、自分の本性が露わになっても自分に好意を向けてくる鐘井のことが理解できなかった。そして、その真っ直ぐな好意によって、自分の、自分に対する「他人事な気持ち」以外の、自分の価値を見つけようとする必死さに気付くこととなるのだ。その心情の変化が、ふとした瞬間の“気付き”が、私たち読者の心を大きく震わせた。

そして、ふと物語の進行を思い返すと、この物語は皆川が中心に回るパートがほとんどであったことに気付く。

皆川の行いを知った花火がそれに対抗意識を燃やし、男を思い通りに動かす快感を覚えてしまうパートがあった。

明らかに自分の知っている皆川ではなくなってしまったのを見て、麦が「変わってしまう前の貴方が、俺は好きだったから」と、心中を泣きながら吐露するシーンがあった。

主人公である二人の心情を大きく揺さぶり物語に深みを出し、さらに、自信の心情の変化によって私たち読者にため息をつかせた。

皆川茜、という存在が、この物語の中心に、隠れながら、それでいて堂々と立っていたことに、私は全巻を読破した後に気付いたのだった。

クズの本懐

ところで、みなさんは『本懐』という言葉の意味をご存じだろうか。

簡単に言うと、『本当の狙い、本当の願い』という意味だ。「クズの本懐」と言われると、本を読み慣れた方であれば「クズの(心に隠した)本当の狙い」というような捉え方をついついしてしまうと思う。私も、そうだった。

しかし、その意味は、「本当の願い」という方にあったのだと思う。

主人公二人の想い人であった皆川と鐘井の結婚が決まり、二人の虚しい足掻きと、その契約が完全に白紙に戻ったとき、ようやく二人は本音で語り合うことができた。

最終話のモノローグに、こうある。

『私たちは、誰もが持ち得る孤独の穴に相手を招き入れて、ずっとそれから逃れようとしていたのだから』

このモノローグに、この物語のすべてが詰まっていると私は思った。

誰もが他人には言えないような、言葉に出来ない感情を胸の内にしまっていて、それはとても醜く、しかし自分の中ではとても重要な何かなのだと思う。そして、それは決して他人とは本当の意味で共有することはできないのだ。

この物語では、自分の中にある『醜い部分』にずっと触れずにいたキャラクターたちが、恋という大きな障壁をきっかけに、苦しんで、そして、少しだけ前を向いた。彼らは苦しみながら『想い人』という他人を見つめて、そこから『自分を』見た。

私はこの漫画を読んで、『他人を通して自分を見つめることで、自分の弱さを乗り越えられる』と、そう言われたような気がした。そして、自分の弱さを乗り越えることで、初めて、『自分の本当に求めているものを見つける』ことができるのかもしれない。

結果として、私たち読者は麦や花火の『本懐』を知ることはできなかった。

それは、麦や花火が、これからの彼らの人生で見つけてゆくことなのだろう。

この漫画を読んだ私たちも同じである。私たちの人生の本懐について、深く考えることとなった。そして、それをこれからの人生で知るのだ。

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他のレビュアーの感想・評価

現代のリアルな恋愛模様。し

有り得ないようで有り得る設定教師と生徒。非現実のような設定だけど、幼馴染だったり、家庭教師の先生だったり、身近に有り得るリアルな設定がより感情移入しやすくしていると思います。手の届かない恋愛をしてしまう、出来てしまうのが高校生らしくもあり、ここにもリアリティーが。憧れと恋の間で揺れている描写も見事。その上、同性を好きになってしまう、という現代だからこそリアリティを生み出す設定にまた惹かれてしまいます。クズ達のクズたる所以。リアルなのは設定だけじゃなく感情の動きも。漫画に描かれる恋愛って純粋で一途で甘酸っぱくなるようなものばかり。だけど現実ってそう甘くないですよね。私自身もそうでした。苦い思いのほうが遥かに多い。その苦味を満遍なく細かく描写されている所がとても魅力的です。茜のアバズレ感、花火のクズ感が現実的すぎて。特に自分から誘っておきながら相手から誘われたようなあの振る舞いは世の女性誰...この感想を読む

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  • 2024文字

心の内側を描いた作品

クズの本懐は本来人の持つ醜い部分や感情が良く描かれています。一見、青春物語のように見えますが全く違います。一人一人が其々の想いや悩みを持ち、其れが複雑に絡み合ってきます。主人公である、安楽岡さんと、麦との関係は人なら一度は考えた事があるであろう付き合いが刹那にも美しく物語られていて、読んでいて胸を締め付けられるような感覚になりました。大好きな兄の影を麦に重ね、麦も安楽岡さんに大好きな家庭教師のお姉さんを重ね、歪な愛がふとしたキッカケから、お互いになくてはならない存在になって行くのも良く考えられた作品だなと思いました。クズの本懐に出てくる人は行動こそクズですが、本当はとても人間らしく、愛すべき人の醜さでもあります。弱さ、強さ、儚さ、葛藤。この作品からはその様な心に語りかけてくるメッセージがとても含まれています。私達が生きることとは?愛とは?好きとは?クズの本懐は私達が大人につれ忘れて行く...この感想を読む

4.54.5
  • ayumiayumi
  • 67view
  • 523文字

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