分かりにくい優しさに惹かれるライナス - Under the Roseの感想

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Under the Rose

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分かりにくい優しさに惹かれるライナス

4.54.5
画力
5.0
ストーリー
5.0
キャラクター
5.0
設定
4.5
演出
4.5

目次

一巻半で主役を退いたライナスが人気の理由

四、五巻あたりで、キャラクターの人気投票が行われて、六巻の表紙にに、上位二人が描かれている。一位はライナス、二位はウィル。ウィルは主要人物だが、ライナスは一巻と半分くらい出ばった後は、寄宿舎のある学校に行ってしまい、舞台の屋敷には、あまり帰ってこない、脇キャラになった。にも関わらず、脇キャラになって二年くらい経っても、一位に君臨するほど人気があるのが不思議だ。たしかに、個人的にも、一、二を争うくらい好きだし、たまに出てくると、胸が躍るし、本編ででない代わりに、最後のおまけの漫画で、寄宿舎での生活の様子が覗けるのは楽しい。が、よくよく考えると、粗暴だし口も悪いし、弟には冷たいし、馬を撃ち殺すし、兄弟も暴行するし銃を向けるし、大人を貶めようとするし、父親を脅すし、父親まで銃で撃ってしまうしと、かなりの問題児で、かわいげがない、というか、狂気めいていて、恐いくらいだ。にも関わらず、惹かれてしまう。部屋つきの侍女のように「本当はお優しいんですね」と思い、見ていると、微笑ましくなる。なぜなのか。

悪意を隠すのに優しいふりをするように、優しさを隠すために悪意があるふりをする

新しい家庭教師に、アーサーはライナスのことを、こう説明している。「賢すぎるのです」「理屈と先入観で自分の感情すら見失ってしまう」。生い立ちから、賢くなりすぎたのも、また「大人は汚い」との先入観なしに、人を見れなくなったのも、しかたないと思う。ライナスの母親、グレースは、美貌と明るい人柄、詩の才能があることで、男性を虜にしていた。なので、ライナスは婚外子と冷たい目で見られて、辛い思いをしたという以上に、そういう言い寄ってくる男性らから、身を守るのに必死だったと考えられる。

これは想像だが、なにかと親切でかわいがってくれる男性がいた。はじめは、素直に懐いたものの、あとになって、グレースの気を引くために利用されただけで、利用価値がなくなったと見なされるや、冷たく突きはなされた。もし、こんな経験をしたら、そりゃあ、アーサーのように、見るからに優しそうな人でも、疑いの目をむけないでいられないし、試すようなこともしたくなる。

あと、男性に触られるのを、いやがっているからに、グレースの代わりとして、色目を使われたことがあるのかもしれない。そして、ライナスが被害を訴えても、婚外子だから、かろんじられて、むしろ、手をだした相手が、位が高いうえに、ずる賢くもたちまわって「子供のたちの悪いいたずらの被害者」として擁護された。これまた、こんな経験をしたら、悪巧みする大人より、悪知恵を働かせないことには、大人に貶められるまえに、大人を貶めないと、子供の自分には、太刀打ちできないと考えるのも、やはり、しかたないことだ。

そういて、自己防衛本能を剥きだしにして、ハリネズミのようになったライナスだが、あっさり部屋つきの侍女に騙される。ということは、さんざんいやな思いや経験をしたにも関わらず、まだ懲りないほど、お人よしだということだ。

血がつながっていないのに、一番父親に似ているライナス

アーサーへの発砲事件後、屋敷をはなれたライナスは、負い目があるからか、大人しくなったように思える。ドイツ語ができないふりをして、グレゴリーの顔をたてようとしたり、ひそかに夜に勉強して、学校に入れてくれたアンナの顔をつぶさないため、主席をとろうとしたり。庶子として弁え、他の子供に配慮をし、人の厚意に義理堅く応えようとする姿は、屋敷にきたころから比べれば見違えるようだ。と、みえて、はじめから、その姿勢は変わっていないように思う。

もし、本当に人を騙し、自分の便宜をはかろうとしていたなら、アルバートのいうように、自立できるまで、いい子を演じて、もらえるものをもらっておけばいい。そうしなかったのは、皆を騙したくなかったから、だろう。血のつながりがないにもかかわらず、血を分けた兄弟と疑わせないで、優しさを引きだすのに、抵抗があったのだ。人に騙されて痛い目にあっただけに、そんないやな人間のように、なりたくないとの思いも、おそらくあった。だから、血を分けた兄弟だと嘘をついて、優しくされるようなことは、絶対にしたくなかった。そして「どうして、血のつながりのない子供と、兄弟として暮らさなければならないのだ」と、本来は持つ不満や怒りを、相手に抱かせようとした。馬を殺す、暴力をふるうなど、相手を傷つけているようで、傷つけることで、相手に誠実でいようとしたとも考えられる。ロレンスをつきはなしたのも、自分とちがい、血のつながりのある弟の将来を思いやってのこと、グレースに残酷な手紙を送ったのも、貴族として没落した祖父を、見捨てたくないとの決意を表してのことなのかもしれない。

ライナスがお人よしで、義理堅いのは、この話の十年後くらいの話「ハニーローズ」で如実になる。大人になったライナスは、問題児だったのが嘘のように、愛想も人当たりもよく、物腰が柔らかい。といって、注目すべきは、性格がよくなったことではなく、父親のサーサーの生き写しのようにふるまっていることだ。血がつながっていないのに、兄弟のなかで一番、アーサーに似ている。おそらく、意図して、似せたのだと思う。誰でも優しかったアーサーの死は、身内や親戚だけでなく、屋敷の階下の者にも、おおきい悲しみを与えた。アーサーは他の貴族とちがい、階下の者を優遇していたから、悲しみもありつつ、これからどうなるだろうと、不安にもなったのだろう。そんなアーサーを失った穴を、ライナスが埋めようとしたのだと思う。

血のつながりがないことの、後ろめたさ、肩身の狭さを、さんざん味わってきたのだから、大人になって自立できたなら、屋敷からはなれ、関わらないようにしたいと思うところだ。すくなくとも、自分なら心苦しいのがいやで、逃げだすと思う。でも、ライナスは「父親に似ている」と言われるたびに、おそらく、胸を痛めながらも、アーサーのように階下の者に笑いかけつづけた。その健気さも、優しさも、もしかたしたら、アーサーより懐の深いものなのかもしれない。



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