マッハ!弐を失敗作と言うなかれ
マッハ!弐の世間的評価とは
アクション映画好きならば、誰もがそのタイトルに聞き覚えがある、と私は思っています「マッハ!」。
タイアクション映画のビッグバンとも言われるその傑作の続編として制作されたのがこの「マッハ!弐」です。
どう考えても名作になるであろうと言われたこの作品なわけですが、蓋を開けるとどうにも評判が芳しくない。
興行収入の方も当初の予想を下回り、結果、この作品と前後編になっている「マッハ!参」と共に所謂「失敗作」と世間で呼ばれるハメに。
主役と監督の揉め事などのネガティブなニュースもあいまって、今やこの作品へのポジティブな意見は少数派という状況になってしまいました。
しかしながら、本当に映画自体が失敗作なのでしょうか。
売上やスキャンダルが目を引くのは仕方ないですが、ここは一旦それらを脇に置いて私の話を聞いていただきたい。
失敗作なの?
先に結論を書きましょう。
私はこの作品を大変な良作だと考えています!
惜しむらくは諸々の事情で二つの作品に分けて公開してしまったこと。それさえなければ、この作品は名実共にトニー・ジャー主演作品の最高傑作になっていた筈なんです。
だがしかし!
その部分を差し引いても余りある魅力がこの「マッハ!弐」には詰まっている。詰まりすぎていると言ってもいい。
そう、詰まりすぎているわけなんです。この作品が失敗作扱いを受ける最大の原因が正にそこ!
本物を目指しすぎたアクション、しっかり作られた世界観、重厚なストーリー。
それらには一点の手抜きもない。けれどもそれらを全部盛り込まれた作品を見たときに観客の大半は感じてしまった・・・
爽快感がまるで無いと。
マッハ!で心を動かされた観客はトニーに再びあの爽快感と衝撃を求めたのでしょう。けれど、この映画はそれを目指して作られたものでは無かったのです。
失敗作扱いを受ける原因となったものがあるとしたら、それはこの認識のズレ。
これこそが最大にして唯一の原因であると私は考えています。
それでは何を目指していたの?
そんな事を書くと当然、じゃあ何を目指して作ったの?となりますよね。
アクション映画にアクションの爽快感以外の何を求めればいいのよ、何の為に闘っているんだと。
その疑問こそ、この映画の主題にあたる部分なのです!!
劇中、力を求める主人公ティンに恩師ブアは問います、何故力を求めるのか、と。
平和を願うからと答えるティン。アクション映画の主人公の王道とも言うべきその答えに更にブアは問い続ける・・・
ではどの武器を選ぶのか、どの力なら成し遂げられるのか。
これは大変な問い掛けです。それをいっちゃお終いとも言えるアクション映画のタブー。けれど言ってしまう。
それはこれが勧善懲悪の単純な作品ではなく、闘いの本質を問う事を目的としたストーリー重視の作品である証明であり、その宣言なのです!!
本作で、トニー演じるティンはムエタイだけでなく無数の武術を習得しています。
酔拳の様な体術や剣術、槍術、三節棍と言った武器を使った武術。まさに全てを使いこなす戦闘の神とも言うべき無双ぶり。しかし、物語のラストにティンは敗北してしまう。憎き仇の策略に嵌まって彼は第二の父をも失いました。
力を得ても、彼は平和を得られなかった。
ストーリーの結論自体はマッハ!参に持ち越されてしまう為、やや不完全燃焼感はありますがこの構成でも充分に投げかけるべきメッセージを届けていると思います。
アクション映画としての魅力も忘れていない!
さて、先に私はこれがトニー・ジャーの最高傑作ともなり得る作品であったと書きました、それはストーリーの為ばかりではないのです。むしろ、ストーリーを求めるあまり肝心のアクションが今ひとつと言うのでは話にならないわけでして。
この作品の素晴らしさはそれらのメッセージ性とストーリーを持ちながら、アクションも最高である部分にあります。
トニーが習得した各種の武術はどれも大変なハイクオリティ。
居合いの作法や間合いの取り方の美しさには驚かされたし、あんなに見事に三節棍を使いこなす人を見て血が沸き立たない筈ない。酔拳に関しては少しキレを出しすぎて、柳のような掴みどころの無さという酔拳の持ち味が失われいたものの、その肉体の躍動感はマッハ!の時よりも更に磨きがかかって見える程。
強く鮮烈で暴力的に美しい。そんなティンが敗北するからこそ、この作品は意味がある。
この映画に足りないのは爽快感。でも、それ以外の全てはここにある。
「マッハ!参」で救われるティン。その姿を見られない事へのストレスは我慢をしていただきたい。
「マッハ!弐」は、ティンが怒りと苦しみと平和への願いを抱えて走り抜けた、その証の物語。人間の生きた足跡なのです。
答えはこの作品ではまだ出ていない。けれどこうしてみれば失敗作ではないと言うことがおわかりいただける事でしょう。
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