アンティーク人形featエレベーターの恐怖と母の愛 - アナベル 死霊館の人形の感想

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アンティーク人形featエレベーターの恐怖と母の愛

3.03.0
映像
2.5
脚本
2.0
キャスト
2.5
音楽
2.5
演出
3.0

目次

アンティーク人形の恐怖

まずなぜこんなにも不気味な人形をプレゼントされて嬉しがっているのかあの若妻は。主人公夫妻の家には人形のコレクションが飾ってあるのだが、そこに追加された件のアンティーク人形は群を抜いて怖い。表情、白いがくすんだ肌の色、大きく見開いた眼、所有すれば何か起こる予兆しか感じないクオリティの人形なのである。そんなアンティーク人形をいわくつきのものにしてしまう、エピソードがまたエグい。カルト教団に狂酔した男女(隣家の娘とその恋人)が実の両親を殺害し、また主人公夫妻にも襲いかかってきた際に自殺を敢行、その際に抱きしめて血を滴らせてしまうのである。人形はすでに夫からプレゼントされていたものであり、そこに前記のエピソードが加わって邪悪なエネルギーの温床となってしまうわけだが、そう考えると夫妻にとっては同情のやまない必然であったとしか言いようがないのである。捨てても引越しの荷物に紛れて舞い戻ってくるアナベル人形の帰巣本能は夫妻を苦しめ、やがて恐怖のどん底へと導いていってしまう。日本人形にも独特の怖さというか不気味の悪さはあるが、海外のアンティーク人形が持つそれはまた違った意味でタチが悪く、とかくこういった映画で利用されると悪い印象として個人の中に残ってしまうから現実的にはある意味でかわいそうな面もある。アナベル人形は本シリーズで主人公となる悪魔祓い夫婦のいわくつきアイテムコレクションの中でも随一の存在感を放つ逸品であるため、これ単体でスピンオフとして描きその象徴性を高めたい思いが製作陣の中に芽生えるのは当然の流れであったろうか。シリーズファンであれば本作を観ておかなければ語り合う土台が脆くなってしまうことは請け合いであり、私はシリーズ一気見の流れの中でチェックした次第であった。

妙に怖く妙にしつこいエレベーターシーン

心機一転新しい生活を営もうと主人公夫妻が引っ越した先のアパートメントで恐怖現象は多発するのだが、中でもアパートメントのエレベーターを利用したシーンで私は本作のタチの悪さを感じた。こんなに暗くちゃ住民から大家に苦情が一発で入るであろう薄暗い空間の中で夫人を乗せたエレベーターは恐怖の上下動を繰り返し、また乳母車などの仕掛けも相まって当事者であれば悶絶して泡を吹くこと間違いなしの状況なのである。しかもこれがまたしつこい。そんなに繰り返す必要が果たしてこのシーンにあるのかと思わず考えてしまうほどに夫人を徹底的に追い込んでいくのだ。自分の部屋に早くたどり着きたい焦燥の中でそんな状況に見舞われるわけであるからこそ、強い気持ちを持って夫人も切り抜けようとするのであるが、相当な精神力がなければ正気を保ってはいられない場面であろう。邦画でも洋画でもホラーと呼ばれるジャンルでは度々舞台装置として利用されることのあるエレベーターであるが、ことそのエレベーターに的を絞って語り合う場合、本作は一見の価値ありとして議論の俎上に載せても良いクオリティを備えているのではないだろうか。近代的なエレベーター内のモニターや、カメラが切り替わる際に乗る人の後ろに影が映り込むとかいった、隠し味を加えた料理ではないのだから。まっすぐ直球で目的地に一向に返そうとせず、チンと開いたドアの向こうに見える世界で怖がらせてくるのである。暗がりの中にまっすぐ伸びる通路の向こうに目を遣るとき、そこにあるのは絶望以外の何ものでもないのである。

母の愛

邪悪で強大なエネルギーを称えることとなるアナベル人形と対峙し得たのは、旦那の頑張りなど微弱なもので、ひとえに母の愛が成せる業であったであろう。こういった状況では時に旦那は鈍感で動きが遅く、決定的な働きをできないように描かれる場合が多いのである。それはやはり母の愛の偉大さを描くうえでのコントラストとして利用されるからではないだろうか。本作で母の愛を披露してくれるのは主人公夫人だけではなく、最終的に救いの手を差し伸べてくれた新居の隣人である女性も含めてなのである。彼女は過去に娘を亡くした経験を持ち、その深い痛みと贖罪というか後悔の念を抱えながら今も生きている人であった。娘にいつか報いるためにもどこか自らの命を捧げる場面を探していた節があったのかもしれない。観客はクライマックスシーンで彼女が犠牲となる展開を目の当たりにして若干の困惑を覚えるかもしれないが、よくよく考えて母の愛の描写が一つの主題であったとすれば、その展開も自然な流れであったと納得できるかもしれない。かくいう私もホラーシリーズのしかもスピンオフ作品としてそこまで深い提起を期待してはいなかったのであるが、実際にそのように考えてみると心にズシンとくるものを少し感じずにはいられないのである。エンドロールを眺めながら見終わった映画に思いを馳せる中でそんなテーマ性があったのではないだろうかと思い至った記憶を今思い出している。アナベル人形の名前の由来となった親子の殺人事件まで含めてそこにあった母子の関係を想起するならば、本作だけで3名もの母のエネルギーが詰まった人形ということになるのである。しかもそれぞれに重厚なエピソードを抱えた母のエネルギーが。

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