「好き」の気持ちにはやはり2種類ある気がする
主人公が完全な龍になれるというファンタジー
人がドラゴンの末裔で…という話はありきたりだったはずなのに、まさか主人公、しかも女の子が完全な龍に変身ができるっていうのはなかなかないなーと思いました。たいてい、男の子のほうがドラゴンになり、普通の人間の女の子と結ばれるっていうストーリーが多いですからね。そして、ドラゴンの変身がとけたあと、シャクヤは真っ裸なわけです。ちょっと恥ずかしい…とは思わないのだろうか…誰も恥じらう人がいなかったので、まぁドラゴンに守られたオアシスでは当たり前のことなのでしょう。
大昔に人と龍が恋に落ち、人を守るオアシスをつくった。そこから、ケンカしないように代々5家から婿を選び、人と龍はお互いを支えて生きてきた…そういう設定の中で、龍の力ってどんどん弱体化していきそうな気がするんですけど、シャクヤはなぜかすごいチカラを持ってしまったらしいです。突然変異ってやつでしょうか。そのチカラのおかげで、誰かを助けることもできるし、誰かに利用されることも増えるわけです。たぐいまれなる能力を持つということは、難しいね。
そんなシャクヤの婚約者選びが物語のメインテーマになっています。小さなころから許嫁だと信じてきた相手を選ぶのか、本来は婚約者であったにもかかわらず行方不明となったことで除外された相手を選ぶのか。まさに「花わずらい」をするんですね。1巻の時点ではどちらに転んでもおかしくない気がしましたが…2巻以降はもうルシンしかないなー…って思いましたよ。
流れ的に絶対ルシンだろう
登場の仕方がまずド本命と言わざるを得なかったので。個人的には最後までゆるぎなくルシン派でした。憎まれ口をたたきながらも、どれだけ人に優しい人間であるかがひしひしと伝わるその行動。タラシキャラの本当の気持ち…というギャップが女心をくすぐります…!そして、好きな女の人に対してだけ発動されるのではなく、ライバルのクワンに対しても惜しみなく優しさが伝わる。クワンはこの時点で負けてるんですよね~。いい人なんだな…と心から思える性格でした。
シャクヤの龍の力が暴走してしまったときも、大切な人を傷つけてしまったときにも、龍の力が失われてしまいそうになったときも…いつでも助けてくれたのはルシンでしたね。あれだけ右手の甲にある薔薇の花が増えなければいいと願っていたのに、ドキドキは止められない。恋心に反応して増えるその入れ墨には、本当の気持ちが表れてしまう。どれだけ隠したとしても、バレてしまうんです。とっても便利。自分の気持ちがどちらに傾いているかなんて、最終的には花を見なくたってわかるんですけどね。だから最後、敢えて自分で花を描いた…このシーンは未来も見越している、何とも素敵な演出でした。今も、そしてこれからも…シャクヤが誰を愛するかは自分で決めていくんです。
物語の中では、最終巻になるまではそれほどスキンシップもないので…もっと見たかったなーという気はします。そしてできればルシンのルックスをもう少しかっこよくしてくれないかな…という願望もありつつ…。表紙や扉絵はすごくいいイラストなのに、作中はなんかかっこよくない。そしてシャクヤもなんかかわいくない…まいった。すごくいい話なのに。
クワンの悲しい道
クワンがですね、結局裏切り者なんです。そりゃー愛されませんて。番外編でものすごい後悔をしていたけど、本当にその通り。利用しようと思ってシャクヤに近づき、そして絶大な信頼も勝ち得ていたのに…普通に頼めばよかったんですよ…ってルピナ、その通りだよね!!つらいこと、悲しいことを乗り越えるために、シャクヤが協力してくれないはずがない。
クワンは、シャクヤが向けてくれる好意と、そのリンドウの花の数に胡坐をかいていたわけです。絶対に好かれている。だから利用できるって。失って初めて、それがどれだけ嬉しい事だったのかがわかってしまったクワン…。ちゃんとクワンもシャクヤのことを大好きになっていたというのにね。本当に残念なキャラだった…。
ただ、結ばれなかったとしても、クワンがシャクヤを大好きで、ルシンのことも認めていて、3人で笑いあえる終わりを迎えてくれたことはよかったです。後悔してももはや戻ってくるものではないけれど、やっとしがらみから解放されて、シャクヤと、ルシンと、心からの気持ちで生きていけるのですから。5年間服役している間に、シャクヤがすげーきれいになった…っていうのもまた…逃がした魚はでかすぎた。どこまでクワンが不憫でした。自業自得で後悔だらけ。それでもルシンが死んだら俺を婿に…って言ってるあたり、どこまでも諦めないつもりみたい。そんなせつないクワンにいつか誰かが恋してくれることを願ってやみません。シャクヤはルシンと結婚したからといって、何気なくスキンシップを取りそうだから怖い。実際やっちゃってたし…そんなんじゃルシンに嫌われちゃうよ?クワンがキープされることをいつか卒業してほしいものです。
シャクヤの気持ち
この「龍の花わずらい」では、好きだと思っていた人が、果たして本当に心から好きだと言える相手なのか?を考えさせ、女の子の2種類の「好き」の気持ちをみせてくれています。本当に誰かを愛する気持ちはどんなもの?そして今までこれが恋なのだと疑わなかった気持ちにはなんて名前を付けたらいいんだろう?要は、誰かを好きになり愛する気持ちと、誰かを尊敬し好きになり憧れる気持ちが実は少し違うということです。
クワンに対しての気持ちは憧れの気持ち。この人が私のお婿さんなんだ…!と信じて疑わないからこそ、その人の優しいところも見つけるし、一緒に生きていくために必要なことを考えたシャクヤ。自然とリンドウの花も育ちました。親が決めた結婚とは言え、この高揚する気持ちは本物だと考えています。そりゃー小さなころからそうだと親に言われていれば、自然と好きになるんじゃないかな。クワンだって利用しようと思っているわけだし、優しくするに決まってるんですから。
そしてルシンと出会い、一番最初に送った手紙のことを思い出す。そのときはあまりに幼く、それが恋だったのかはわからない。だけど自分にあからさまな優しさをくれる相手と出会ったのは初めてで、10年以上の時が経って輝き出す。ルシンはただ優しいだけじゃなく、いつもシャクヤ自身を助け、時には成長のために悪役になり、時には自分に不利な場面ですら相手を助けることができる…そんなルシンにシャクヤは心動かされます。これが恋なのかな?と迷いながらも、自らでそれを「恋」にしていく。受け身ではなく、初めて自分から手に入れようと努力した相手でもあるんです。やはり、恋はがんばって勝ち得るものなのでしょう。
ルピナとルー&クーもかわいい物語
侍女のルピナがね~…本当に大人です。いつでもシャクヤの気持ちを先回り。的確な言葉をくれます。作中でルピナの恋が叶わなかったことは悲しいけれど、それでもシャクヤとともに、これからもがんばっていくことでしょう。なんてったって心が強いからね!
マスコット的存在のルーとクーもまたかわいい…なんで中華風な物語って、子ライオンやらパンダやら、マスコットが必ずいるんだろう…謎な共通点です。絶対お付きの者に中国っぽいお友だちが入ってますよね。確かに、その子たちがいるだけで、一気に雰囲気が明るくなったり、異国風な雰囲気もつくることができているので、この子たちの担う役割もでかいですよね。龍と虎って、組み合わせもまた王道と言えます。
成長したクーとルーが、美人になったシャクヤに連れられて元気に遊ぶ姿を見たかったなーとか思いつつ、クワン・ルシン・シャクヤの三角関係が恋を抜きにしても幸せなものであるよう願いたいですね。
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