桃組プラス戦記の魅力
目次
(物語の生まれ変わり達が織りなす学園バトルファンタジー)誰でも分かる簡易な設定
桃太郎に一寸法師、泣いた赤鬼…誰もが一度は聞いたこと、読んだことがある日本昔話が題材。
ここに加わるファンタジーという要素は、強すぎず薄すぎず良いアクセントになっていると感じました。
特殊能力というのはバトルの定番ですが、それを前面に出さずとも十分に個性あるキャラクターはファンタジーにあるまじき親近感すら感じさせます。
左近堂先生の持ち味ともいうべきキャラクター性は、ストーリーの濃さがあってこそ。
簡単な世界観でキャラクターだけが独り歩き、なんて作品は見るに堪えません。
そこを上手く補っているのがこのファンタジーという要素だと思います。
現実にありそうでない、というギリギリのラインはそこに起こるちょっと不思議な笑いを際立たせているように思えました。
(多彩なストーリー性)笑い6割、涙4割の学園ファンタジー
左近堂先生の秀逸なギャグセンスと深みのあるストーリーにとことんハマる作品。
そのバランスは笑い6割、涙4割といったところでしょうか。
クスクス笑いながら読んでいるはずだったのに、いつの間にか感動している自分がいる。そんな深い味わいが楽しめる作品だと感じています。
そして巻数が進むにつれてその感動の幅も大きくなり、物語も壮大になっていく。
ただしシリアスだけでは終わらず、必ずクスリと笑ってしまう場面がある。
この作品を語る上で欠かせない点はまさにそこです。
ギャグと感動のギャップが大きいため、より深く、強く、作品に感情移入してしまいます。
設定も、物語の生まれ変わり、という非常にシンプルなもので、幼い頃一度は目にしたことのある題材ばかりが取り扱われているため入り込みやすい。
そこから独自のストーリーを派生させることで笑いと涙の調和がある、そして面白み、オリジナリティが増す、といったかなり深みのある構成が持ち味です。
(魅力的で豪華なキャラクタ―陣)既存のキャラクターイメージを良い意味で壊すキャラクター
本来既存のキャラクターを元にして新たなキャラクターを作る場合、問題になるキャラクターイメージ。
あまりかけ離れ過ぎているとちょっと引いてしまうことや、読者にとって思い入れの深いものとなるほど馴染みにくくなってしまいがち。
けれどそれを見事に打ち壊したのが、この作品で登場するキャラクター達。
主人公の原案、桃太郎といえば、村の為一人鬼ヶ島に向かう義理堅く優しいヒーロー、といったところでしょうか。
それがこの主人公、桃園祐喜になると、義理堅く優しい、けれどちょっとシニカルで向こう見ずな性格に変わります。
元の作品のイメージを完全には崩さず、ただしオリジナルな要素を付加した魅力溢れるキャラクター達は、好意的な感情を抱きやすく親しみやすい秘訣だと考えます。
また、悪役といえど憎めない点について。
作品中何人も登場する鬼たちは、いわば悪役。
悪役というと、主人公の行く手を阻んで多種多様な邪魔をしてくる、そんなイメージが付き物です。
しかしこの作品では、昨日の友は今日の敵ならぬ昨日の敵は今日の友。
闘っていたはずのキャラクターがなぜか主人公と親しくなっている。
あくまでも完全な悪者を作らないことがこの作品を引き立たせる一番の魅力なのではないでしょうか。
(美しい作画とセンス)作品を際立たせる高い画力
初期の巻こそ若干の作画崩壊も見られましたが、それでもあの時期に読んでいた漫画の中では相当高い画力を誇っていました。
そして連載が進むにつれてまた一層上がった画力により、作風は変わらずに魅力だけをグングン伸ばしています。
独特な世界観や、キャラクターの成長が作画を通しても垣間見えるのはこの作品の大きな特徴の一つ。
左近堂先生の技術の向上と共に、作品もまた新たな魅力を増やしている、そんな気がいたしました。
長く連載している漫画家さんの中には、連載途中で大きく描き方を変える方もいて、「この頃が一番絵が綺麗だったなぁ…」などとガックリした方もいらっしゃるのではないでしょうか。
その点左近堂先生のイラストは、劣化はまずありません。
桃組プラス戦記は一時期休載していたこともあり、一ファンとしては作画への懸念も確かにありました。
しかし復帰した左近堂先生のイラストは、雰囲気こそ変わりこそすれ作品のイメージはそのまま。カバーイラストのイメージ変更なども、新たな門出かな、と応援できるものとなっていました。
また、漫画としての見せ方もほかに類を見ない魅力を持っています。
映画をワンシーンのようなポーズ、カットは読んでいて強く引き込まれる印象を受けます。
映像化されていないのが非常に残念だと感じるほど、左近堂先生の作画方法は映像に近い見せ方をしているように見受けられます。
そんな作画、漫画の見せ方、そしてひいては映像化に向けて、これからに期待が高まるばかりだと感じています。
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