パンデミックはいつでもそこに
何とも言えないリアル感漂う
画力は高いですね。人間一人一人、丁寧に描かれており、そのリアル感が余計に恐怖を煽ってきます。こういう「感染症」がテーマになっている作品は、とにかく怖い。このご時世ではいつこんな状態が起きても仕方がないとすら思います。ほんの10年くらい前までの時代だったら、そんなにインフルエンザで騒いだりとかしてなかったように記憶しているんですけど、最近ではとにかくうるさいくらいにテレビのニュースで言っています。手洗いうがいをしっかりしましょう!っていうのはいつの時代も言ってきたように思いますが、アルコール消毒を徹底しましょうとか、血には直接触るなとか、落ちたものは拾って食べるなとか。世の中キレイになっているのか、はたまた進化と共に汚くなっているのか、わからないなーって思ってしまいますよ、ほんとに。インフルエンザは、確かに感染力も強くて、空気感染・接触感染してどんどんうつる。これがですよ?もし未知のウイルスで、致死率100%で救いようのないウイルスだったとしたら…もう人間は生きる道を失うわけです。逃げまどって狂って、シェルターに閉じこもって生き残ったとしても、太陽の光を浴びれなくなって死ぬんだろうな~…って想像ができてしまう…シェルターなんかあるのは都会の一部だけで、田舎はもうみんな死んじゃうんだろうな~…とか、感染症の物語を読むといつも思います。生き残るためにどうすればいいのか。人の争いなんていうものは、死を前にしては何の意味もないことだなと、考えさせられもする、物語に仕上がっていますね。
新型ウイルスが広がる様子がすごい
エマージングのおもしろいところは、感染していく様子がこまかくリアルであるということ。はじめに出た1人の男性。体がどんどん膨らんで、街中でいきなり爆発するように血を噴出した…その血しぶき、周りにいた一般市民の皆さんの驚き様、血を浴びた様子、あかりの見つめる切り傷の行く末…感染の始まりって、こんなにドキドキするんだね…アンデット化するとか、どこかまだ現実離れしているように感じるものまではいかないけれど、もしかしたら起こるのかもしれないというぎりぎりのキモさ具合。女の子であろうが誰であろうが、どんどん風貌が変わって今にも爆発しそう…というところまで描いています。容赦ありません。
ゴホゴホ咳をして、ウイルスが空気中に放出されてしまった描写、風邪と勘違いして特にマスクもせずに行動し、家族、友だち、学校、自分のいるコミュニティに広がる死のウイルス。病院に押し寄せる患者、恐怖しながらも対応しなければならない病院の医者たち…自分にうつるのかもって思ったら、誰だってパニックになって発狂したくなる。それをどこまで押さえつけて、どこまで冷静に行動できるのか。みんなたまたまあの男の返り血を浴びてしまっただけなのにね…人ってどこで知り合ってるかもわからないし、いつの間にか感染は拡がってしまう。それを止めるためには、隔離するしかない。治療法が見つかるまで…つらいね。助けたいのに、助ける術がないということは。
ごく普通のどこにでもいる人
主人公あかりは、どこにでもいる普通の女子高生。彼氏のために一生懸命早起きして、不器用ながらもお弁当を作る。彼にも愛されていると感じるし、友だちとも仲良くやっている。勉強は大変だけれど、こんなに幸せでいいんだろうかとすら思うくらい、幸せいっぱいの毎日。そんな幸せな毎日を、ウイルスの恐怖というのは非情なほどに奪っていく…あかりが指に切り傷があり、そこに爆発した男性の返り血を浴びてしまったことで全く同じ症状が出たのかと思わせておき、実はきっちり他の返り血を浴びた人たちも感染をしていた…1人の恐怖だけじゃない。ここから始まっていくんだなという怖さが、うまく表現されていると思いますね。
あかりをはじめ患者たちを救おうと苦悩する病理医、瞬時に感染症であることを見抜くも新たな病気に恐怖がわかないことを逆に苦悩する医師、未知のウイルスを見つけ今までできなかったレベル4の研究ができるかもしれないと喜ぶ感染症研究所の室長…それぞれに、それぞれの立場で思うことが全然違う。確かにそこで感染症により苦しんでいる人がいて、その人を救うための努力をすることは共通しているのに、とらえ方がここまで違うんだなーと驚きます。しかし、特に知り合いでもなければ、他人事として考えて対処していくことは当たり前かもしれないのですが…命に関わる仕事において、苦しむ人間の側に立てないということは、ちょっと悲しい事ではありますよね。
政府の腐敗もちらつかせる
2巻という短さながら、テンポよく進んでいって十分に恐怖が伝わります。そして、感染症が確かにそこに発生したという事実を知りながら、しかるべき対処の許可を出さない官僚ども、それに従う手下ども、まさかそんな感染症が発生すると思っていない研究所のトップ…みんなめんどくさいことが大嫌い。できればそんなことはなかったことにしたいよね…本当に、人間ってやつは!大人ってやつは!権力ってやつは…!!って悲しくなってきます。でも確かに、毎日のようにそんな重大な病気が発生するわけじゃない。だけど、何かが起きたときに確かにそこにあり、中心となって活動できる機関が必要にはなる。だからわざわざ対策チームをいつでも配備しているわけですよね。税金をつぎこんで。無駄とは言えないはずのポジション。日本では平和ボケを起こしてしまいやすいでしょうね。腐敗と呼ばせてもらうけど、平和ボケさせないために、きっちりと管理してもらうこと、誇りを持って仕事にあたれるように、仕事内容や対策の仕方の見直しを定期的に行うことが必要でしょうね。
ほんと、日本って平和ボケした奴らばっかりいますよね。危機感を感じて生きている人って少ない気がする。常に戦争の危険があるわけでもないし、侵略される危険もないし、感染症だって海を渡ってやってくるにはラグがあるし…いざ感染が始まっても、なんか自分は大丈夫なんじゃないかって謎の自信があったり…命の危険にさらされて生きること。これがわかってたらもっと馬鹿力が出そうだけど、これがないから、自分を律して生きることができないんだろうな~…って思ったりもしますわ。自分を含めてですけどね。
確かに新型ウイルスの終焉はこれしかない
終わりはとっても駆け足でした。なんとあかりの彼氏が抗体を持っていて、そこから血清をつくり感染症の治療に成功するという…思いっきりキスしてたのに、うつってなかったところを見たので、こりゃーこの男、抗体持ってるなーって予想はしていたので、まさに予想通りの展開。終わりがくるのは早かったけれど、長くなっても、絶対あかりは生きれなかったと思うし、ここで区切っとかないと悲劇の終わりになってしまったと思うので、よかったと思います。確かに、あれだけ体が膨らんで血を吐いていたので、治療できたといっても多少の後遺症が残るもんではないだろうかという疑問は生じました。でもまぁ、生きてくれてよかったし、漫画としてはきれいに終わったほうがいいよね…
いつどこで起こるかわからない、突然変異のウイルスの恐怖。薬を作ってもその上をいこうとするウイルスたち。よくいたちごっこだという言葉が使われるけど、ウイルスたちだって生きようとして薬の限界を超えてくる。人間だって負けないように研究して限界を超えていく。いつまで経っても終わりのない闘い…それが真に怖いところであると感じますね。
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