どんな人にも隠し事の1つや2つあるものだ
美しいイラストと個性際立つキャラクターたち
とにかく、「オトメン」に登場する人たちは美しいです。メインの飛鳥が誰より素敵。まさに理想的な男子の見た目、高身長と切れ長の目、クール系で西洋的な顔立ちであるのに、部活は剣道という漢らしさ。設定からイラストからすべてパーフェクトなのが飛鳥でしょう。そんなかっこいい飛鳥がときめいたときの…頬を赤らめているのも、せつなさに苦しくなって泣きそうな顔も、あー…老若男女問わず虜になるこの美しさ。罪です。
そしてヒロイン役のりょう。クールビューティーな見た目。大きな瞳に黒髪ミディアムの大和なでしこ。実は女っぽい料理が全然ダメで、武道であればそこらへんの男には負けない強き女性。そしてその力を誰かを守るために使うというカッコよさ…。なのに別に話し方がおかしいとか、特徴的な姿勢の取り方をするとかじゃないんですよ。ピンチのときだけめっちゃカッコいい、普段は不器用で天然な女の子。な…なんてかわいらしい…
もちろん、橘も相当カッコいいです。漫画家として素性を隠しながら飛鳥たちをモデルに常に情報収集の毎日。それでいて自分の女の子関係も絶やさないチャラ男。漫画家・幸花ジュエルとしてかわいらしい女の子の恋を描くため、試行錯誤しながら飛鳥たちをどうにかくっつけようと画策しながらも、自分も2人の人柄にちゃんと惹かれていっているのがわかりますし、なんだかんだ言っといていい奴なんですよね。憎めない奴です。
常日頃、自分の乙女な部分を隠して生きてきた飛鳥が、ようやく出会えたすべてをさらけ出しても大丈夫だと思えた友達。これからどんな関係性が築かれていくのだろうとワクワクさせてくれる始まりでしたね。漫画の中の漫画「らぶちっく」がサブストーリーで登場したり、人気すぎて映画になっちゃったり。オカマでは決してない、オトメンの流行を作ってくれた物語です。
乙女はどこにでもいる
ちょうど世間でも化粧する男子、ムダ毛脱毛をする男子、肌ケアを欠かさない男子など、中世的な男子ってのが流行ってきて、オトメンはまさにそんな時代を映してくれている作品だと思います。毛が濃いのが男らしいとか、汗臭いのが男らしいっていうのはもう古く、どっちかといえばいい匂いがする、女の子みたいにかわいい男子がたまに見せてくれる男らしさにきゅんきゅんしまくる女子たちが多くなりました。
この「オトメン」では、乙女的思考を持つカッコいい男子が主役。読み進めていくと、乙女の心は男女関係なく誰でも持ちうるものなんだなーという気がしてきます。メイクの得意な多武峰や、花が好きすぎる黒川とか。彼らを見ていると、好きならいいじゃんって思えてきて、乙女限定の思考とか言ってるほうが差別っぽいのかもしれないなーって思いました。女は子どもを育てる、料理が好きだ、裁縫が得意だ、気配りができる、花を愛でる。男は働き、常に家族を守り、威厳があって、汗臭い。生物学的な男女の違いは置いといて、みんながみんなそういうもの、って考えるのが日本の悪いところだよなーって思えてきます。そしてこうあるべきと考えられていたことが逆転したとしてもうまくいくということ、教えてくれている気がしますよ。自分の好きなこと、女々しいとか男っぽ過ぎるとかで否定するのはもう終わり。大昔から実際にはそういう悩みを持った人たちはたくさんいて、周囲の目を気にして声が出せなかった人がいたはずで。ただ声が出せなかっただけでどんなに苦しかっただろうな~…って思いました。いいじゃん、好きなら。誰かをおとしめることでもない限り、ありのままでいたって罰は当たらないよね。
母の恐怖
途中から、もはやこの人は本当に飛鳥の母親なのか?と思うほどの迫力でオトメン抹殺を図る浄美さん。名前も美しさを浄化するって書いてるし、どんだけオトメンを汚れだと思っているのやら…いや、実際には、お父さんは完全なるオカマで、女性になりたかった男性だから飛鳥とは違うと思うんだけど…あらゆる要素を許さないという執念、恐ろしかったです。学園すらも支配するだけの影響力を持った彼女。いったいどんなシングルマザー…?飛鳥が結婚させられそうになった入香とか、金持ちすぎてぶっ飛んでいるし、普段は飛鳥一人暮らしだし…
ちゃんと漢らしさのためにがんばってきた息子。ただ恋をしただけのにさ、別れさせることないじゃない?オトメンを抹殺するということより、どちらかというと飛鳥を思い通りにする方向の気持ちのほうが強いんだなーと感じました。結局は母親のエゴなんですよ。どう育つのかは、親によって決まるものだと思うし、もし思い通りにならないとしても、自我を持った一人の人間が決めることを、簡単に否定できる権利は誰も持っていないんですよ。りょうと別れちゃったときなんか…もう嫌すぎたし、まじでこの母親どうにかならなきゃ気が済まない!とすら考えてしまいました。親だから育てる義務がある。守る義務がある。彼女なりに大切にしてきたからこそ飛鳥はいい子に育ったんだけど、抑圧されると余計にやりたくなるのが人間だよ。自分の好きなものへの欲望って、歯止めがきかないもんなんだからさ。
橘のいい話
橘充太はですね、チャラ男で優しいです。周りを利用してやろうと思いながらも結局はいい仕事してくれる。脇役として活躍していくのだろうと思いました。でもね、最後の17歳の時の橘の話を見ちゃったら…なんか脇役とか言ってごめんね、誤解してたよって言いたくなりました。君が「らぶちっく」に至るまでも十分主役級の輝きを持つ話だった。脇役なんかじゃなくて、ちゃんとメインキャストだったよ…。りょうと飛鳥の間に起こる出来事って、割とギャグなんですよ。たぶん大丈夫だろうなと思えるし、まさかの事態や遭難事故とかであってもそれほど不安にはならない。だけど、橘の話はよかった。飛鳥の父親の登場がかすむほどに輝いていたと思いますね。
飛鳥とりょうのことで全部ネタ収集していたし、逆に自分の私生活はだいぶ難があった彼。そんな彼の漫画家としてのデビュー・連載に至るまでの苦悩、そういうの、こんな終わり際に見せるなんて、うますぎる。すっかり幸花ジュエルのファンになってしまったではないか。次々登場するオトメンたちを「らぶちっく」に登場させるために変換していく橘。一番よかったのは入香のことを天然腹黒系王子と表現したことかな。
ハッピーエンドありがとう
飛鳥が母親のためにりょうと別れた時、りょうがあまりに抜け殻になってしまったこと、本当に悲しかったです。でも、記憶喪失になってしまった飛鳥を取り戻し、再び二人が定位置に戻ってこれたので、もうありがとう!!と言いたい。これからも二人で素敵な生活を送ってほしい。もうこれ以上ないラストでした。山あり谷あり、オトメンとしてできることを一生懸命がんばっていた飛鳥。りょうや橘、いろんなお友達に助けられて、自分らしくありのままでいる道を選べて本当に良かったです。「オトメン」は、男女問わず読める漫画かなーと思いますね。
余談ですが…序盤にりょうの父親が登場しましたよね?あの人、個人的に最高にツボでした。本当に飛鳥くんが嫁に来てくれて嬉しいと思う。男所帯での生活をふんわりと明るくする飛鳥の手料理と気配り。その姿に亡き妻の姿が重なって…ずっと来てほしいと願っていたもんね。おめでとう!
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