いや、そんなシリアスな漫画じゃない
群馬県の捨て身作戦?
何やら苦しそうな顔をする血にまみれた青年。表紙で監獄に閉じ込められたような彼は、いったい誰なのか?ページをめくると、それは一人の高校生が千葉県から群馬県へ引っ越すところから始まります。神月は小学校の頃に同級生だった轟も同じ高校に通っていると知り、嬉しそうに連絡を取る。そして、
グンマに来て 生きて帰った者はいない…
という恐怖の言葉をもらうのだった…シリアス展開?かと思いきや、グンマにある郷土品(おそらく自称)・名産品(おそらく自称)・歴史に名高い観光名所(おそらく自称)・これぞグンマという独特の歴史と特殊ルール…これらがひたすら誇張されて次々と転校生・神月に襲い掛かってくる物語でした。彼は生きていられるのか…?
この物語の作者である井田ヒロト先生は群馬県の出身であり、群馬県をこよなく愛しているそうですね。よくもまぁ7巻に至るまで、群馬の魅力が出てくるな~…逆にすごいです。1巻で十分有名どころからマイナーなところまで出し尽くしたんじゃないの?っていうぐらいグンマを語っていたのに、まだまだ尽きぬ様子。ここまでグンマを語りつくすため、相当なリサーチを行ったのではないかと思います。いくら出身県だからって、ここまでなんでもかんでも知ってるわけないだろう…いや、群馬県民は特別なのか…??こればっかりはこの地に生まれてこの地に育たないことにはわからない感覚なのかもしれませんね。この漫画を初めて読んだとき、これはあまりに目立つところのない群馬県をどうにか盛り上げようと、群馬県庁がついに捨て身の漫画政策(制作)に挑んだ…!みたいなことだろうかと考えましたが。ふつうに群馬ラブの県民によるものでした。
絵のクオリティと裏腹なくだらなさ
絵のクオリティはけっこう高いと思います。出てくる登場人物たちは数が多いですが、十分キャラクターが確立されているし、名産品や観光名所の絵もかなりこまかい。説明文も丁寧だし(もちろん面白おかしく着色されまくっています)、こんな恐ろしいルールが本当にあるの…?という恐怖のあおり方も秀逸。グンマって…なんかすごい。とりあえず、なんかすごい。そんなインパクトだけは残ります。(おい、名産品は残らないのかい!と言われると、上毛かるたで限界です…笑)
そのクオリティとは裏腹に…本当に…くだらない。はじめの群馬県民以外を拒絶する流れ、おいおい…ですよね。転入してくれなきゃ人口も増えず、群馬の魅力を伝えることもできないだろうに。グンマの中だけでかたまってどうするんだい。それくらい他県への劣等感が激しいんでしょうね。俺のグンマだってすごいんだー!!って伝えたいのでしょう。叫ぶほど負け犬の遠吠え感が…しなくもない。でもこれほどまでに自分の生まれ故郷を語る物語って今までなかったと思うので、そこが面白いですよね。自分の生まれ故郷ならどんな物語になるかな?とか考えたりもできます。
しかし、物語の中には過去に疎開者をたくさん受け入れた過去を出してるじゃないですか。これってつまりはグンマの人じゃないですけど…それはいいのかい。先祖たどったら群馬県民じゃないかもしれんやん。そんなツッコミもしたくなります。ま、そこがおもしろいか。
究極の…ディスり
つまりはね、グンマのいいところを見せているようで、汚点も見せているような、そういうディスり漫画なんですよ。積極的に生まれ故郷のすばらしさを伝えていると言えると思うんですけど、果たしてそれは競うところなの?っていうところを出さなければ他には何もないと言ってしまっているような。そんな気もしますよね。おかげさまでその自虐がヒットし、テレビで紹介されたうえ、ドラマ・映画になることも決まったらしいですから…井田先生さまさまでしょうね、群馬県は。群馬県民功労賞でも与えないといけないくらいのレベルだと思います。群馬が誇るありとあらゆる誇りをこれだけ語ってくれているのですからね。「そうだ、グンマへ行こう。」そんなフレーズも聞こえるようになるかもしれません…もしかしたら。人からモノから自然から。なんでも観光名所と化すでしょうね。漫画で語られている秘境を巡ろう!というツアーもできそう。漫画好きにはたまらないかもしれません。そしてその趣深さを知れば、移住したくなる人もいるかもしれませんね。…なんか全部「かもしれない」ですけど…(笑)。逆にグンマ観光流行ったら人気がないというのが嘘になっておもしろくなくなるよ。
こういうのは初めにやったもの勝ちだと思います。他の県がやりだしたら流行んないだろうな~…グンマだから流行るというか。目立たないことをずっと生かしてきた県だからこそ、このディスり具合は究極です。完成型と言えるのではないでしょうか。
栃木と勝負している場合じゃない
ちょっとひどいことを言うとすると、「栃木県と競っている場合じゃない」と言いたいですね。なんでお隣の県といつまでも勝負しているんだよ。もっと全国、全世界をみて行動できなきゃ、すでに出遅れの地域でしょう。そこまで魅力があるのなら、ちゃんと全世界へそれを伝えようとしたり、もしくは姉妹都市があるならその地域との連携をもっと強めるためにできることをやったほうがいいと思うんだよね。外国人観光客をもっと呼ぶために何をやったらいいのかとか、力のある県と結託して流通経路を確保するとか。人が変われば歴史も思考も変わるんだし、今グンマの魅力になっているものもいつか廃れていくかもしれない。残していこうとするのか、変わっていこうとするのか。ちゃんと考えていってもらいたいよね、自治体さんには。群馬って本当に閉鎖的なんだなーって思っちゃうんですもん。いつまで鎖国してるんだよ。過去に縛られすぎやねん!
ってことで、この終わりの見えない物語の結末には、これからの群馬の未来を語ってもらいたいなーと個人的には考えていたりします。井の中の蛙大海を知らずで生きてるグンマじゃないねん。みたいなところを見せてくれたら、おおー!!と歓喜すると思います。個人的には。
果たして神月はグンマに染まるか
初めこそそのしきたりに馴染めなかった神月ですが、順調に彼らのコミュニケーションを理解し、知らないのなら知ろう!というくらいのポジティブシンキングができるようになっています。泣き叫んでいた1巻が嘘のよう…轟もこうして順調に染まって委員長にまで上り詰めたのかな…最終的にこの物語はどこに落ち着くんですかね?果たして神月はグンマに永住を決めるのか否か…出ていかないでグンマ県民になるのもまたよし、ふつうに出ていくのもまたおもしろい。ギャグ漫画で、ディスり漫画ですからね。現実にはそうじゃないってことで、漫画の中では最後まで裏切って、グンマの鎖国具合を確立させてくれても面白いと思います。
いろんな地域を転々としながら暮らしていると、方言も中途半端になるし地域性も無視して暮らしたりしがちですよね。友達も仲の良い人はできず、いつまでも孤独というか。でもまぁ住めば都・郷に入っては郷に従えのことわざの通り、慣れ親しむこともまた生きていく秘訣。グンマに住むことになったらその現実をできるだけ素直に受け止めよう。そんな決意はさせてくれる漫画だと思います。抗えばグンマをこよなく愛する奴らによって迫害に会うかもしれません…とりあえず、上毛かるた覚えよう…(笑)。
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