一つ一つの言葉がすとんと入り込んできました。
生きるって何だろう。
一つ一つの言葉にとても重みがあったなぁ。
私はゆっくりと噛みしめるように読みました。
親友の「死」、恋人の「死」。身近であるのに、その正体を私たちは知らず、それでもその得体のしれない「死」に向かって生きていかなければならない。そんなことをこの本を読んで感じました。
ワタナベは生きることを選びましたが、それは本当に良かったことなのでしょうか。生きるって辛いことで、ワタナベがこれから生きていこうと決めた場所は、素敵な愛があれば憎しみも溢れている世界です。その中でどうしても直子やキズキのようにそれが辛くなってしまう人もいるのだろうなと…彼らは世の中に対してきっと誠実に真正面から向き合ってしまったのだと思います。それくらい、この世の中は残酷であって、適応できなければとても息苦しい場所になってしまう…それでも、私たちが生きていけるのは自分の中の正直な思いを閉じ込めて閉じ込めて、大切に守っているから。明日も生きられるようにと。
代償。
直子にとってキズキが特別な存在であると改めて感じられる言葉。
「だからあの人が死んじゃったあとでは、いったいどういう風に人と接すればいいのか私にはわからなくなっちゃったの。人を愛するというのがいったいどういうことなのかも」
心の中にぽっかりと穴があいてしまったとか、そんな単純なことではないと感じました。
ここまで誰かを愛せて、かけがえのない存在だって思えるのって幸せなのだろうなと思う反面、そのひとがいなくなってしまったときの代償は大きい。だから、私たちは誰かを心から愛するのが怖いのかもしれないですね。自分が壊れてしまいそうで。
あらゆる物事を深刻に考えすぎないようにすること、あらゆる物事と自分の間にしかるべき距離を置くことー。
ワタナベも壊れそうな自分をうまく守っています。
未来。
生きることを選んだ人と、死ぬことを選んだ人。この人達は対極にいるように見えて、実は表裏一体。隣同士です。だから、ワタナベは今にも消えてしまいそうな直子と生きている緑の両方に惹かれたのかもしれないですね。
静かな運命を共にしようと決めた人と、自分を光の当たる場所へと導いてくれる人。両方に魅力があって、そして恐怖がある。
未知の死に対する恐怖。
世の中の残酷さに直面する恐怖。
自分が自分でなくなってしまうのではないかと、でもそもそも自分ていったい誰なのだろうと、一度考え始めたら止まらない。
誠実に生きていくと、自分が壊れてしまう。
でも誠実に生きなければ、自分が自分でなくなってしまう気がする。
そんな葛藤が悲しいまでに美しく綴られた物語だと感じます。
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