ヒーローにあこがれた男が生み出した新ヒーロージャンル - 燃えよペンの感想

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燃えよペン

3.003.00
画力
2.50
ストーリー
3.00
キャラクター
4.50
設定
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演出
4.00
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ヒーローにあこがれた男が生み出した新ヒーロージャンル

3.03.0
画力
2.5
ストーリー
3.0
キャラクター
4.5
設定
2.5
演出
4.0

目次

本作が生まれた背景

1991年刊行された本作で島本和彦は長年にわたって自らの糧となるキャラクター「炎尾燃」を生み出した。同時期に執筆していた「逆境ナイン」で打ち立てた「暑苦しいほど何かに燃えており、勢いがある男」をそのままに引き継いだ主人公と言える。キャラクター的には「逆境ナイン」の不屈闘志とサカキバラを足して島本自身の経験値を加えた結晶とも言えそうだ。

初期の代表作「炎の転校生」「風の戦士ダン」終了後2年ほど長期連載に至ることなく微妙な作品を発表していた中で、おそらく作風に迷いがあったのではないかと思われる。スポーツもの、戦記物などを書くも人気は今ひとつ、そういう時「逆境ナイン」で生み出した作風に活路を見出したのだろう。その後もアニメ系やゲーム系の作品も書いているがさほどパッとせず、炎尾燃を出せば何とかなる、という勝ちパターンを確立している。正直なところ漫画家としての島本和彦は逆境ナインを頂点として既に枯れているのではないか、と思うこともあるが、炎尾燃は枯れない。20年以上たった今でも使えるというポテンシャルがすごい。この考察では炎尾燃自体について深めていきたい。 

炎尾燃の系譜について

後の「吼えろペン」では絵的に乱れてくること、逆境ナイン時代の力強さが抜けて、若干緩いキャラになっていることなどから私自身はあまり好まない。絵的には洗練されていないが本作の炎尾は実に少年誌的でかっこいい。また「吼えろペン」では炎尾がガンプラを貨幣換算の基準としていたりするなどオタク感があって「燃える男」売りは少し薄れている。「燃えよペン」ではアイドルに傾倒している話があるがあくまでも「男」として美しい女性、可愛い女性を好んでいる、という程度だ。島本が好きなロボットアニメに例えれば、「燃えよ」時代は剛の性質が強いマジンガーZなどのスーパーロボット、「吼えろ」時代はガンダムなどのリアルロボット路線と言えるかもしれない。やはり島本が好きな仮面ライダーに例えるなら「燃えよ」は藤岡弘の旧1号ライダーか力みなぎるV3、「吼えろ」は技が多彩になったXかストロンガーと言ったところか。

近年の「アオイホノオ」は名前は同じでも人間性はかなり違いがある。「燃えよ」「吼えろ」では落ち込んだり怠惰に走ったりするときのダメっぷりも半端ないが回復も早い。「アオイホノオ」では落ち込み方が緩く長い。自伝的要素が強いので普通の人間っぽくて当たり前なのかもしれない。むしろ「燃えよ」「吼えろ」は1種のヒーローものと考えてもいいかもしれない。 

作風の変遷

「燃えよ」時代は女性キャラは少ないものの大野暁子はきっちり可愛く描かれている。私は島本作品の女性キャラはこの時代がピークであると思っている。「逆境ナイン」の月田、桑原の二人は力強いタッチの男ばかりの中で丸い線を意識して書かれており、実に愛らしい。「吼えろ」時代になると萌というレギュラーキャラが定着し、いわゆる「萌え」要素を含ませるのかと期待もしたが、そういう展開は少ない。残念ながら炎尾燃の女性版という位置づけもあってか体形が女性なだけで、人的女性らしさはあまり期待できない。「アオイ」の女性キャラは雰囲気がかわいいだけでデッサンも乱れており、女子を可愛く書くピークは過ぎ去ったのだ、と改めて知る。「燃えろ」時代に津田洋美やトンコを書いてほしかった、とも思うがトンコさんの緩い雰囲気は当時の絵柄では難しいのかもしれない。 

新しい「ヒーローもの」のジャンルを確立

「燃えよペン」に話を戻そう。第一項でこの作品を一種のヒーローものと書いたがこの理由について語りたい。

島本和彦はヒーローものにあこがれを持って漫画家になったと語っている。では彼が好きな「ヒーロー」とは何か?自分が信じる正義のために戦うこと、自らの大事なものを守ること、熱い心を持っていること、作品の中からそういうものがにじみ出ているように思う。

炎尾燃は若干自己中心的なところはあるが、上記を十分に満たしているように思う。彼の正義、それは「面白い漫画を描くこと」である。そして大事なものは時に自己の欲求に振れる時もあるがおおむね「漫画に対する姿勢」だ。そして常に熱い心を持っている。異星人や悪の組織と戦うことはないが、常に締め切り、編集者、堕落への欲望と戦い、熱い心でそれらをねじ伏せる。時折それらの敵に負けることがあってもその戦いを放棄したりはしない。常に熱い心の命じるままに戦う。これはもはやヒーローという以外にない。後に連載するヒーローカンパニーよりもはるかに「燃えよペン」の方が痛快ヒーローものに仕上がっている。

そして特筆すべきは島本和彦自身が既に盛りを過ぎた漫画家であっても炎尾燃なら常にピークの状態を続けているのではないか、と思わせるところだ。漫画家の生活を題材にした作品は多数存在するが、漫画家がヒーローであるのは唯一本作だけだろう。ヒーローものを好んでいた彼自身が彼が生きる糧としている漫画を戦場とした新ヒーロージャンルを生み出した、その結果として炎尾燃は20年を過ぎた今でも人気キャラであり続けている。

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