変貌を遂げる女の美しさ - 松本清張 けものみちの感想

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松本清張 けものみち

5.005.00
映像
3.50
脚本
5.00
キャスト
3.50
音楽
5.00
演出
3.50
感想数
1
観た人
1

変貌を遂げる女の美しさ

5.05.0
映像
3.5
脚本
5.0
キャスト
3.5
音楽
5.0
演出
3.5

目次

美しさに秘められたハングリー精神を持つ女性に憧れて

美しい女性が輝くためには、時として輝きたいと願う気持ちと、そうなるべき存在であると自分自身が強く思い込む、ある種の病的な意思を持ち備えていなければならい。そうすることで、素晴らしく生き生きとした生気に溢れた水々しい魅力的な存在へと変貌を遂げることさえできてしまうのだ。そんなドラマティックな生き方をどこかで憧れている女性たちには、米倉が演じる主人公と自分自身を重ね合わせ非日常的な世界で生きる女性を体験させてくれたりもするわけだ。そして外見だけではなく、内面から湧き上がるハングリー精神が輝きたいと一心不乱に女を狂わせていくそのストーリーにうっとりとしてしまうくらいのエロスを感じさせる。

非日常的なスリリングさ

心のどこかで本来の姿であり続けたいと葛藤しもがく姿が、皮肉にも周りから注目を集め女を取り巻く人々を魅了していったのではないだろうか。そんな女の姿は本当に美しい。洗練された美しさではなく、選択肢がなかった故にたどり着いた美しさみたいなものを感じることができる。皮肉にも自分の意思とは関係なく歩き始めた女は、さらに輝きを増し自分でも手に負えそうにないほどの存在にまでなってしまうのではないかと焦りを感じていく。その焦りを感じより一層美しく変貌していくさまは、日常的な生活からは感じることのできないスリリングな気持ちを味わわせてくれる。決して表舞台では輝きを放つことができない生き方を選んでしまった女が、一人の女性としての幸せを捨て生きていくためになりふり構わず獣道を突き進むスリルとエロスの融合は見ていると面白い。原作に誠実に表現されたドラマならではの面白さは、ぴったりなキャストと、中島みゆきの音楽によってさらに美しくスリリングな映像に仕上げていたと感じた。こんなにまでハングリー精神を持った女が自分の周りにいるのだろうか。ふとそんな疑問を抱きながらドラマを見てしまう自分がいて、もし周りに居たのであればそれもまた面白いなと日常生活が少しだけドラマに近付く瞬間が楽しくなった。

一人の女性として真実の愛に触れたいという葛藤

このドラマで、米倉が演じた女は獣道を突き進む一方でどこか平凡な日々の中で小さな幸せを感じたいと願い真実の愛にすがりたいと刹那に感じさせる。騙し騙され、もはや真実の愛などとかけ離れた世界に生きているにも関わらず心のどこかで一人の女性として誰かに愛され、誰かを愛しそのために生きていたいと願ってしまう動物的な本能との葛藤は見所の一つだと感じた。生きていくためになりふり構わず突き進んで来た道を立ち止まる度に、大きな闇に包み込まれてしまう苦しさ悲しさ切なさを美しく表現していると思う。後悔する暇もなく、生きるために必死に己を振るいたたせ手段を選ばない変貌ぶりには圧巻される。本来の女は、これくらいの根性があってもおかしくないなと思わせてくれるところが、自分と女を重ね合わせて楽しめるのかもしれない。極限にまで追い詰められて、お金のために生きていくためにどこまで突き進むことができるのか、そんなことを考えたくなる。美しさを武器に、またその美しさの下に秘められたハングリー精神を武器に一人の女性としてありきたりな幸せを捨て生きていく。もし、自分が女の置かれた状況に直面したらどう選択し、どう生きていくのだろうかハラハラドキドキさせてくれるから楽しめる。女は愛のために生きることを選ぶのが一般的に描かれやすい女性像かもしれないが、このドラマでは貪欲に生きていくために金を、男を選ぶ冷たさと切なさを兼ね備えた複雑な愛を選択していく女性像があってもおかしくないことを裏付けてくれた。女も生きていくためには、見た目だけでなく中身も化けて変貌していくことがあるのだ。それは、その変貌を望む女を取り巻く男たちによってさらに加速していく。しかし、結果としてその後変貌した女はその男たちの想像をはるかに超えた存在となってしまうことを知るすべもない。そんな男たちが描かれているところがまた魅力的なところだとかんじる。女を支配したがる男たちは、最終的にその女に支配されてしまうのだ。騙し合いの中で変貌を遂げ、強く逞しく生きていく女は、皮肉にも清々しい気持ちにさせてくれる。女性として愛に触れたいと願いながらも、その気持ちを封印することでさらに自分自身の価値を高め周りを魅了していく姿はエロスを感じさせ、単純に愛されるという幸せの意味を改めて感じさせてくれる。

ドラマに秘めらたメッセージ

真実の愛のあり方について、どこかで問いかけ続けられているような作品とも言えるのではないだろうか。愛人という選択を選ばざるを得なかった女の、真実の愛の形はどこか悲しく愛される都度愛の形にこだわりを持てなくなる女の傷ついていく姿が上手く表現されていた。愛着に近く愛とはまた別の感情が芽生え、女が本来感じていた愛の形が少しずつ崩れ落ちていく姿は女としての真実の愛にこだわりをもつ必要性を考えさせてくれると同時に愛の形に無限の可能性を説いてくりれた。お金だけでは埋めることのできない、人間が持つ孤独の穴埋めをどう補って生きていくのか。その生き方には、人間らしい愛されたいと願う本来の姿が描かれていると感じた。性別、年齢に関わらずどんな形であれ人は愛されたいと願う生き物であり、素直に表現し伝えることができない滑稽な生き物であるのだというメッセージがあるのではないだろうか。

ストーリー展開のテンポ

見ていて面白い!と思わせるためには、やはりストーリーの展開のテンポも重要であるが、このドラマはその点において本当に優れていると言えるのではないだろうか。ドラマとして、次に繋げていくためにはある意味で見ている側を裏切るストーリーを展開していくことが求められる。この裏切りこそが、このドラマにはいくつも用いられている。だからこそ、テンポが早いと感じさせ次の展開に追いつく暇を与えてくれない作品になっているとかんじた。敵味方を瞬時に判断し、裏切りを見破り、騙し合いの世界で勝ち抜いて生きて行くためのスキルを身につけていく女の成長とも言える変貌ぶりがストーリーに脈を見出している。女が獣道を突き進む中でより一層魅力的な存在に変化する様を楽しめるように見る側を引き込むストーリー展開がなされているのだ。

想像を裏切るラスト

このドラマのラストは、見る側を完全に裏切るものとなっていたのではないだろうか。どこかで最後は本来の女の幸せ、平凡な真実の愛に触れたいと願う女へとなれるラストを勝手ながら願っていた自分自身に気づかされた。完全に騙され、獣道を生きる女そのもののあり方を思い知らされる結果となった。どんな形どあれ、表舞台には立つことない女は歩んで来た道を引き戻ることも、新たな道を選択することもできない葛藤をラストまでしっかりと描ききっている。この裏切りはかなりの衝撃であった故に、今までみたドラマの中でたもなかなか忘れることができないラストの一つになったといっても過言ではない。思い描いていた、想像していたラストではなかった、というショックだけではなく気持ちよく裏切ってくれた!というショックのほうが大きいそんなラストが心地よく感じられてしまうのだ。獣道を極める女の姿を描ききるラストにシリーズ化を期待させるものとなっていた。

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