恋をしたくなる、珠玉のオムニバスストーリー
丁寧な人物設定と舞台設計
京都の路地裏にある「ものづくり」職人たちの住む長屋を舞台にした、オムニバス形式のストーリー。
麻生先生の漫画は、いつも登場人物の設定がとても丁寧。人物が魅力的なのはさることながら、今作の登場人物たちは「ものづくり」と一口に言っても製本職人、銀細工職人、キャンドル作家、画家等と多種多様。恋愛メインのストーリーだけれども「作者はこの仕事をしたことがあるのかしら?」と思うほど職業の内容もしっかりと描かれていて、(かと言って専門的になり過ぎす)その職業自体にまで興味を持ってしまう。そして舞台の京都、路地裏、長屋。この情緒あふれる風景と生活感の漂う描写はさすが。麻生先生は京都出身でもなさそうなので、しっかりと下調べと取材をして反映させているのだろうなと感心する。
理想的なコミュニティ
舞台の長屋の生活から現代のシェアハウスを連想した。個々の生活、プライバシーがありながら、隣人とゆるくつながる心地よいコミュニティ。干渉しすぎるでもなく、孤独でもない、むしろとっても楽しそう!むかーしの長屋、というよりはシェアハウスのようなイメージの、理想的なコミュニティが描かれている。登場人物は恋愛でも、人生についても悩むし、安定した職業ではない住人ばかりなので「生活できてるの?」「もうかってるの?」というような現実味を帯びた会話も交わされるが、(オムニバス形式なので、必要性もあっただろうが、住人の入れ替わりがあるのもリアル。)舞台となるコミュニティ自体のネガティブな要素は描かれていない。住人同士が友人のようにもなるし、常連さんにもなる。そして何か問題が起きれば助け合うこともできる。でも決して押し付けがましくない、適度な距離感。むしろあっさりしているようにも見える。ここでは住人に「ものづくり」職人という共通項があり、それがお互いに切磋琢磨しあう要素にもなるけれど、このようなコミュニティの在り方は、若者のシェアハウスのみならず、新たな理想的なコミュニティの形として現実世界でも望まれているのではないかと思う。
十人十色の恋愛模様
これはストーリーに恋愛要素が無くても楽しめるのでは?と思うほどだが、職業同様、様々な恋愛模様にきゅんきゅんする。ハッピーエンドのストーリーも、バッドエンドのストーリーも、ほっこりするストーリーも、もどかしいようなストーリーも。人物の内面描写も巧みなので、共感する思いがどのストーリーにもあちらこちらに散らばっていて、切なくもなるけれど、優しい気持ちにもなれる、共感できる箇所が満載。「恋愛」というフィルターを通して、お互いの人生が交わる時に生まれるパワーや、新たな発見を、ともすれば暗くなってしまいそうな面も含めて優しく爽やかに仕上げているのが読者に伝わるので、「恋っていいな」「恋しよう」という読後感を残してくれる。
路地恋花は、じんわり心に残る、大事にとっておいて読み返したくなるような物語が詰まっている。
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