中学生の実態から社会問題まで幅広く取り上げた学園マンガ
中学生のリアル
このマンガの特徴はなんといっても時間の流れる遅さであると思う。半日の事件に3-4話かけ、サザエさんシステム(1年たっても登場人物が年を取らない)ではないにも関わらず、登場人物たちが1年過ごす間に私たち読者は10年も年をとってしまった。そのぶん、誰がどこで何をしていたのか、その時どう思っていたのかが、主人公以外の人物に関してもこと細かく描かれていて、そこに中学生のリアルな生活や心情を見ることが出来る。学校帰りに男子はゲーセンに、女子は買い物やカフェに行って偶然他校の友達と会ったりだとか、学校でのふとしたリップの貸し借りだとか、誰もが経験したことのあるような中学生活が描かれていて勝手に登場人物に共感したり感情移入してしまう。雛姫と真が同じ人を好きになって微妙な感じになるのも、そこで大風がふたりに対して行け行けと煽るのも、実際の学生時代に見たことがある光景である。大人になってからもこのマンガを読むと当時を思い出して懐かしくなってしまう。
同様に両親がいなくて寂しい思いをし夜遊びに走った万里や真幸の心情や、いじめっこの久我城の心情やいじめにいたるまでの経緯なども、おそらく中学生目線でリアルに描かれているのではないかと思う。自分と違った立場の人間の心情を知れるのがマンガや小説の良いところでもあると私は考えているのだが、このマンガを読むことで問題行動を起こす子どもの気持ちが多少理解できたり、少なくとも考えるきっかけになるのではないかと思っている。
万里の好きな人
マンガの中では最後まで明かされることが無かった万里の好きな人。平が「好きな人いるくせに」と指摘したときに否定しなかったことから、好きな人がいることは明らかである。ではそれは誰なのか?平は万里は雛姫が好きだと思い込んでいたが、それは万里本人が終盤で否定しているので違う。真には雷のときに抱きつかれても、「意外と着痩せするタイプ」など冷静に分析できるあたり興味がないと思われる。月子のことも当時は好きだったかもしれないが会わなくなって結構経っているようなのでまだ引きずっているとは考えにくい。
いろいろな意見があるけれども、私は一番濃厚な線は、ネットでも多くの人が推察しているとおり、平なのではないかと考えている。いきなりのBLで、しかも平にその気は全くないけれど。あまり何にも執着しない万里が平と同じ部活に入り、平のスケジュールや行動パターンを把握し、極めつけはどうしても同じ高校に行かせたがって勉強の面倒をみるなど、どう見ても平には対しては執着している。親が仕事で忙しく家にいることが少なかった万里にとって、常に一緒にいた平は、千歳くんや真理絵さん以上に家族的な存在なのかもしれない。もしかしたら家族愛を恋愛と勘違いしているだけかもしれないが、少なくとも中3のこの時点では万里の好きな人は平だったというのが私の見解である。
しかしながら平は全く気づいておらず、さらには雛姫が好きな様子が見て取れる。もし万里が本当に平を好きだったのなら、この漫画の中で一番苦しい恋愛をしていたのは万里なのかもしれない。個人的には平と雛姫がくっついた後、万里には成あたりとくっついて結婚してもらいたいと思う。成なら平と顔も似ているし、結婚したら正式に天野家の家族にもなれるので良いのではないかと勝手に考えている。
社会問題と家族の形について
さわやかな青春ドラマと見せかけて、共働き家庭での子供の孤独や不登校、いじめや自殺問題、薬や育児放棄等々、その時々で話題になっている社会問題をとりあげているのもこの漫画の特徴である。本編では平がこれらの問題に立ち向かい、万里の協力を得ながら解決していく。
誰にでも平等に優しく、難しい問題に直面しても決して諦めない平を見ていると、育った環境が大きいのではないかと感じる。身長や見た目、成績など多少のコンプレックスがあっても、家族や周りの人間から愛され信頼されのびのび育てられれば、自分と周りの人間を信じる力がつき、どんな困難に出会っても諦めずに立ち向かえるのではないかと思う。漫画の中ではピンチの時に手を差し伸べる万里が格好よく書かれているけれど、少々歪んでいる万里はあくまで平だから助けるのであって、赤の他人が困っていても特に自分から助けに行ったりはしないと思う。うざがられながらも人の問題に首をつっこんで解決していこうとするのは平なのである。
天野家のパパママ、ジジババを見ていると、子供が調子の良いときも悪いときも信頼し、助言や手助けをしつつも必要以上に干渉しない、そういった姿勢が子供の積極性や責任感を育てるのではないかと思う。和も平も成も、自分が損をしたとしても人のために動く、とても良い子に育っている。そしてまたそれを家族は評価する。天野家の形は今の日本に少なくなってしまった理想的な家族モデルといえるのではないだろうか。
天野家の人々以外にも二下先生をはじめとする教師陣、日下夫妻、他のクラスメートやその両親など、どのキャラクターも器用不器用さまざまながら愛にあふれている。自分の中学時代を思い出したいとき以外にも、ちょっと感動したいときやほっこりしたいときにまた読み返したいと思えるマンガである。
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