普通ならスルーしそうな題材をメインにしてフルコースに仕上げた腕前
高台家の人々は映画!連載ごとの映像化に驚きを隠せない!
森本梢子先生と言えば、「研修医ななこ」「ごくせん」「デカワンコ」でも有名。しかも3つの作品ともドラマ化されていて、さらに今回の「高台家の人々」では、映画化です。映像化しやすい漫画家さんのひとりです。コメディを描かせるとうまいなぁと思います。今回の漫画は、空想パターンをうまく取り入れて、おもしろい形の漫画に仕上がっています。まずは表紙に圧倒されます。黒い髪に青い瞳、ハーフというだけでインパクトあり。美形3人並んで映っていれば、すごく目を引くし、どんな話が始まるのだろうとわくわくしてしまいます。ページを開くと、木絵が空想しているシーンから始まります。空想が好きな普通の家庭に育った女性。彼女の空想好きというところから、いろいろな本が好きなんだろうなということ。いろいろな空想の世界を持っているので、たくさんのジャンルの本を読んでいることが想像できます。仕事中にも想像の世界に飛び込んでしまうので、課長から睨まれる。本人は空想力は仕事や勉強の邪魔になるだけと思っていますが、それだけ空想を膨らませられるのなら、なぜ作家にならなかったのだ!と木絵を揺さぶりたいほどです。でも、木絵という人は野心など微塵もないような人です。おっとりとして人にやさしい。「ごくせん」「デカワンコ」では、こんなほんわかした人はいなかったなと思います。
王子様が木絵を選んだ理由
木絵が仕事を休んでいる間にニューヨーク支社から来た人がいた。その人は「高台光正様!」確かに様をつけて呼びたくなるほど、青い瞳と黒色の髪が印象的で神秘的なイメージです。木絵の空想の世界では王子様になっていましたが、それがすんなりと似合ってしまうような人。彼女は、職場の友人に「高台光正」という名前を教えてもらいます。でも、一度で覚えきれなくて「高台なんとか様」といつもいつも心の中でつぶやいています。その時点で木絵に親近感を覚えてしまいます。人名覚えるのは大変です。たくさんの人に会うのに覚えてられるかい!と思うのです。年齢が進むとさらに記憶するのがつらくなる。彼女は29歳なので、まだ脳も若いはずなのに覚えられないということは、彼にあまり興味がないということなのだろうと考えられます。高台光正に目の前で光正という名前を教えてもらい、さらに食事に誘われたらさすがに名前が入ってきます。高台なんとか様ではなくて、高台光正という名前が木絵の中にメモライズされ、さらに心も温かくしてくれます。一気に恋モード!木絵にこんなに短い間で親近感を読者にもたせるというのは至難の技。でも、それをさらりとなんでもないことのように入れてあります。光正が彼女を選んだ理由というのも3回の空想をたまたまよんでしまった。それが自分のなかのつぼに入ってしまった。毎回好きなパターンだった。こんなおもしろい空想する人は心が豊かな証拠です。恋愛だけに必死でもなく、それがよかったのでないかなと思います。食事に誘ったら彼女は「どうしてですか?」と驚いています。それも新鮮だったのではないでしょうか。茂子の証言だと光正はモテる。茂子の証言がなくてもモテるだろうことは予想できる。もしかしたら、自分から誘ったのは、初めてなのかもしれないと思いながら読みました。光正は意外と慎重派みたいなので、なかなか誘いたい人がいなかったのではないかと思います。誘わなくても女性の方から誘われていくパターンでのデートを何回かした。しかし、この人はという人に出会えなかった。テレパスだから余計にデートするのが嫌になったパターンかな。人はいつもいろいろなことを想像しています。デートしているときもいろんなことを考える。その考えが読めるというのはつらい。計算高い女性も彼の手にかかると手のうちが読まれて、きっとその日のうちにさよならされちゃう。どうしてなのかわからない計算高い彼女は、また懲りずに彼にアタックするなんてことを想像してしまいます。1巻のエピローグでいきなり木絵とうまくいってつきあうことになるので展開早い!つきあうつきあわないで普通ぐちゃぐちゃになるのにそれをさらりとやってのけた。え?じゃあ、次の漫画は続くの?と少し不安になりました。つきあうようになっても、木絵が途中で不安になるようなことがあり、森で刃物を研いでいたり、墓に埋められていたり、へんな動物が死んでいたりしました。想像力豊かな彼女だからこそできた技!不安になると、こういう妄想なのかと読者も笑いの渦に巻き込んでしまいます。光正が木絵を選んだ理由は、違和感がなく、読者の納得も得て彼女以外を選んでほしくないとまで思ってしまいます。光正のお母さん登場のシーンでもとにかく応援をしたくなる彼女です。ほんわかしていて素直で何色にも染まれそうです。「もしテレパスがいたら君は親しくなりたいと思う?」という彼の質問に「絶対イヤだ」と答えながらも心のなかで「高台さんなら考えるだけで気持ちが伝わったらちょっといいかも」と考えていた木絵。その一言で彼は救われたのはないでしょうか。そう思ってくれる彼女をこれから一生のパートナーに選んだ彼は、心のなかがほんわか幸せな気持ちで満たされたのでしょう。今まで味わってこれるはずのことをテレパスという能力があるために味わえなかった。それが木絵に出会ってから、彼の笑顔が増えた。その笑顔のシーンを見るたびにきっと幸せなんだなと感じます。「サトラレ」という映画がありました。それは自分の心が全部他の人にわかるというものでした。今回と逆バージョンでしたが、心の中がわからなくてよかったと思えるような気持ちになるのと、主人公の彼のやさしさに救われる映画でした。高台家の人々も三人とも幸せになってもらいたいなぁと思います。だって、誰にだって幸せになる権利はある。しかし、美形の三人だけど、恋には臆病にならざるをえないのかなと思います。茂子も自分が傷つく前にさっと自分から身を引いてしまっています。振られるということは、ダメージが大きいです。はっきりと断られたら断られた分だけ傷つきます。
ストーリー展開のすごいところ
高台家の3人の能力は、おばあちゃんから引き継いだものだった。祖父祖母のなれそめのエピソード、両親のエピソード入ってきて、親子でも性格が見事にばらばらなんだということがすごくわかります。ひとりひとりを違う人として、ちゃんと性格わけされていて、人物設定がしっかりしています。光正、茂子、和正の3人は恋のパターンも何もかも違う。同じ能力を持っていても性格も違う、恋の仕方も違う、それがすごく魅力的でおもしろい漫画です。
アーサー、一途な人だということがわかります。おじいさんになった今でもアンを気遣って様子を見にきてくれる。アンの大切な友人のひとりになっているのがわかります。茂正がイギリスで残りの人生を過ごしたいと言ったときに彼はたくさんのお手伝いをしてくれたのかなと思います。茗子さん、日本では二人の力になった人はこの人。イギリスに行くのがポピュラーでなかった時代。アンも心細かったのではないでしょうか。料理も違う。生活習慣も違う。そのときに力になった人。それぞれの国に協力者がいなかったら、恋もうまくいくものもいかなくなってしまう。それがわかるような仕掛けになっているのがにくいですね。
24章で長靴をはいた猫、ヨシマサが贈り物を持って帰ってくるというところで、木絵の妄想が電話にさえぎられてしまいます。妄想の世界のヨシマサが持って帰ってきてくれたものがすごく気になっていた和正。現実の世界でヨシマサがいなくなって一週間たったときに純と一緒に戻ってくる。純と一緒に戻ってきたことで、妄想の世界のヨシマサが持って帰ってきてくれたものが「純」と結びつく。妄想の続きを上手に演出して現実の世界に結びつけています。こんな裏技のような神業。思いつくのがすごい。和正も不器用な恋をしているなと思います。
2つのストーリーに共通する展開のすごさとは、最初に書いたことが後々のお話に影響することです。インパクトがあっておもしろいです。ミステリーではないけど、うまく騙してくれた的な効果があるのだと感じます。時間の流れとともに素直に読ませてくれる作品も好きですが、最初のことが後々に影響する話を考えるというのは、どうしたらできるのか?お話のラストから思いつき、最初を考えるのか。最初を考えていたら、自然にそんな流れになるのか、とても不思議です。それをいつも上手に描いているのが森本梢子先生です。毎回展開の速さと面白さにはまります。
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