蝶の羽化を見るようだ
大人たちが面白い
え?そんなピンチの時に、なんで大人を呼ばないの?と仲間の誰かが拉致されるたびに思いましたが、警察や教師や親が「あっさり」しているのがこのドラマの良い所でもあります。そんな大人の在り方に好感も持てました。
子供と接するときに、自分の意思を見せる大人は、一見大人げないようですが、それこそ子供をリードするのにふさわしい態度なのかもしれません。お互いに向き合って話し合うための「前段階」が必要なのだと気づかされました。
このドラマのように、大人側の意思を伝えておくことで、子供は考える。考えて行動するうちに、本音でぶつかってくる。そうやってステップアップしていくのが、大人と子供の向き合い方なんじゃないかと考えさせられました。別に教育系のドラマではないのですが、高校生の部活がメインなので、おのずとそういう場面が目につきます。
大人たちの態度があっさりしている、とはいえ、内面の愛情は伝わってきます。高校生相手に、やすやすと愛情を開示しないのが今作の大人たちの良いところです。
とはいえ、頭ごなしに、「こうしなさい、ああしなさい」と言いません。こうすればこうなる、と宣告をしたり、客観的にどう見えるのかを伝えたりします。母親は息子に「ちっせー男」とか、「それでいいと思っているの?」と発破をかける。その言葉の意味は「お前がどうするか見ているよ」ということなんですよね。言わずもがな、ですね。
なので、今作を通して私は、男の子を育てるって大変だなあと思いました。だけど、息子って本当にかわいい。男の子を生んで育てた経験が無いので、あまり考えが及びませんでしたが、着眼できる良い機会となりました。男の子を育てるのは特別な仕事なのです。
本気かどうかを考えさせる場面がいくつもありました。逆を言えば、子供は、自分の気持ちがよく分かっていないものだ、ということでしょうか。言われたことをしていればいいや、とか、それしかしてはいけない、とか。何かをやりたいと言い出しても、強い動機が無いから続けない。そんなことはよくあります。簡単にうまくいくことなんてないのです。「何かに夢中になったことあるか」と主人公は友達に問いますが、それが、この物語の全てだと感じました。そして、それを見守る大人たちの姿が個性的で、興味深かったです。
女性の願う男子像
今作の挑戦的なところが、女子受けを狙いまくっているところではないでしょうか。顔がキレイな男の子たちがずらりと配役されています。そして新体操。演技の美しさ、技の素晴らしさ、音楽に衣装、目に愉しい競技です。男同士がボールを奪い合ったり肉体をぶつけ合う競技ではありません。女性にとっては見やすい、いや、むしろ見たい、興味を惹かれる世界観に仕上がっています。ドラマの他に、少女漫画誌の「なかよし」で漫画連載されたり、公式写真集が主婦と生活社から出版されています。たまたま女性が好きな「絵」だったのではなく、制作側が、意図して女性の好きなものを集めた「絵」を作っていったとしか思えませんが、どうでしょう。
毎回、感動的なストーリーに加えて、本格的に俳優たちが訓練し臨んだタンブリングの迫力など、もっと男性にも楽しんでもらえそうでずが、女性に売っていったのはちょっと勿体なかった気もします。女性受けを狙って何が悪い、とは思いますが、なんだかちょっとモヤっとしなくもないです。
ヤンキーとは言え、女性が惹かれる「本当はいい人」な優しいワルです。色々と美化されている感じが否めません。そうなるとちょっと嘘くさくなってつまらないんですよね。それはそれで、新しかったのだとは思いますが。ヤンキーでスポ根で、青春ドラマ。マドンナ役はいますが、恋愛的要素は少なく…どうも視聴者が登場人物に恋をしてしまうような設定を楽しむ仕組みのようです。
そんなもろもろを感じつつ、脚本家を見てみると江頭美智留・清水友佳子・渡辺啓の3名でお仕事されていて、やはり女性の書いた作品なのだと納得。江頭美智留さんは大ヒットしたヤンキーと担任教師のドラマ「ごくせん」の脚本家で、余計に納得がいきました。この方は、ヤンキーと強い女性といったアイテム遣いが非常にうまいんですね。また、渡辺啓さんは、芸人グレートチキンパワーズの片方。グレチキ全盛期を共にした私は驚きましたが。彼は脚本家に転職されていたのですね。ドラマの華やかさやかわいらしさは、この方から来ているのかもしれません。なるほどな作風でした。
高校時代と学園ドラマ
高校生の青春ドラマはたくさんあります。小学生のドラマもよく見てきました。それに比べると、中学生の学園ものは少ないように感じます。(金八先生も小学校・高校のドラマが多かったので、中学校ドラマにしたそうです)「中学生」は個人差が開きすぎている時期だからでしょうか。
1学年の教室に小学生みたいな思考の子供と、高校生に近いような思考の子供と、その間を埋めていく様々な段階の子供がいます。家庭で育んだ常識の違いも中学生辺りから明らかになってくるし、性格の癖もはっきりしてきます。初めての経験も多く、他の小学校出身の生徒と出会い、部活や受験と、自分の能力で、どれくらい立ち向かっていけるか、毎日が個人的に忙しい時期だと言えるでしょう。中学生の成長を描くのは難しく、覚悟がいる。書くのも見るのも、どこか心が痛く、そっとしておいて欲しい気持ちになります。演じるのも難しいのでは。考えるだけでもそのドラマが少ない理由が浮かんできます。それが、高校生になると、子供時代の集大成のように体が出来あがり、物事を進め、考えを深めることができます。
小学生が幼虫、中学生がサナギ、高校生が生まれたての蝶。それも、羽化して飛び始めるところが高校生といったところ。子供からも大人からも注目を集め、無事に飛び立てるときには、大きな感動を呼びます。まさにドラマチックなのです。だから高校生のドラマが多く、見る人も多く、何作も何作も作られていくのでしょう。自分の高校時代なんて、辛くて後悔が多い黒時代でしたが、高校生のドラマを見ると、そういうコンプレックスも忘れていたり、そういえば楽しかったことなんかも思い出したりします。
今作は、理想的な高校生活が描かれていて、綺麗なものが見たい人に綺麗なものを見せた作品ではありますが、「それがいい」のだと思います。ドラマの特性として、時代を反映する役目があるとも思ういっぽう、普遍的ないわゆるベタなドラマを忘れず、大事にしたい。放送時の視聴率は悪かったようですが、こういう作品は、見ても見なくても、存在自体に意味があるように思います。ふとしたきっかけで、いつ見ても、いい応答をしてくれるからです。
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