ハリソン・フォードとP・ベタニーのための映画
老兵ハリソン・フォードの『家族を守る父親』
ハリソン・フォード。『スターウォーズ』のハン・ソロや、『インディー・ジョーンズ』シリーズの主役を張ってきた名俳優だ。そんな彼が当時黎明期を迎えていたサイバー犯罪モノでヒーローを演じるのだから、カッコ良くないわけがない。
とはいえ、言ってしまえばすでに年期の入った古強者。アクション自体にハン・ソロのようなキレの良さや、インディー・ジョーンズのようなど派手さは見られない。
そこで今作の役回りは『サイバーセキュリティの凄腕エンジニア』だ。そして『家族を守る父親』でもある。今まで演じてきたアクションヒーローとは一味違った演技に挑戦したのだ。
これが当たり役だったのかは後年の出演作を見ればわかる。インディー・ジョーンズのリメイクに出演、自身と同じく年を取ったハン・ソロとして活躍。ハン・ソロの『家族を守る父親』としての姿はやはり年もあってか見事なものだったが、『凄腕エンジニア』が適役だったかといえば疑問が残った。
やはりハリソン・フォードは『無鉄砲なアメリカンヒーロー』の肩書が一番似合うのだ。今作ではその良さが生かしきれていなかったように思える。
ポール・ベタニ―の『頭脳明晰な犯罪者』
ハリソン・フォードほどに有名ではないが、P・ベタニ―の悪役演技がこの映画では特に映えていたように思う。スマートな輪郭に鋭い目つき。意味深な微笑を見せる彼の演技は、まさに『完全犯罪を目論む銀行強盗』といった強敵感を醸し出している。悪役として完璧だ。
彼のその後の経歴を見よう。同年演じた『ダヴィンチ・コード』の薄気味悪い修道僧シラスは、今作さえ上回る強敵感を発揮している。『アイアンマン』シリーズではアイアンマンの執事であり、絶対的な知性と愛らしいユーモアを備えた人工知能J.A.R.V.I.S.の声優を担当している。特に後者はファンアートに彼のイラストが描かれるほどで、本作『ファイアーウォール』はまさに彼の魅力を先立って発見できたという点において貴重であるといえよう。
惜しむべきはその演出と脚本か
『ファイアーウォール』と邦題に銘打たれただけあって、今作のテーマは「セキュリティを電脳化することで本当に強盗から銀行を守れるようになるのか?」という疑問の投げかけである。今作のセキュリティはシステム的には万全だったが、そのシステムを作ったエンジニアが襲われることで、銀行が危機に陥るというストーリーだ。例えハッカーなどの攻撃に耐えられたとしても、人間が狙われれば結局はおなじ、というメッセージが込められているのだろう。
たしかにそう言った意味ではうまく作られた映画ではあるものの、些か犯人グループがおそまつである。
セキュリティの壁が厚くて抜けられないなら、その壁を行き来する人間を襲ってしまえ。この発想までは非常に論理的で犯罪美学のようなものを感じさせるのに、人質の扱いがぞんざいでグループとしての統制も取れていない。せっかくのハリソンフォードも相手が弱すぎては感情演技しか魅せられないし、せっかくのP・ベタニ―も部下の教育ができていなければ足元から掬われるのは当然である。
映画としての面白さで言ってしまえば、このレベルで十分なのかもしれないが、なんとなく見た者のこころに「こんな犯罪者たちなら別に怖くないなぁ」というようなもやもやした感情を抱かせてしまった。これではサスペンスとしては失敗である。名優たちの演技にだけ注目して、ストーリーは『インディ・ジョーンズ』でも見るかのように気楽に楽しむべきかもしれない。
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