失った記憶は、周囲の人の記憶となる - 美丘-君がいた日々-の感想

理解が深まるドラマレビューサイト

ドラマレビュー数 1,147件

美丘-君がいた日々-

4.004.00
映像
3.50
脚本
4.00
キャスト
3.50
音楽
3.50
演出
4.00
感想数
1
観た人
1

失った記憶は、周囲の人の記憶となる

4.04.0
映像
3.5
脚本
4.0
キャスト
3.5
音楽
3.5
演出
4.0

目次

限られた命と向き合う力

もし、大切な人もすべて忘れてしまったら。もし、大切な人に忘れられてしまったら。自分だったらどうするだろう。きっと、これまでつむいできた時間がすべて無駄になってしまうような喪失感にさいなまれることと思う。体も思うように動かない、記憶もどんどんなくなっていく。そして数年ともたずに死に至る。これは、この不治の病をかかえ、懸命に今ある時間をいきようとする女性の物語である。ドラマでは直接語られることはなかったが、原作によれば、ヒロイン・美丘の病名はクロイツフェルト・ヤコブ病である。幼稚園のときに遭った交通事故のため、ドイツ製の人工硬膜を移植して、この病に感染した。潜伏期間を経て、発症すると、体の自由が奪われ、記憶もなくなり、呼吸の筋肉もなくなっていくため、1年から2年で亡くなるという難病だ。ドラマの中では、病名や経緯の話題よりも、太一との恋愛を中心に、家族や友達との関係を深く掘り下げて描いている。命と向き合うドラマなら、原作に忠実に病気のことも詳細に描いても良かったのではと思う。ドラマでは、突然発症したということになっていたが、病気を知ったときどんな気持ちだっただろうか。美丘は、限られた命を、人から見ると自由奔放で疎ましく感じるところもあるが、自分がやりたいと思うことに惜しみなく使うことで、力強く生きようとした。そんな中で太一と出会い、恋人として付き合い始めて、発症した病気と、皆が皆、どう向き合うのかというドラマのテーマがスタートするのである。


懸命に生きる、どの命も無駄にしないで

「いらないんだったら、その命、私にちょうだい!」太一たちと遊びにでかけた美丘が、いじめを苦に自殺しようとしている子に向かって、叫んだ言葉である。なぜか、印象に残っている。これによって太一以外の友人にも病気のことが知られてしまい、その後微妙な空気になりつつも、友人としての絆を深めていく。美丘は病気を発症したあと、思いのままに、そして常に明るく過ごしてきたが、それはどこか本心ではなく、そう努めてきただけであって、命を投げ出そうとする人を前にして、ようやく本心をさらけ出せた瞬間であった。世の中には、いじめや虐待などで自らの命を投げ出す人が後を立たない。そういう苦しみを持って、解決策も見出せずに路頭に迷う人はさらにたくさんいることだろう。だが、視野を広げれば、生きたくても生きられない人もたくさんいて、その人たちの立場に立ってみれば、自ら命を絶つということは言語道断であることが容易に理解できる。死ぬくらいならもっと何か生き抜く方法がある。このことを伝えて、励ましてくれているような気持ちになった。

女性としての幸せを、少しだけでも

女性としての喜びを知ってもらいたい。せめて好きな人と一緒にいるという幸せだけでも。太一と付き合うことを反対していた美丘の母が、美丘に寄り添う太一を見て、心改め、太一と太一の親に向かって発した思いである。美丘の行く末を覚悟して、親として限られた命であることを悟るにはよほどの葛藤があったに違いない。学生だった時分、社会に出て、ある程度大人になれば結婚して、新しい家庭が築かれるのだろうなんて甘いことを考えていた自分が恥ずかしくなった。おかげで、自力での生活が困難で入院しなくてはならなくなるまで、二人で生活する時間を得ることができた。明るく、幸せいっぱいに見えるカップルが、本当は裏に悲しい事実を抱えていると思うと、本当に切なく感じる。命をテーマとした悲しいラストを迎えるドラマでありながら、その悲しみと明るさや幸せを裏表で表現したドラマだった。そう考えると、少し天然で、不思議キャラの役者をヒロインに起用したのは、番組としてあっていたのだろうと感じる。

思いやりこそ、人を作る

このドラマは、思いやりにあふれている。美丘が太一に、太一が美丘に、そしてその両親に、主治医が美丘に、そしてその周囲にいる人に。二人の恋は本物だった。病気を知ってより絆の強いものになった。美丘の人生に、より多くの華を添えることになった。病室で、ついに太一の顔が分からなくなった美丘。覚悟はしていたものの現実についていけず、その場から走り出てしまう太一。二人がつむいできた時間は終わりを迎えようとしていた。最終回。一時的に好転した美丘は、太一にメッセージを吹き込んだipodを渡す。「私にはもう時間がないみたい」という語りから始まるメッセージの回想シーンは、涙を誘うものだった。命とは、はかないものだ。そして、人が人を思いやる心を養うこと、それが生きている人の幸せにつながっていく。少し大げさだけど、最後のシーンを見ていると教えられたような気がするのである。世界には病で苦しんでいる人はたくさんいる。そして、未だ治療法も発症原因も見つからないような難病に見舞われている人もいる。健康に生きていることにあぐらをかかず、そうした病気と闘っている人にも目を向けるべきではないだろうか。病気をただ知るということだけでも一歩前進である。ドラマ上、病気に関しての経緯は描かれなかったのが少し残念だが、原作には、もっと詳しく書かれているという。原作も一度は読んでみたいと感じる作品だった。

あなたも感想を書いてみませんか?
レビューンは、作品についての理解を深めることをコンセプトとしたレビューサイトです。
コンテンツをもっと楽しむための考察レビューを書けるレビュアーを大歓迎しています。
会員登録して感想を書く(無料)

関連するタグ

美丘-君がいた日々-を観た人はこんなドラマも観ています

美丘-君がいた日々-が好きな人におすすめのドラマ

ページの先頭へ