特別なことが起こるわけじゃない、でもそれがいい
日常系日常型
この作品は、言ってみれば“日常系日常型”(著が勝手につけたジャンル名である。以下同様)のジャンルであろう。同じジャンルに属する作品として「らき☆すた」や「スケッチブック~full color’s」などが挙げられる。これらはキャラのかわいい容姿やかわいいしぐさを前面に出した“萌え系”とは違う。また、同じ日常系でもイベントや出来事を通して心理的に成長していく姿を描いた“日常系成長型”(「たまゆら」や「花咲くいろは」など)とも違う。“日常系日常型”作品というのは、主人公たちの何の変哲もない日常、変わりのない毎日を描いた作品で、身体的には学年が上がるものの、取り上げた行事を通しての心の面での成長はほとんど描かれないのが特徴である。本当に、学校生活の“日常”を切り取っただけの内容になっている。
予想の斜め上を行く発想
この作品ではとても印象深いセリフや言い回しが出てきた。「なんつってつっちゃった」、「パン人間か」、「ぐねっとくもんだね」、「イイ感じのレタスが」、「いわゆらねーよ」、「チネラスカ州」、「タオルタオル好き好き」など、枚挙にいとまがない。これらがなぜそこまで印象深いのだろうか?おそらく、ファンの予想を超える発想だからではないだろうか?授業をさぼりたいがために、どうにか口実をつけるために、ベンチからジャンプする。ジャンプはともかくとして、口実が欲しくて意味のないことをしてしまう、ということは多くの人は経験があるのではないだろうか?主人公のゆずこはジャンプに失敗してしまい、友達の唯から授業に出ろ、とたしなめられてしまう。一方、もう一人の友達の縁(ゆかり)はジャンプしたときに足をくじいてしまう。結果的に保健室に行くことになって授業がサボれてしまう上に唯とツーショットにまでなれてしまった縁を見てのゆずこのセリフが「ぐねっとくもんだね」。この発想はなかなか出てこない。だからこそ印象的で、記憶に残るのだと考える。名言が印象に残る、という現象は「らき☆すた」でもあった。「貧乳はステータスだ」の名言は有名であろう。
等身大の高校生
先ほど述べたように日常を切り取っただけの作品なので、キャラたちのやり取りはグダグダで取り留めのないものがほとんどである。後になって冷静になって聞くと、何が面白かったのか、ということもある。しかし、その時には面白いのである。仲の良い女の子同士がしゃべる内容だからこそ面白いのである。まさに等身大の高校生を描いた作品と言える。だからこそ共感できる部分が多く、それが支持される大きな要因になっていると考える。等身大だと思わせる要素はまだある。この作品で唯一と言ってもいい進路についての話を縁がするのだが、その話のきっかけもクダクダなとりとめのない会話であった。今まで中身のないことをしゃべっていたのに、何の脈絡もなくまじめな話になるというのも、このころの会話の特徴であろう。この進路についての話も、とってもしっかりした内容で共感が持てるし感心させられる。また、友達関係が広がるものの、いきなり全員と仲良くなるのではなく、ある程度の距離感を保っていて、メールをやり取りする相手も決まってきた、というエピソードも、実際にはよくあることであろう。
あらゆる年代でそれぞれの思いをもたせる作品
そして、ここが最も大切なのだが、主人公たちが楽しそうに、いや、本当に楽しく高校生活を送っているのである。初めは目の位置に違和感があったが、あの目の位置の顔が笑い顔になると、柔らかい、優しいイメージになるから不思議だ。作者はそれを狙っていたのかもしれないが。そんな感じで楽しく過ごしているからこそ、この作品を見るあらゆる年代が共感できるものになっている。もうすでに高校を卒業してしまった人は「私もあんなふうだった」とか「あんな感じの高校生活を送ってみたかった」とかと言った感情になるだろうし、今後高校生になる人にとっては「高校ってあんな感じなのか」、「私もあんな高校生活が送れるのかな、あんな感じで過ごせればいいな」などというような思いが頭をよぎるだろう。高校に進学するかどうか迷っていた人が高校に行きたくなるかもしれない。現役の高校生にとっても共感できる内容が多いのではと推測できる。特別なことは起きないが、ある特徴を持たせつつ普通の高校生活を送っていく、というのが“日常系日常型”作品の成功のカギである。本作では、主人公たちの奇抜な発想がそれであろう。情報処理部、という一番のオリジナル要素はあるものの、これ自体は作品の人気とはあまり関係がないと思われる。部活の場面は全体から見ても割合はそんなに高くないからだ。先ほど挙げた印象深いフレーズも、情報処理部の活動中に生まれたものはほとんど含まれていないことからも判断できる。本作の人気の要因は、あくまでも主人公たちの日常の言動にある、と考える 。
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