リアルな人間描写に感動 - 蜜の味~A Taste Of Honey~の感想

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蜜の味~A Taste Of Honey~

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映像
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脚本
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キャスト
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音楽
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演出
4.50
感想数
1
観た人
3

リアルな人間描写に感動

4.54.5
映像
4.0
脚本
4.5
キャスト
4.5
音楽
4.0
演出
4.5

目次

人として高潔なヒール役に感動

私は一年ほど前くらいから、

「ドラマレビューを書いてみたい」と思い始めたのだけど、

そう思わせてくれたドラマがいくつかあって、

そのうちのひとつがこのドラマだった。

その理由は、琴線に触れるようなポイントがいくつもあったからだが、

その中でも一番感動したのは、

ヒール役の「池澤 彩」が

ヒール役だけど人としての高潔さを失っていない

ということ。

主人公の「森本直子」への嫉妬心から、

「直子」を執拗に追い詰めていくんだけど、

こういういわゆる「ヒール役」の人物像はたいてい、

人間性や精神性を築いていく自分自身の基盤が傷んでいたりして、

人としての高潔さを見失っていることが多いと思うんだけど、

「池澤 彩」は違うのだ。

もちろん、自分自身の嫉妬心から他人の幸せを壊そうとすること自体、 

彼女自身の基盤が傷んでいないわけではないのだけど、

それでも、「人としての誇り」すべてを見失っているわけではなかった。

「直子」の婚約者の「則杉」が、

「直子」への嫉妬と裏切られた(と感じる)怒りによって

人の「命」を預かる医者としての使命も見失い、

完全に復讐の鬼と化し暴走してしまっていることに対しても、

その愚かさを一喝し、医師としての在り方を示し、

「則杉」の再生の道までも、慈悲をもって用意する。

「直子」を追い詰めていく様はすさまじく恐ろしかったし、

それそのものはやっぱり、「人間の愚かさ」全開、という感じだけど、

人は誰しもそんな「愚かさ」を持っていて、完璧な人間などいない。

彼女は常に、自分自身に潔くあろうとしているし、

それは他者に対しても同様だ。

冷静に状況を把握でき、必要とあらば同僚をかばいもする。

ただ、唯一、彼女自身の弱みを強烈に刺激する相手が「直子」だったのだ。

「直子」がからむと、たちまち「彩」の中の均衡が崩れてしまう。

そういう関係性の相手って、いるよねー、と思いながら見てた。

自分の平安を揺らがせる相手。

揺らされると確かに不快だけど、感情もかなり揺れてしんどくなるけど、

自分自身のありたい姿を改めて思い出させてくれたり、

取り戻してくれる存在、なんだよね。

彼女は、自分の納得いくところまで勝負に挑み、敗北し、

それまでの無理がたたって倒れ、病床の中で気づき、言う。

「人は、【許す】ということを学ぶために生かされている気がする」と。

本当にそのとおりだなあ、と思うし、

それはすなわち、「自分自身の愚かさを許す」ということだと思う。

そのために人は他者と出逢い、関わることで、

自分自身の愚かな姿を認識し、それを許し、解放し、

新しいステージへと歩みを進めていく。

そんな人生の歩みの変化を、

「池澤 彩」というキャラクターが、見せてくれていた。

演者の管野美穂さん、さすが。

演技、素晴らしい・・・!

こういうヒール役はあっぱれですね。

かわいらしい役はとことんかわいいのに

ヒール役、背筋寒くなるくらい、コワイ(笑)

理性と秩序を重んじ、人として高潔、でも一方で、

嫉妬に苦しみ、それをコントロールできないという愚かさを、

見事に演じてくれました。

常識や理性を守りたい人と超えたい人

このドラマの大きなテーマが、

「常識や理性を守りたい人と超えたい人」

の違いと、その衝突、葛藤、ということなんじゃないかと思う。

人はそれぞれ価値観や意識に差異があって、

それこそいろんな差異があるから

いろんな切り口でその差異を示せると思うけど、

このドラマは、その二つの性質の違い、として描かれていたと思う。

主人公の「直子」とその叔父である「雅人」は

叔父と姪の関係でありながらお互いに魅かれ合い、

世間すべてを敵にまわしてでも共に生きることを選択した、

「常識や理性を超えたい」人。

対して

「雅人」の元妻の「彩」や、「直子」の両親などは、

「常識や理性を守りたい」人。

この違いは、結構リアルだし、

日常的によく見られる違いだと思う。

私はほぼまちがいなく前者で、

このドラマみたいに「恋愛」を通してではないけど、

「生き方」ということにおいて、

家族や会社など、身近な人間関係において

このドラマのような衝突を過去に経験していて

すごく共感できるシーンがたくさんあった。

特に、「直子」が母親と二人きりで話をするシーン。

「お母さんが【あきらめるという愛】を選択したのは分かった。

でもあたしは、【貫き通す愛】を選ぼうと思う。

どっちの愛も覚悟がいるけど、私は私の選んだ道を行く。

お母さんと話してそのことがよく分かった。」

この「直子」のセリフ、母とのやりとり、

本当に共感した。

私も同じような会話を、両親と何度もしたから・・。

だからこそ、このドラマの母親のセリフも、

「彩」のセリフも、心に響くものがあった。

自分とは違う価値観の人の気持ちは、

すごく理解したいのだけど、

あまりにも自分ごとの人間関係の中だと

近すぎてよく見えなかったりする。

でも、こうしてドラマを通して見ると、

ああ、なるほど、そういう想いなんだなあ・・・

ということが、自然と理解できたりするもので。

「彩」が、「直子」と「雅人」にこう言い放つシーンがある。

「あなたたちは身内を捨てたんでしょう?

それで手に入れた勝利なんだから、それ以上のことは求めないで。

あなたの一途さは、そういう残酷な一途さなのよ。

だから、常識や道徳の向こう側にある、誰もつかめない愛をつかめたんでしょ。

自分の感情を理性でコントロールできる者だけが

人生の勝者になるのだと信じてきた私が あなたに負けたのは、

あなたの一途な強さ、理性を超えた純粋さに叶わなかったからよ。

大勢の傷ついた心の上に勝者はいるの。

だから勝者はいつも孤独で当然よ。

それぐらいの覚悟は持って生きてください。二人とも。」

これがすごく、響いた。

私は勝ち負けで生きてないので、

「人生の勝者」とか言われると「???」みたいになってしまうけど、

そこはまあ、そーゆーもんか、でよしとするとして、

「彩」のような価値観の人の真意が、

すごくまっとうに表現されていると感じたし、

自分はそれを採用して生きることはできないけど 

「ああなるほど、そういう感覚なんだなあ・・」

ってことがすごく伝わってきて、

自分の体験と照らし合わせたとき、相手の思いや真意に

触れられたような気がしたのだ。

どちらが良いとか悪いとかじゃない。

ただ、どちらにせよ、

人は自分以外の生き方で生きることはできないし、 

他人に自分の生き方を強要することもできない。

自分自身の生き方をまっとうすることが大前提。 

それができて初めて、本当の「相互理解」と「協力関係」が

築けるのだと思う。

愛と執着

この世界の多くが、「愛」と「執着」を混同している、と思う。

「執着」や「エゴ」を「愛」と呼んでいることのどれほど多いことか。

「彩」は、「直子」と出逢うまでは、「雅人」と関係は良好で、

同じ医師としても尊重し合える仲だった。

でも、「直子」と出逢い、彼女の「雅人」への恋心に気付くと

理屈を超えた不安に駆られ、気が進まなかったはずの結婚を無理やり敢行。

結果的に、どんどんと雅人との仲は壊れていった。 

彼女は彼女なりに「雅人」を愛していたのだろうけど、

その「愛」も、「直子に盗られたくない」という嫉妬心から生まれる

「所有」という「執着」となり果てれば当然、相手の心は離れていく一方だ。

そんな「道理」も、分かっていてもどうにもできなくて苦しいのが

男女の恋愛の感情、ってものだろうけれど。。

世の中のトラブルのほとんどといっていいくらい、

男女のもつれが原因だったりするものなあ・・。

自分の「愛してる」という感情をよくよく見つめてみたとき、

本当に「相手のことを愛して」いるのか、

「自分自身を愛してほしい」のか、どちらだろうか。

「自分自身を愛してほしい」のだとしたら、

何がそう思わせるのだろう。

そこを見つめない限り、

本当の意味で健全な「愛」を育んでいくことは難しい。

自分自身が満たされていたら、

相手は関係なく、「愛されているという感覚」で満ちているはずで、

その感覚で満ちているから、結果的に「相手に愛される」わけで・・・

結局、他人との関係性は、自分と自分の関係性の顕れなのだ。 

男女の愛を語るには、いろんな要素が多すぎて

とても言い尽くせるものではないけれど、

自分自身の欠乏感を満たすために相手と繋がるのではなく

自分一人でもちゃんと満たされた上で相手と繋がること

これを意識するだけでも、男女で生み出せる創造の中身は

まるで違ったものになるだろう。

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