『チキタ★GuGu』と漫画家TONOについて
老若男女全ての方におすすめしたい名作漫画
TONOという漫画家さんの知名度は大変もったいないと感じます。
アニメや漫画好きと集まるとまず、どんな作品が好きなの?という話になりますよね。
その際にわたしは必ず彼女の名前を上げるのですが、一発で通じたことはあまりありませんし、代表作を述べても同じです。
ひとえに掲載雑誌がマイナーであることと、特徴的な、いわゆる“へたうま”に分類されるであろう絵柄が所以ではないでしょうか。
この作品は朝日新聞出版発行の『ネムキ』という少女向け雑誌に掲載されていました。
ネムキ・・・“眠れぬ夜の奇妙な話”が元のネーミングですが、何とも怪しいですね。
しかし、あの今市子さんの『百鬼夜行抄』や、川原由美子さんの『観用少女:プランツ・ドール』が掲載されていたのもこの雑誌なので、知る人ぞ知る名作輩出誌でした。
現在は終刊し、『Nemuki+』という後続詩が発行されています。
さて、表紙買いという言葉があるように、漫画作品においての表紙カラーイラストの引力は重大な意味を持っていますが、正直に言ってTONOさんの漫画にはそれがあまりありません。
シンプルな線に白い部分を多く残した淡い着色が常ですから、ともすれば手抜きに見えてしまうでしょうね。
しかし少し心得のある方が見れば、その洗練された小物や模様使いのセンスには「おっ」と思わせるものがあるでしょう。
最近で言うと『宝石の国』の市川春子さんのような、ああいったシンプルだけどセンスの塊で漫画を描いてます!みたいなちょっとコアな漫画家さんが人気を得るのを見ると、次はTONOさんにもぜひスポットを・・・!と考えてしまいます。
勿論絵柄だけではありませんよ。
わたしがこの漫画を全ての方におすすめしたいと感じる理由は、後に述べるキャラクター達の魅力と、そのストーリー性にあります。
『チキタ★GuGu』に限らずTONOさんの作品に共通するのは、嫌な奴でもみんなどこか憎めないキャラクター達が織り成す、非常に人間臭い心の露呈する物語です。
逆に、完全に“いい奴”もいません。
聖人が人を殺すこともあります。
そういうところに人間臭さを感じ、フィクション上のリアリティを思わせるんですよね。
正直に言って、彼女の作品はどれをおすすめしたっていいんですが、あえて『チキタ★GuGu』を選んだのは、きちんと完結していて、なおかつ全8巻という読みやすい巻数であるからにほかなりません。
ひとつの作品を鑑賞する上で、これはかなり重要なポイントだと思いますので。
コミカルで魅力的なキャラクター陣
主人公のチキタ・グーグー。
ファンタジーの世界観での物語において、霊媒師や占い師のような“妖しい屋”の家の少年です。
彼の特異体質をもって、ひょんなことから人喰いの妖ラー・ラム・デラルと暮らすことになりますが、そこから少しずつ深い絆が生まれていきます。
なにぶん他のキャラクターたちが強烈なので、時に食われがちですが、芯が強く愛情深い主人公らしい人物です。
ラー・ラム・デラル。
チキタを喰うために一緒に暮らす妖です。
おいしく喰うためにチキタを一生懸命お世話するのですが、それが健気でかわいくってたまりません。
まぁ最終目的は捕食なんですが、長い時をかけて“お手入れ”した食材をいざ食べる時、彼は最初にグーグー家を襲った彼とは違っているでしょう。
人間クリップと妖オルグ。
チキタとラーのように共に過ごす人間と妖で、言ってしまえば未来の彼らの象徴です。
人間と妖、その異種間が一緒に居ることの意味と切なさを既に知っています。
ニッケル・シャンシャン
チキタと同じく一族で“妖しい屋”をしています。
この物語の中でも随一の不遇キャラですが、ちゃんと救われます。
色々と衝撃的なシーンの多いキャラクターです。
クリップもニッケルも、妖ではないけれど、訳あって多くの人間を殺めてきています。
チキタの周りにこういった人物が集まってくるのは、人間と妖とに本来は境界などないことへの説得力を高めるためでしょう。
事実、シンプルな台詞・モノローグ量に対して、キャラクターらの動きや心情などに、充分な納得がいきます。
TONOさんはこういった心理描写や状況描写が、非常に卓越しています。
ページは白くかなりシンプルなんですが、流れるような心の動きが目で見てとれる技法は、漫画家としてのセンスを感じますね。
隠れすぎた名作漫画家TONO
冒頭でも述べた通り、TONOさんの知名度はあまり高くありません。
しかし、この『チキタ★GuGu』は地味~に2007年にセンス・オブ・ジェンダー賞特別賞を受賞しています。
彼女の漫画には、軽い同性愛的表現が散見されますが、それによって大いに悩んだり苦しんだりというよりは、割りきって乗り切ってついでにはっちゃけちゃおうといったキャラクターがほとんどです。
そのキャラクターの性差がどうかとか性愛対象が何かなんて、単なる個性付けでしかなく、物語の本質はそこにはありません。
どんなキャラクターでも、喜び、悲しみ、間違っては後悔する、そういう人間性が垣間見え、それがTONO作品の大きな魅力となっています。
絵がうまい、話がおもしろい、設定が凝っている・・・どれも物語には重要かも知れませんが、キャラクターが生き生きと考え動き、それに共感できること、これを描ける漫画家さんは、そう多くはないと思います。
- あなたも感想を書いてみませんか?
- レビューンは、作品についての理解を深めることをコンセプトとしたレビューサイトです。
コンテンツをもっと楽しむための考察レビューを書けるレビュアーを大歓迎しています。 - 会員登録して感想を書く(無料)