誰にも描けない独自の諸星ワールド。
唯一無二の作家諸星大二郎。絵柄の安定した不安定さは誰にも真似は出来るまい。
それに反してストーリーは微動だにしない安定の説得力。
いつも思うのは、伝承や歴史的事実と諸星の虚構の境目が非常にあやふやでわからないと言うことだ。特に中国史などが絡むと、もはや諸星が歴史の語り部と錯覚してしまうほどである。知識の豊富さには舌を巻く。
しかし、まあ、この本は妖怪ハンターシリーズ、ジュリー似の稗田礼二郎が遭遇する奇々怪々な出来事を記したフィールドノートなので、ほとんどが虚構だわなー、間違いなく。(それでもやはり作者の民俗学の見地は恐るべし。)
さて、この『海竜祭の夜 妖怪ハンター』、表題作もモチロンだが、私にとって最も印象に残るのは『生命の木』。
主人公の稗田礼二郎、いや作者の諸星大二郎自身が何度も繰り返し描くテーマのひとつの終着点か。
有名な「おらといっしょにぱらいそさいくだ!!」の名言は、もはや諸星大二郎以外にはそうそうと思いつくものではないだろう。
ことにシリーズの中でも、珍しく後味の小気味よいラスト。重太はちょっと可哀想だったけど。
それにしても、形式上は主人公たる稗田礼二郎、解説者としての役割はぶれず、いつも物語の傍観者としての役割に徹しストーリーには影響しない姿勢は立派です。
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