美少女麻雀漫画のサイドストーリー
『咲』のスピンオフ第一弾
美少女と麻雀という異色のコラボで人気を博した『咲』。その公式サイドストーリーが、『咲-Saki- 阿知賀編 episode of side-A(以下、阿知賀編)』である。
『咲』と同じ時間軸・設定でストーリーが進むため、『咲』本編の特徴である”能力を持つ美少女雀士”は健在だ。『咲』の主人公・咲が属する清澄高校と、別ブロック(Aブロック)の戦いを、原村和の昔なじみ阿知賀女子学院の選手たちの目線から描く。
人気作のサイドストーリーであること。そして『阿知賀編』の展開が『咲』本編にも直結することから、絶対にハズせない一作だった。果たしてその構成はいかがなものだっただろうか。
本編に比べれば作画は劣化している
まず、『阿知賀編』の作画を担当しているのは『咲』本編作者であり生みの親の小林立ではなく、五十嵐あぐりである。
『BAMBOO BLADE』の作画で知られる五十嵐あぐりの画風は、よくも悪くも萌え系であり、顔や書き分けに関して小林立には及ばないといえる。表情や線も荒いので、『咲』と比べると劣化としていると言わざるを得ない。
だが、五十嵐あぐりの作画は『阿知賀編』を描くには十分な実力を備えている。
そもそも『咲』は美少女や萌えでコーティングした超能力型麻雀漫画であり、美少女の描き分けは二の次でいいのである(小林立は美少女の描きわけも個性付けも素晴らしいことから五十嵐あぐりと比べられがちだが、生みの親との比較は酷というものだろう)。
『阿知賀編』の真骨頂は、準決勝の試合展開だ。特にチャンピオンこと宮永照要する白糸台は、本編でもまだその実力の全容がわかっていない。白糸台がどれほどの強さを持っているのか表現するのは小林立よりも先に五十嵐あぐりの仕事になる。
そのプレッシャーのかかる大一番の演出を、五十嵐あぐりは見事にこなした。チャンピオンと対戦する先鋒戦。怒涛の連続和了に各校なすすべなく、暗黙のうちに共闘を交わすことになった一戦である。
まず、チャンピオン・宮永照が凄まじく強い。一巡先の未来が見える園城寺怜ですら対処が出来ず、対策を練っているはずの花田煌が鳴いてツモ順を飛ばしても効果がない…と、宮永照は圧倒的な強さを見せる。扉絵などで度々魔王のような姿で描かれるように、宮永照の強さは恐ろしくなるほどだ。
そのチャンピオンに、対する三人は起死回生の一手を打つ。危険を顧みず三順先を読んだ園城寺怜と、怜の意図を察してサポートした花田煌。そして「いったんお別れ」と自らの武器であるドラを手放した阿知賀の松実玄。玄にチャンピオンが振り込むまでの流れは、『阿知賀編』随一の見せ場となっている。
『咲』最強キャラであり、圧倒的な強さを見せたチャンピオンが予想外の一手に振り込むこのシーンは鳥肌モノで、構成もコマ割りも秀逸だった。それまで五十嵐あぐり作画に期待していなかった人も、この先鋒戦には評価を改めることになっただろう。
先鋒戦だけでなく、それ以降の戦いの構成も見事なものだ。大将戦においては、宮永照の後継者とも目される大星淡の初お目見えシーンとなり、各校選手にその強さを見せつける。
強制5~6シャンテン、ダブリー&カン裏モロというチート能力を使う淡の恐ろしさが発揮される。しかし各校の大将は自らの能力を使って立ち向かっていき、大星淡との決定的な点差を許さない。
特に主人公の高鴨静乃が”深き山の主”として覚醒した後、淡の支配を打ち破るところは爽快の一言だ。
一見すると本編には物足りなく思える『阿知賀編』だが、構成力においては本編にも負けずとも劣らない。
悪くはないが足りない面も
しかしながら、『阿知賀編』には物足りなく思うところも多い。
もっとも不足しているのは、準決勝以前のエピソードだ。特に奈良地区大会編は早足すぎる。『咲』本編の清澄高校はあれだけ苦労したのに、阿知賀はトントン拍子に進みすぎて、読者は納得がいかないだろう。
準決勝で阿知賀の選手の能力が明らかになるように仕向けたのかもしれないが、もう少し連載期間を設けるなり工夫をしてほしかった。
本編の清澄高校と同じ程度に、阿知賀が苦労しているとも思えず、しかも阿知賀が全国レベルでそれほど強いとも思えない。監督の赤土晴絵にどれだけ入れ知恵されたのかはわからないが、準決勝各試合において他校に比べて振り込む回数が異様に少ないのも不自然だ。北部九州最強の新道寺女子高校、全国二位の千里山女子高校という名門があれだけ振り込んでいるのに、阿知賀がプラスを維持し続ける理由が見いだせない。これが、一部のファンからは”主人公補正”と揶揄される部分であろう。
とはいえ、阿知賀は白糸台と共に決勝に進出。同じくBブロックで決勝に勝ち進んだ清澄、臨海女子と対戦することが決定している。
『阿知賀編』では十分に表現されているとは云えなかった阿知賀女子学院の強さであるが、『咲』本編の決勝で、どれだけ小林立がその強さを描くか。これからの見ものだ。
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