実力派の漫画家・遠藤達哉のSQ連載第二作
なぜ遠藤達哉の漫画は続かないのか
漫画の世界は難しい。完璧な絵や、面白いストーリー、魅力的なキャラクターを描けても、人気が出るとは限らない。
遠藤達哉は、まさしく”難しい”漫画界の洗礼を浴び続けている漫画家だ。
ストーリーもいい。キャラクターも悪いところはない。迫力のある画も描けているし、なにより表情がいい。
だが、人気が出ない。この『月華美刃』といい前作『TISTA』といい、遠藤達哉の連載はすぐに終わってしまう。
それはどういった理由に依るものなのか、筆者は長らく考えていた。
面白いのに、入っていけない
『月華美刃』のテーマは、亡国の王女による国の奪還劇だ。そこに「竹取物語」をモチーフにした日本古典と、SF的世界観が加えられている。
王道+別テーマの味付けは、漫画のみならずアニメやライトノベルを構成する上で、今や必須になっている。ミステリ+ファンタジー、学園+サイコホラーという他分野同士のマッチング作品が、今やエンターテイメント業界を席巻しているのだ。
遠藤達哉はこういった基本事項をしっかり抑え、作品に練りこんできた。つまり、緻密な計画を立てたうえで勝負(連載)に臨んでいるといえるだろう。
また、遠藤達哉の計画はストーリー構成だけに留まらず、キャラクターにおいても綿密な造形を描いている。
少女が主人公というのも多様な読者層を持つジャンプSQらしくて良い。主人公・カグヤのちょっと少年っぽいところも、男性読者女性読者両方に好感をもたれるだろう。
ライバル的ポジションにいるイズミヤのアクが強いのもまた良い。媚びたアイドル活動をこなしながら、心のうちに人知れぬ闇を抱えているのも魅力的だ。生まれもった絶対聖域の力のせいで、人から愛されない(と誤解していた)ところも、涙を誘う。
そもそも亡国の王女(王子)の故郷の奪還劇は、昔から人気のあるテーマだ。最近は『アルスラーン戦記』が広くその名を知られるようになっただろう。
まだ未熟な少年少女たちが、訳もわからぬまま国を追い出され、周囲の協力と自らの努力によって国を奪い返す。
帰結する内容は大体同じなのだが、不遇な環境に落とされた主人公たちが、自らを追いやった人間を倒したうえで昇りつめるというカタルシスは、やはり爽快で面白い。いわば”外さない”物語の展開なのだ。
しかしながらーー『月華美刃』はウケなかった。単行本にして全5巻は、『ジャンプSQ』においては短命であると評してもいいだろう。
これだけ、王道のストーリー構成とキャラクターをねじこんでいるのにも関わらず、である。それは何故か。
作者のニッチな作品性が足を引っ張ったか
まず考えられるのは、作者・遠藤達哉の作品性である。
作品性には作者の人間性が色濃く現れる。これは正直、矯正できないことが多い。作者の人生のなかで培われたーー例えば気遣いであるとか、やさしさであるとか、そういった人間の精神の微妙な部分だ。
遠藤達哉は『TISTA』といい、世界観構築に大きなこだわりを持つ。むろん、漫画家としては長所といえるが、肝心なのは読者がついていけるか、である。
『月華美刃』は、まず、冒頭一話から細かい設定が披露されている。難しい漢字も使われるし、日本の天皇制を模倣した迦護女都(カゴメノミヤコと読む。ほら、読めないでしょ?)の設定も導入としては少々難解だ。
読者は、作者の思っているよりも遥かに、頭を使って漫画を読まない。読みたくないともいえる。
それは読者が怠惰なのではなく、漫画というのは余暇に楽しむという性質のものなのだから、それを当たり前と思っていい。
本来ならばそれに気づいた時点で、作者側から歩み寄りをするべきなのだが、ことはそう簡単ではない。
東大出身のエリートが小学校教諭になったと想像していただきたい。有象無象の小学生相手に、東大の論法は通じない。教諭が東大で学んできたことを、いかに小学生用にすりつぶして教えられるか。そこが評価のポイントになる。
遠藤達哉はこのエリート教諭だ。やっていることは正しいのに、小学生が「なにがわからないのか」「どうやったらわかりやすく出来るか」それを伝えられない。結果として、教諭人生ーー連載は短命に終わる。
遠藤達哉の漫画家としての才覚は疑うべくもない
二年にも満たないほどの連載期間の末、『月華美刃』は打ち切られてしまう。
連載終了後の本誌巻末、作者からの一言メッセージ欄では、遠藤達哉の悔恨にも取れるあとがきが記載されていた。作家本人にとっても、打ち切りが不本意であったことが推測できる。
だが、何度も言っているように遠藤達哉は漫画家として非凡なる才能の持ち主、そして何より努力家だ。
漫画に対する熱意は連載陣の誰にも負けず、更なる研究を加えてレベルアップ出来る漫画家だと筆者は思っている。
現在、遠藤達哉は再びジャンプSQ上にて『煉獄のアーシェ』を連載している。
これがどういった作品であるか、申し訳ないことに筆者はまだ読んでいないのでわからないが、遠藤達哉ならば『月華美刃』を超える面白さと連載期間で、更なる躍進を遂げられることを期待している。
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