『ニセコイ』・古味 直志のデビュー作 - ダブルアーツの感想

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ダブルアーツ

4.004.00
画力
4.17
ストーリー
3.67
キャラクター
3.50
設定
4.00
演出
3.50
感想数
3
読んだ人
5

『ニセコイ』・古味 直志のデビュー作

3.53.5
画力
3.5
ストーリー
3.5
キャラクター
3.0
設定
3.5
演出
4.0

目次

古味直志のデビュー作にして渾身の一作。評価は上々だった

週刊少年ジャンプの新連載作品には、かなりの注目が集まる。作品は俎上の鯉ともいうべき試練のまな板に置かれ、読者や漫画関係者の鋭い審美眼の元に捌かれる。特に名も知れぬ新人漫画家となれば、特にそうだ。

『ダブルアーツ』はそういった意味で、とりあえずは厳しい目をした読者のメガネに敵った。まず、新人にしては画力が高い。そして見やすい。これは漫画において何より大事なことだ。

ヒロインたちシスターの抱えた不治の病、それを治せるかもしれない、救世主たる可能性を持った主人公。常に両手を繋いでいなくてはならない、というギャグにもシリアスにも使える設定。

正直に申し上げれば、『ダブルアーツ』ほど順調な滑り出しの評価を受けた漫画は、10年に一度くらいしか生まれない。十年前では『NARUTO』がそれにあたったが、『NARUTO』は読み切りでも一度本誌掲載されている。

そういった意味では読者の期待をより背負っていたのは、『ダブルアーツ』だといえるだろう。

しかし、『ダブルアーツ』は連載一年ほどで打ち切りになった。いまだに漫画ファンの間で続きが読みたい作品として評価されているのにも関わらず、である。

これは、当時本誌を追いかけ続けていた人間にとっては全く不可解の事態だった。

見どころのある新連載の落日は読者にとって全く不可解だった

それにはあるメソッドがある。

『ダブルアーツ』の設定が、某有名ゲームの設定に似ている、という噂がネット上で持ちあがったところだ。

そのゲーム自体を知らない人間や、愚直に本誌を読んでいる人間には全くわからない。だが、当時はネット掲示板やSNSが一般にも広く知られていった時代であり(ツイッターやフェイスブックやミクシィも、この頃から利用者が増えていった)、極めてまずいことにネット上の情報の清濁を見極められず、鵜呑みにしてしまう人たちが多くいた時代だった。

ネットというアングラの世界が、地上世界に浮上したことで、好奇心豊かな若者を中心に、食い漁るように好きな情報だけ持っていく。ネットリテラシーを学んでいない人々がそれを新たに拡散する…と、病原体が広まるようなことが当たり前のように行われていた。

『ダブルアーツ』パクり疑惑も、病原体(=真偽不確かな情報)の無差別拡散が招いた不幸な事件である。作者本人はパクったつもりがなくても、他者(しかも、今まで公に発言権を持たなかった人々)が無責任に煽り立てる。それを信じる人がいる。次から次に広まり、結果として作品の評価が下がる。パクりという話を聞いて、ファンを公言した人もがっかりして作品を応援する気持ちはなくなる。

この可視化出来ない新時代のメソッドが、『ダブルアーツ』の逆風になったことは確かだ。

『ダブルアーツ』自身に問題はなかったか

そういった社会的要因を提示した上で、今度は作品そのものに問題がなかったか言及していこう。

前の項でも述べたとおり、『ダブルアーツ』は非常に面白い作品だった。ファンタジーでありながら王道を少し外れた展開。武術の概念も作者オリジナルの要素があるし、幼馴染のスイがフープというちょっと変わったものを獲物としているところも見栄えが良かった。

しかしーーいつの頃からか、物語に違和感を覚えはじめた。

筆者の覚えが正しければ、そればハイネ・クローチェのエピソードに及んだときだったように思う。

シスターでありながら画家を目指していたハイネを救う主人公・キリとヒロイン・エルーのエピソードだが、これは冗長に過ぎた。ハイネのエピソードは、いわばサブストーリー。話の本編にはあまり関係がない。単行本の巻末読み切りにふさわしいような話だった。

話の本軸が進まないうちにサブストーリーに走られると、読者はやきもきする。その間で主人公とヒロインに大きな精神的・肉体的成長があればまだ読者の目を引いただろうが、このエピソードから読み取れるものは、なかったのである。

必要のないエピソードを、固定ファンが定着する前に差し込んでしまった。これは『ダブルアーツ』の大きな失敗だった。掲載順はどんどん後ろに下がり、人気が低迷していくのが読者の目にも明らかになった。

結果として『ダブルアーツ』は、”展開の遅くて打ち切られた話”として現在でも惜しまれることになるのである。

しかし、一連の人気転落劇は編集側の責任が大きい、と筆者は考えている。

作者に面白い作品を描く技量がありながら、余計なエピソードを挟むことを許した。作者はまだ新人である。まして、小学生時代から温めてきたという『ダブルアーツ』のストーリーには、格別の思いがあるぶん、エピソードが玉石混交状態であったことは言うに及ぶまい。

そういった、作者が提示する巧拙入り混じったストーリーの、拙の部分たる枝葉だけを切り落とすのが編集者の役目であり、責任なのではないだろうか。

『ダブルアーツ』の人気を証明するように、2015年ジャンプ+で同作品が復刻連載された。ジャンプ+で復刻するには、ツイッターでの投票が必要。つまり、ファンからどれほど愛されていたかが知れるというものである。

現在作者は『ニセコイ』執筆中であるが、ファンによる『ダブルアーツ』復刻の支持表明は作者にとってどれほど嬉しかっただろうか。

ぜひ、『ダブルアーツ』ジャンプ本誌での再連載を期待したい。

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