恐るべきムーブメントの序章 - ゲーム・オブ・スローンズ 第1シーズン『七王国戦記』の感想

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恐るべきムーブメントの序章

5.05.0
映像
5.0
脚本
5.0
キャスト
4.5
音楽
5.0
演出
5.0

目次

世界的大ブームを起こした記念すべき作品の序章

世界中で大ブームを巻き起こしているゲーム・オブ・スローンズ。

平昌オリンピックではドイツのフィギュア選手がこの作品をモチーフにした演技をしたりアメリカ選手たちが鉄の玉座に座った写真が公開されたり、スーパーボウルでも炎と氷といったもう明らかにそれってGoTですよね?っていう(しかもティリオン役のピーター・ディンクレイジが出演)CMが作られたりと、とにかく熱いムーブメントを起こしている作品、ゲーム・オブ・スローンズ。ちなみに流行ってないのは日本と北朝鮮だけと言われてるそうです。

そんな「ゲーム・オブ・スローンズ」の記念すべき第1シーズンです。

第1シーズンの1話はつまらない!(ただし初見に限る!)

とにかくこの作品は登場人物が多いし色んな家が出てくるし色んな設定が交差して会話を飛びまわるので第1シーズンの1話が全シーズン通して一番つまらないです。とにかく誰が誰かも分からない、会話の中でも当たり前のように未登場キャラの名前が出てくるので毎度「えっ誰」とクエスチョンマークが頭の上に浮かんでる状態。これは1話に限らず第1シーズンを通してなので、私は第2シーズンまでは相関図をネットで探してそれを見ながら観てました。

ただ全シーズン観終わってからの第1シーズンはめちゃくちゃ面白いです。いたるところに伏線が散りばめられているし気づかなかったことに気づけたりと、第1シーズンはゲーム・オブ・スローンズにおける『序章』だと思っているのですが、全シーズン観終わった後に観る第1シーズンは「強くてニューゲーム」といった感じで「わかる!わかるぞ!これも!あれも全部理解できる!」といったカタルシスがあるので、全シーズン観終わった人はもう一度第1シーズンを観直すと新たな発見があるかも。私は既に4周しています。

最初に嫌いになるジェイミーという男

第一話のラストで天使のように可愛いブランを塔から突き落としたことで視聴者を唖然とさせ憎まれることとなるジェイミー・ラニスター。

今後彼の好感度はどんどん上昇していくのですが、第1シーズンの段階では双子の姉と近親相姦する胡散臭いイケメンです。

武骨で誠実なスタークパパことネッドがジェイミーを毛嫌いしているようにも見えると、視聴者であるこちらも「ネッドがそう思うならきっとそうなんだろう」と警戒してしまう。ある意味かわいそうな男です。ジェイミー。

確かにブランを落としたことは許せないけれど、彼は何より大切な人サーセイがいて、そのサーセイを守るための行動でもありました。思えば全シーズンを通して彼が自分のために何かをしたことがあっただろうか、どんな時も姉であるサーセイとその子供たち、弟であるティリオンのために行動しています。キングスレイヤーという不名誉な呼び名の原因となった行いも、本当は民の為に起こした行動ですが、それを誰にも理解されずまた弁明もしなかった。第5話でネッドを後ろから刺した部下への怒りは初見では1対1を邪魔したことへの怒りだと思っていましたが、本来はネッドと同じ気質をもつ彼が卑怯な真似を許すことができずに咄嗟に起こした行動なのではと考えます。

ヒロイン、デナーリスの奇跡

ゲーム・オブ・スローンズには沢山のヒロインがいますが、メインヒロインでパッと思いつくのはドラゴンの母ことデナーリスでしょう。

美しく可憐な少女デナーリスが兄の野望により蛮族の長に売られるように嫁がされますが、その長であるドロゴと少しずつ心が通い合う姿は、この作品で一番ロマンチックで、ある種のファンタジーに思えます。シーズンを進めていくとデナーリスは成長し、したたかさを増していき、第1シーズンのような頼りない姿はなくなっていくのですが、第1シーズンの彼女は花ひらく前の蕾のように、守ってあげたくなる弱さがあります。

そんな彼女が最終話で、焼け跡の中立ちあがり、滅びたとされるドラゴンを復活させた時、誰もが得も言われぬ興奮を感じたはず。彼女の弱さは炎と共に消え生まれ変わったのだと、ぞくぞくと背中が粟立つような昂りを覚えました。このゲーム・オブ・スローンズが凄い作品になっていくだろう予感だったのかもしれません。

スターク家のこどもたち、冬来る

ロブ、サンサ、アリア、ブラン、リコン、そして落とし子ジョン・スノウ。

今後数奇な運命を辿っていく彼らですが、個人的に一番変化していくのはサンサではないかと思います。王子様と結婚し王妃になって子供を産み末永く幸せになりましためでたしめでたし……という甘い夢を見ていた彼女が、その王子に父を殺されてしまう。

処刑される迄、純粋に自分の嘆願が受け入れられると信じていたサンサ。安堵して誇らしいような表情の彼女が逆に痛々しく、ジョフリーが処刑の宣告をした瞬間の表情は、本当に夢にも思っていなかったのだと分かります。というかサンサは登場人物のなかで一番平凡であり、妹のアリアのような応援したくなるような無謀さもなく、ジョンのような不遇さもなく、ブランのような試練もない。

そんな彼女が今後の物語でどう変化していくのか、変化せざるを得なくなっていくのか。シーズン1の9話はサンサが信じていたものが崩れ落ちていくその決定的な瞬間でもありました。

また、ネッドの首が落とされた瞬間、飛び立つ鳥を眺めたアリアも同じく、あの大きな瞳が後戻りはできないのだと告げているようでした。少年の姿となり北へ向かうことになるアリア、その眼差しは踊りの稽古と称して剣の稽古をしていた時にはなかった悲壮さがあります。姉妹が道を違えて、今後いつ交わることがあるのか。

ネッドの死で視聴者は「死ぬはずがない」と思ってたキャラクターの死に衝撃を受け、このゲーム・オブ・スローンズという作品が一筋縄ではいかないことを感じます。

そう、この作品は人がたくさん死ぬ。メインヒーローかと思わせてこんな第1シーズンで呆気なく退場させる。他にもサブキャラだろうがメインキャラだろうがおかまいなしに死んでいきます。

第1シーズンもネッドだけでなく踊りの師匠ことシリオ・フォレルが退場したのも衝撃でした。あんなにいいキャラだったのに……。また「まだ死なぬ」と言って欲しかった。

カーセルブラックの鴉たち

この作品のメインヒーローの一人、落とし子ジョン・スノウは他の兄弟とは違う立ち位置で物語が進みます。本妻の子ではない彼は壁を守るナイツウオッチとなり、そこで友人を作ったり上司に睨まれたり、思い通りにいかない青春を過ごすわけですが、どことなく寄宿制の男子高校生を彷彿とさせます。はじめ受け入れられなかった仲間と喧嘩しつつも仲良くなったり、女性経験のない友人サムと女性について話したり、実力はあるのに結果が出せずに焦ったり、そんな様子が王都でのギスギスした情勢の合間に挟まれると、少し微笑ましく感じられたものです。

サムといえば、太っちょで動きも鈍く、剣も使えず、めそめそ泣いている彼ですが、そのサムとジョンの会話に印象的なものがありました。

毎日剣の稽古で絞られているサムが「もういやだ!ちっともうまくならない!」と吐き出すと、ジョンが「でもひどくもならない」と返す。それを聴いてサムが微かに笑うのです。なるほど、と納得したように。

このジョンの返しはとてもいいなぁと。「頑張れ」と応援するのではなく、それ以上下がることはないぞと。このやりとり、個人的にグッときたので、日常でしんどい時は思い出して噛みしめています。

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