肌に触れる空気
目次
朔子ちゃんと私は同い年
この作品を観たタイミングが、ちょうど朔子ちゃんと同じで高校を卒業して18才の夏だった。
二階堂ふみさんの作品が観たくて、たまたまレンタルショップで見つけたのが「ほとりの朔子」だった。主人公と年齢も、過ごしてる季節も同じだからって、運命を感じたりはしないけど、今まで観てきた作品の中でこの作品が一番好き。流れる時間と空気、俳優の太賀さんと二階堂ふみさん。どんな人生を過ごしてきたのかな、どんな時間を誰と過ごしたのかな。なんだかちょっぴり羨ましくなった。
砂浜を歩く海希江さんと朔子ちゃん
朔子ちゃんが、昔のことを「いじめられてたのかなあ、今から思うと」という場面がある。朔子ちゃんが、私ばかだから気付かなかったって言った。
それを聞いて、私も、もしかしたらいじめられてたのかなあって、一瞬思った。嫌なこと言われても、いじられてるだけって思ってた。たまに、涙が出るときがあったけど、だいたいは、笑ってた。いじめられてたかは、分かんないけど。同窓会には、行かないし、どこかで会っても、知らない顔するつもりだけど。だから、私も、いじめられてたのかもしれない、今から思うと。
朔子ちゃんが庭の木にお水をあげてた時に来たおばさん
「こんにちは」って朔子ちゃんに向かって言った後、朔子ちゃんが「‥」な表情をしてたら、もう一度ちょっとボリュームをあげて「こんにちは。お家の人いる?」って言ったおばさんが嫌だ。威圧的なおばさんが嫌だ。こういう人いるなあって、思った。もし、親戚の家に遊びに行って、威圧的なおばさんがいたら、それだけで、この夏に色がついてしまう。水性の透き通ったのじゃなくて、絵の具の原色。
だけど、このおばさんがいることで、他の登場人物の色が出てくるから、作品的にはすごくいい。
海希江さんの声
海希江さんを演じる鶴田真由さんの声が素敵だなあ。色気があって、妖艶で。
色気が欲しくて、どうしたら色気のある人になれるかなあって、ちょうど考えていて、鶴田真由さんに出会って、これから鶴田真由さんの作品を観ないとなって思った。
二階堂ふみさんの色気とは、また違った色気。
もう一人、杉野希妃さん演じる辰子さんも、知的で素敵な女性だった。
色気の正体は一体なんなんだろう。どうしても欲しいもの。
太賀さん
「ゆとりですがなにか」というドラマで初めて太賀さんを知った。その時の演技は、太賀さんは普段からこういうふうなんじゃないかと思うようなものだった。山岸は、太賀さんだし、太賀さんが作品の中でつくった山岸は、当たり前だけど、太賀さんにしかつくれないものだなと思う。
また、「桐島、部活やめるってよ」を観ていて、「あ、太賀さんだ」となった。
「ほとりの朔子」を観ている時、初めは太賀さんだと気付かなかった。演技をしているようには見えなくて、どこかで起こっている出来事をみているよう。この作品の中の空気を、私も吸っていて、そこで私も、呼吸をしていた。
映画の中の空気は、私がどこかへ旅行に行っても吸うことができない空気で、作品の中にしかない空気。私は、この作品の空気が好き。落ち着く。
作品のつくり
「日付」である程度、区切られている構成なんだけど、その日付が出てくるタイミングが絶妙だった。
日付を出すことで、日記風になってるけど、1日1日の1つ1つのシーンが大切で、心地よいもので、日付は、そこまで頭に入ってこなかった。シーンとシーンをうまく繋いでた。
よく分からないけど、演説を頼まれた孝史
孝史があまりにも、芯がないように見えたから、少しいらいらした。だけど、孝史の言葉は、紛れもなく孝史の言葉で、芯があるとか、ないとかではなくて、私の中の印象に残った。
それをパソコンで見てる朔子の表情は、私の見たことのない二階堂ふみさんの表情だった。演技で、表情をつくると、きっと記号のような表情になる。二階堂ふみさんは、この時、どんな気持ちだったのかな。記号のような表情ではなく、生身の人間の表情だった。
この時、朔子ちゃんが着ているワンピースが好き。色は多めだけど、主張はしてなくて、柔らかい。
線路を歩く朔子と孝史
「私たちが思う、遠い、と、世界中を旅しているおばさんが言う、遠い、は、違うんだろうな」と朔子は言う。それに対して、孝史が「同じだよ、同じ」と言う。
朔子ちゃんは、何を考えてそう言ったのかな。孝史は何を考えてそう言ったのかな。
僕たちが足を動かしても、行けない、遠いところ。物理的とか、精神的とか、そんなのはどっちでもなくて、ただ遠いところに行きたい。
朔子ちゃんと、孝史と、海希江さんと、大学教授と、隠れラブホ経営のおじさんとか、作品の中で、私はいろんな人に出会った。出会っても何も変わらないけど、この作品を観て、私は私の肌は、この作品の空気に触れていた。原発とか、分からないし、分からないって言うのはダメなのかもしれないけど、私は、この作品が好き。
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