本格キステリおちょくりパロディ - キミ犯人じゃないよね? AREN'T YOU A CRIMINAL?の感想

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キミ犯人じゃないよね? AREN'T YOU A CRIMINAL?

4.504.50
映像
3.00
脚本
4.50
キャスト
4.50
音楽
3.50
演出
4.50
感想数
1
観た人
1

本格キステリおちょくりパロディ

4.54.5
映像
3.0
脚本
4.5
キャスト
4.5
音楽
3.5
演出
4.5

目次

テレビ朝日深夜ドラマのスマッシュヒット

近年深夜ドラマで話題を集める作品が増えています。もちろんゴールデンタイムに比べると遥かに低予算なのですが、結構知名度の高い俳優が起用されており、セットなど画面の貧しさをアイディアやセンスでカバーし好評を得ているようです。何よりも視聴率の重圧だけでなく、さまざまなしがらみやお約束から開放された自由なドラマ作りも大きな魅力といえるでしょう。

深夜ドラマにもっとも意欲的なテレビ朝日が2008年に製作した「キミ犯人じゃないよね」は、こうした自由さをもっともフルに生かした、会心のスマッシュヒットでした。

ミステリ版「男はつらいよ」

主人公は二人。貫地谷かほり扮する推理作家志望のフリーター・さくらと、要淳扮する富士見警察署の警部補・宇田川。宇田川は警察庁長官やら国会議員を親戚に持つ御曹司で、キャリア警官かどうかは不明ですが、上司の警部・太宰(渡辺いっけい)には「坊ちゃん」と呼ばれてます。皮肉ではなく、思い切り年下の部下なのに敬語で遇しています。

さくらは、目にした映像を一瞬でカメラのように細部まで記憶する直観像記憶力の持ち主で、この能力と推理力を駆使して遭遇する殺人事件の謎を次々と解いていきます。これに着目した宇田川は、事件が起こるたびに捜査協力者としてさくらをポケットマネーで雇い解決させますが、必ず関係者の美女にひと目惚れしてしまい、そして必ずその彼女が犯人なため失意の結末を迎えるというのが毎回のフォーマットです。お分かりですね。国民映画「男はつらいよ」のミステリ版です。もっとも、こっちの「さくら」が、毎度の失恋を横で見守るの様子は本家よりずっと冷ややか。ちなみに警部の太宰久司、その部下の前田銀二という役名も、かの映画のレギュラー俳優さんから取られているのはいうまでもありません。

タイトルの「キミ犯人じゃないよね?」は、大詰めでさくらが推理を披瀝する前に、宇田川が件の美女へ行う悲しい最終確認です。もっとも、正確には「あなた、犯人じゃありませんよね」ですが。製作者サイドは本当は英語タイトルにしたかったような気がします。

確信犯的にいい加減な警察設定

このドラマには太宰警部、宇田川警部補、前田刑事以外に鑑識係の柴田太郎(金剛地武志)がレギュラーで登場し、警察官は以上ですべてです。画面には毎回ほかに、現場監視の制服警官が一人登場する程度です。

「おいおい、殺人事件だろう。普通は本部から捜査一課チーム、機動捜査隊、近隣所轄や他課の応援も集めて百人体制でだねえ」

昨今のリアル志向刑事ドラマを見慣れた視聴者からこんな声が飛びそうですが、この番組は、ソンナノ関係ナーイ、がスタンスです。何しろ東京の所轄なのに、神奈川県で起こった事件に出動(東京の事件の関連捜査ではなく)してます。それもやはり4人きりのチームで。

このいい加減さには、天井が取っ払われたような爽快感があります。このドラマはコメディなので、開き直ったような面もなきにしもあらずなのですが、シリアスな刑事ドラマでも一度同じようなことをやってくれないでしょうか。まあ、刑事コロンボは警部補なのにふらふら一人で聞き込みに現れますし、その影響を受けたドラマや小説群も同じ趣向ですが、さらにもう一歩吹っ切れて欲しいものです。現実の警察組織なんて放っておいて。

犯罪のシリアスさとコメディとの肉離れ

毎回のお話は、トリックを駆使した完全犯罪を破る趣向で、本格ミステリ仕立てのように見えて微妙なところがあります。たとえば、第1話で最初に密室トリックを置いてみせるさくらのデビュー場面ですが、宇田川の「アイツやるなあ」という呟きとともに、どちらかというと本格ミステリの解明ショーをいおちょくるパロディの側面が強いのです。その軽さはいいのですが、何しろ事件が全部殺人ですから、その背景のシリアスさと肉離れを起こしてしまうフラスレーションが毎回の弱みでした。さくらも毎回最後には愁嘆場を演じてますし、そこにまたもや惚れた女を失った宇田川の姿を重ねてももこちらの方はうまくパロディになりきれなかった恨みが残ります。犯人役には毎回それなりの女優さんが呼ばれてますが、みな演技には苦心したのではないでしょうか。

コント趣向は満点

こうした、フィニッシュの微妙さに目をつぶれば、お約束ギャグもコント仕立ての小芝居も好調で、楽しい要素満載のドラマでした。特に週刊文春コラムで小林信彦に天与の才を絶賛された貫地谷しほりのコメディエンヌ演技は鮮やかで、毎回見せるコスプレどもども、魅力全開の「スター・ムービー」として貴重な足跡を残したといえます。要潤もきっちり息を合わせているし、渡辺いっけい以下のオーバーアクトもほどが良くて心地良い。

続編が見たい気持ちにもさせられた作品でしたが、終盤の主役二人の関係の変化などを見るとそれも難しかったのかなとも思われます。作者は、あえてこうした形をとって続きを封じたのかも知れません。

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