クロワッサンが食べたくなる
『クロワッサンで朝食を』
なんとも美味しそうな作品名である。『ティファニーで朝食を』を思い出させる。
コメディ風の作品かと思いきや、全く違う。
母の死をきっかけに、憧れのパリでの家政婦の仕事をはじめるアンヌ。
そこで出会うフリーダ。フリーダはワガママなおばあさんに見えるが、観ているうちにフリーダの印象が少しずつ変化する。
フリーダはステファンに店を持たせた。
しかし、ステファンは 店を持たせてくれたことに感謝はしているが、フリーダのワガママぶりを邪魔に感じてしまっている。
フリーダは、ステファンを驚かすためにステファンのカフェに行く。
そこでの2人の会話に心が痛む。
フリーダ「会えてうれしい?」
ステファン「もちろんうれしいよ」
フリーダ「忙しいの?」
ステファン「僕にも人生がある。悪いが、君を中心には回らない。」「分かるか?」
ステファンの気持ちはもちろん分かる。フリーダの気持ちも分かる。
親と子のなんとも言えない関係を描いているように感じた。
この場面から、フリーダが抱えている孤独を知った。確かにワガママなのだけれど、フリーダを突き放すことはできない。
甘やかすことがいいか、悪いかなんてことは、さっぱりわからない。
しかし、自分の甘えに答えてくれたときに 相手に対しての 壁のようなものが壊れることもある。
小さい子が、親にたくさん甘えるように、大人になってからも誰かに甘えたい。その気持ちには共感した。
ジャンヌ・モローさん演じるフリーダ
フリーダのファッション、メイク。
上品で、見習いたい。
フリーダが、アンヌに自分のコートをあげる場面がある。その場面に、フリーダの心の一面があわられていて、ちょっぴり嬉しくなる。
アンヌも、きっと嬉しかったんじゃないかな。
フリーダがアンヌに自分のことを話すシーン
このシーンが印象に残っている。
母や兄について語るのだが、演技をしているように見えない。日本語ではなく、外国語だから ということもあるとは思うが、過去のことを語るシーンで、観ている側に想像させる事ができるのはすごいことである。
まっすぐに見つめる瞳、落ち着いた息づかい、まぶたを閉じる瞬間、言葉と言葉の間合い。
素晴らしい女優さんだなと感じた。
演出・脚本について
車の音、夜、車の中で窓の外を見つめる女性。物語はこのシーンから、始まった。
この作品のコピーは、
『はじめてのパリ、もうひとつの人生に出逢う』
明るめの作品かと思っていたため、冒頭から、意外であった。
パリの美しい風景を観ることができると予想していた。ただのパリの風景ではなくて、アンヌの気持ちの変化での、2種類のパリを観ることができた。映画が可能にする事は、こういう事かと感じた。自分が見てる風景ではなくて、登場人物が見ている風景を見ることができるということである。
フリーダのことをまだまだ知らない頃、ただのわがままなおばあさんに見えていた頃、エッフェル塔は重たいものだった。しかし、物語の最後の方、やはりフリーダにお別れを言いに行こうと決意した時のエッフェル塔は、爽やかで美しいエッフェル塔であった。
脚本について、ベットの上のフリーダにステファンが寄り添うシーンがいいなと思った。
フリーダがステファンの体をさわり、ステファンが「何をしているんだ」と聞く。
フリーダは「想い出よ」と答える。日本語的に、思い出と想い出があるが、個人的には、「想い出」の方がしっくりくる。「思い出」は、意識的でなくても思い出してしまうこと。「想い出」は、自ら呼び起こすように想い出すこと。
フリーダに感情移入してしまった。
最後の場面で、アンヌはフリーダの家政婦を続けることになった。
フリーダは変わらずわがままであるし、アンヌはどういうことを考えたのかが気になった。
もう戻らないと選択することも、戻ると選択することも、できる。
その2つの選択肢の中で、アンヌは戻る選択をした。
複雑な気持ちを思い出した。情で一緒にいるのは、いいことではないのかもしれない。
相手を気の毒だと思って一緒にいるのは、いいことではないのかもしれない。
アンヌは、フリーダのことを気の毒だとは思っていないだろう。しかし、私がアンヌだったら、フリーダの家政婦に戻る選択はしない。
フリーダの孤独も、アンヌに対する気持ちも伝わってきた。ステファンが、フリーダを少し邪魔だと感じるように、それではいけないと葛藤をしているように、フリーダも葛藤しているんじゃないかな。周囲に甘えたい。死ぬ気なんんてそうそう無いけれど、死にたい。アンヌにもステファンにもわがままを言っているけど、アンヌのこともステファンのことも大好きなこと。
日常に抱える親に対しての複雑な気持ちと重なった。感謝はしているけれど、自分の人生に口出しして欲しくないということ。親は親で、甘えたい気持ちがあるということ。この作品で、そのことを客観的に見ることができた。孤独に対するイメージがまた1つ増えた。
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