中途半端だけど納得もできる
主人公の挫折を描く
主人公である唯は、元モデルを母に持つ、売れっ子モデル。読者モデルから始まり、今やテレビに引っ張りダコの存在だった。だけど、どこまで上がっていっても母親は認めてくれなくて、自分でも母親が行くはずだったショーモデルには向いていないことを薄々感じ始めていた。
そんな中で急にルームシェアする亜希が登場。うるさいだけで対極な女。でも才能が確かに垣間見えた。母親にも選ばれず、認められるために恋人だったカツキすらも捨てたのに…何かを失って、自分の全部を費やしても、母親の夢だったはずのショーモデルには届かない…たった3巻しかないこの物語の中で、3分の2以上が唯の挫折を描いている。正直、すげー暗い。どこかで唯が奮起して、同じようなポジションに進むのかもって思っていたけれど、実際には唯はショーモデルへの道ではなく、別の自分らしい道へと進むことを決める。これははっきり言えば“諦めた”ってこと。ショーモデルとしての才能があった亜希は、そっちの方向へ上りつめていくことになって、勝ち負けで表現してしまえば、唯の敗北なのだ。
努力は才能に勝つんだと言うが、才能に努力が乗っかったら、もうどこまで行くんだろうってくらい、可能性にあふれるよね。亜希は全然悪い子じゃない。裏表なく、ただ純粋に先輩モデルの唯を慕ってくれたし、純粋に元気づけてくれて、想いをぶつけあえる親友と呼べる存在になった。だからこそ、複雑なんだよね。悔しい気持ちが、嬉しい気持ちに変わるまで、本当に長い時間を費やした唯。自己嫌悪と、羨望と、欲求と…たくさんの気持ちに悩まされながらも、奮起する彼女には非常に元気づけられる。
努力してきたからこそ
唯はずっと、母親に申し訳ないと思ってきた。自分を生んでしまったから、モデルの頂点への道を諦めるしかなくなったんだと思い込んで。実際には違うんだけど、その気持ちから、なんとか母親の代わりに一番になろうって必死になって、一生懸命モデルの道を歩いていく。がんばっているからこそ、努力しないやつはムカつく。だけど、心が腐っているわけじゃなくて、優しいからこそ、亜希をいじめることも、責めることもできない。母親を責めることもできない…。
確かに唯はかわいいし、努力もしているし、十分輝いていたのに、基準値が違うんだよね。母親に認められなければ、何の意味も持たない。ずっと、ずっと母親の愛情に飢えてきた。お母さんに褒められたかった。でも誰も褒めてくれない。支えてくれたのはカツキだったけれど、それに甘えているからダメなのかと思って、全部自分から捨てた。カツキも、そんな自分を許したし、これでいいんだと言い聞かせて、心のどこかではずっと寂しくて。努力して手に入れるタイプにとって、才能でかっさらうタイプは本当にイラついたことだろう。技術を教えたら、自分なんかあっさり抜いていく。今までの何年分もの努力を、あっさりと抜き去られる。焦りと、苦しい気持ちは、十二分に伝わってくる。
ただ、もう少し亜希と唯が同じポジションでまっとうに闘えたらよかったのになー…とは思う。母親の真意がわかってから、唯はあっさりと今までの道から外れることを選んだ。母親と和解できたことで、彼女が挑む最後のオーディションとか、大舞台が1つあったら、気持ちよく終われたのではないだろうか。
母親もどうかと思う
母親もさ、一流のモデルを育てたいと思いつつ、それが自分の娘ではないと思っていて、別の亜希を育て始めて…娘がどう思うかとか、考えないのかなー…「別にあなたにモデルになってほしいなんて頼んでない」とか、言う?もっと別の言葉で、誠意を尽くすことができるんじゃないの?あなたは向いてないとか、言うんじゃなくて、「あなたにはあなたらしく生きてほしい」って最初から言ってれば、唯はこれほどまでに悩んで、傷ついて、カツキを捨てることもなかったのに…悔しい限り。
自分が果たせなかった夢より、娘がただ生まれてきてくれたことを喜んでいたのなら、態度に出さなきゃわかるわけない。唯は一人で考える子だから、あのまま介入しなかったら、きっともっとダメな人間になっていただろう。唯のプライドも考えて、努力も考えて、敢えて何も言わなかった母親、そしてカツキ。もうさ…最悪!
カツキだって、唯のこと好きで付き合ってたんじゃないの?だけどあっさり手放されて、苦しかったとかじゃないの?唯はカツキを見てるんじゃなくて、母親しか見てないんだって気づきながら、それでもそばにいたのは、愛情じゃないの?亜希を見つけて、一流のモデルになるって言葉をプレゼントして…唯にはそこまでの能力がないから本当の事は言えない。ただお前はそれでいいって言うのもなんか違う気がする。懸命に気を遣った結果が、こういう複雑な事態だったんだろうなー…。
ところで、物語の中では父親が全然出てこない。唯の視点から外れて考えれば、母親、唯、亜希という3人の女性が、自分の道に悩みながらも前を向いて歩いていく、そういうストーリーとも言える。最初から、カツキも父親もおよびでないってことなのかもしれない。「ランウェイの恋人」とは、まさにモデルの女たちのことなんだろうね。
カツキの深い愛がほしかった
平和主義者な私としては、カツキがめっちゃ大きな愛で唯を包んでいて、全部わかっているから敢えて亜希をぶつけてきてくれたんじゃないかとか、すっごい考えた。だから、いつか唯ともう一度…と思ってた。結果、ふたたび結ばれることはなくて、非常に残念。お似合いで、お互いの事をわかってて、なのに一緒には歩いていけないんだね。一度捨てた罪悪感があるとかじゃなく、唯の寂しい気持ちが解消されたとき、そこにカツキが必要ではなかったってことなのかな…。
誰ともくっつくことがなかったカツキだが、彼もやはり仕事人間。カメラマンとして駆け上がっていこうって時なんだろう。唯が海外留学から帰ってきたら、やっぱりくっついてくれるかもしれない。そうなることを妄想して、我慢することにしている。ランウェイが恋人で終わりなんて、やっぱり寂しいもの。妄想でもカツキと唯をくっつけておかないと、苦しすぎる。
驕るよりずっといい
唯のキャラクターの良さから、短い漫画ではあったがけっこう人気があったこの作品。作者さん的にもあまり長編は描かないタイプらしく、3巻って割と続いたほうであるらしい。腹黒なキャラクターなのではなくて、他人から評価されるよりもずっと自己評価が低く、自由に羽ばたいているように見せて、自分で作ったしがらみにがんじがらめに絡まっていた唯。苦しくてもがんばれるのが唯だから、応援したくなる。ちやほやされて驕り高ぶってる人間が主人公だったら、やはりげんなりするからね。少し影があるヒロイン…ついつい自分と重ねてしまった女性読者も多いんじゃないかな。
どうせなら、亜希サイド、カツキサイド、母親サイドと、全部からみせてくれてもよかったくらい、いい話だった。全部の夢が叶うわけじゃないんだってこととか、それでも歩いていくと決める強さ、前向きに慣れたとたんに大きく世界が変わって見えることなど、人生における教訓がぎゅっとつまった作品になっている。きっと長引かせることもできただろうし、カツキのことが心残りすぎるが、唯が前向きに歩いていけるハッピーエンドにしてくれて、ありがとうと言いたい。
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