エッセイだけども読み物として、しっかり心に刻まれる一冊。 - 日々ごはんの感想

理解が深まる小説レビューサイト

小説レビュー数 3,368件

日々ごはん

4.004.00
文章力
3.00
ストーリー
2.00
キャラクター
5.00
設定
3.00
演出
2.00
感想数
1
読んだ人
1

エッセイだけども読み物として、しっかり心に刻まれる一冊。

4.04.0
文章力
3.0
ストーリー
2.0
キャラクター
5.0
設定
3.0
演出
2.0

目次

あの時の私も、この本の一部になっている。

高山なおみさんが吉祥寺にKUUKUUという料理店を出していたのは、今から15年も前になることに、
「日々ごはん」を今読み返しながら気づく。
彼女を知るのは、吉本ばななさんのエッセイかブログによく、KUUKUUへ行ったという話が書かれていたからだ。中学の頃から、吉本ばななさんの本が熱狂的に好きでいたので、ミーハー心を思いっきり抱えながら、閉店間近のKUUKUUへ足を運んだ事を覚えている。
そこで食べたチベット風餃子の、皮がぶりぶりした様子を忘れることはできない。
その時は、高山なおみさんのことは頭のはじっこの隅にあって、その後何年も忘れてしまっていた。
しかし、「日々ごはん」はKUUKUUが閉店する直前からの高山なおみさんの毎日が綴られており、あの素晴らしい味を出す背景の生活が書かれていた。
なんとはなしに、その時期お店に行っていた自分も、この本に組み込まれているように感じるのだ。

毎日、当たり前のことをくり返す大事さに気付く。

料理研究家として、TVにどんどん出演し出した高山なおみさんを何気なくチェックしてはいた。そして、日々ごはんが初めに出版された時、同居していた女友達とむさぼる様に読んだ。
エッセイでは、ここまで書いていいのか?という位に「(パートナーである)スイセイと喧嘩した」とか、「りうは私の子じゃなくてスイセイの子。かわいいでしょ」と言って(義理の娘である)りうさんに怒られた、という話まで。すっかり、プライベートもあけっぴろげにしているからこそ滲み出る、高山なおみさん、という人物にいつの間にかどんどん魅かれていく。
何しろ、料理研究家になってもインスタントのラーメンを食べたりするところが、とんでもなく身近に感じられた。
料理は昔から好きだ。女性でも男性でも、そういう人は沢山いると思う。だけど、毎日のことだから木場ってやり続けるのは結構辛い。でも、栄養とか考えたい…と、いつの間にかおっくうになってしまい、買ってきたお惣菜やレトルトを食べて、罪悪感が増し、更に料理をすることから離れてしまう。そんな、悪循環を持つ人も少なくないと思う。
しかし、高山なおみさんの毎日のエッセイにはその日の夕食の献立が書かれていて、「撮影があったから〇〇が沢山残ったので、これが夕食」とあり、「私は料理研究家だからこうせねばなりません」という姿勢が一切見当たらないのだ。
高山なおみさんの、空気がプスッと抜けた様子の中に、ハーブをしっかり入れた香草パン粉のレシピなども見たりしているうちに、これこそが毎日の中に組み込まれる料理なのかも、と思った。
友達と会って昼間からビールを飲んだり、夜中にいきなり料理を作りたくなって結局朝になったり、好きでやってることだけど行きたくないなぁ、とイヤホンで好きな曲を聴きながら、それでも職場に着くと楽しかったり。そんな、何でもない日常に組み込まれるのが料理で、誰かに食べさせたり、自分で食べたりする。そんな、当たり前のことを毎日くり返すことが大事なんだなと、高山なおみさんの本を読んでいつの間にか気づいた自分がいた。

感情を出すことはそんなに悪いことではない

日々ごはんが発売されてから15年も経つ。
あの頃、高山なおみさんが住んでいた場所からご本人も引越してしまい、家族も変化してしまっている。しかし、今再度読み直しても、日々ごはんの中にある生活が、他人の生活であっても、まるで手に取るように、自分の記憶の一部であるかのようにあぶりだされてくる。
高山なおみさんが、よく酔っぱらって転んでしまったり、夜空を見上げたり、木に話しかけたり、その辺に寝っ転がってしまった時に吐露される感情の数々が、なんとも言えず胸を締め付けるのだ。
明るい感情ばかりではなくって、結構暗い感情が2・3ページ続く時もある。夕方まで眠ってしまったり、暗い夢を見てそのまま起きてからも引きずっている高山なおみさんの様子を読んでいても、なぜだか本を読み終わっても、心の中を掃除したような気持ちになるのだ。
小説でも、エッセイでも、ネガティブな感情に接してしまうと、自分の現実世界にも少し波紋が広がるような感じがあって、時々本を閉じてそのまま続きを読まなくなる、ということもあるのだが、なぜか高山なおみさんの日々ごはんだけはそうならないのだ。
考えてもよくわからない。でも、ひとつだけ思うのは、いつもそこに料理のメニューがあり、食材に向かう姿勢の高山なおみさんも見ることが出来るからかもしれないな、と思う。
誰だって、楽しい事がある反面、辛く苦しいことがあるのが、毎日の生活というもの。
そういう、当たり前の生活をここでも送ってる人がいるんだ、それが高山なおみさんで、心が感じた素直な感情を吐露してくれるからこそ、自分も何があっても生きていこうと思える。
予想以上に、読み物としてしっかりと心に刻まれる作品だと思っています。

あなたも感想を書いてみませんか?
レビューンは、作品についての理解を深めることをコンセプトとしたレビューサイトです。
コンテンツをもっと楽しむための考察レビューを書けるレビュアーを大歓迎しています。
会員登録して感想を書く(無料)

関連するタグ

日々ごはんを読んだ人はこんな小説も読んでいます

日々ごはんが好きな人におすすめの小説

ページの先頭へ