AIより医療ミスの人間の受け止め方を考える
最終章は調子こいてる人を若干落とす
小説を映画化し、人気を博してきたこのバチスタシリーズ。最終章では、善とされてきた人物の闇に焦点を当て、闇を背負って生きていくことの必要性を説く。
地下室で医大の教授や製薬会社などの面々9名が変死する事件が発生。ブレーカーが落ちたことによる事故死と考えられたが、どうも死に方がおかしいため白鳥が捜査を開始。最新式AIにより、重水による殺人事件であったと判明する。そこから、いつものように事件解決へと田口と白鳥が奮闘していくのだが…今作では、白鳥が研修医時代だったときの闇も含め、あんなに自信満々だった白鳥が珍しく落ち込む姿を見ることができる。
演じている仲村トオルさんもまたふてぶてしい演技がよくできていて、ちょっとムカつかせるんだよね。初期の阿部寛さんも個人的には好きな感じだったが、仲村トオルさんのほうがイラつかせる発言がぴったりで良かったと思う。小説版の雰囲気を崩していない。そして、おどおどしつつも医者として突き進もうとする田口もまたよかった。はまり役だとして評価も高い2人である。こういう本当に演技がうまいねって言う人が主人公で活躍するとなんか嬉しいね。
今まで、白鳥は官僚というポジションにありながら、真実に近づくために自分を貫いている強さがある人物だった。けれど、今作では苦悩の役。自分が研修医時代に殺してしまった人の遺族から向けられる目。憎悪。その方法がその当時として正しい判断だったとしても、命を奪った事実にはかわりがない。そこでダメにはならないのが白鳥ではあるが、面と向かって向けられる気持ちは相当痛いものだったはず。複雑な感情を表現した、いい演技だった。
医療の中では時々人が物に見える
取り返しのつかない失敗はただの経験か。医療の中では、すでに定説として定まったものもあるけれど、常に最先端は塗り替えられ続け、新しくなる。だからこそ、新しいものを創り出そう・創始者になろうとする研究者がいて、実験が繰り返される。その目的はいつしか、自分の名誉をつくることになっていないだろうか?成功と約束された地位が欲しくて、病気の人を救うことではなくなっていないだろうか?治験によって助かる人もいれば、死ぬ人もいる。もちろん、リスクのあることは医者が説明するだろうが、試したくてごり押ししてくる医者だっているだろう。安心させる言葉を吐き、失敗したら手術中に容体が急変したと片付ければいいのだから…ちょっと失敗したくらいにしか考えないのかもしれないが、誰かの未来を消すほどの影響力があるということを、医療職種は忘れてはいけないのだろうと思う。
医療においては、病を抱える人を毎日相手にする。だから、いつしかそれが当たり前になってしまい、傷つく言葉も平気で吐けるようになるし、偉そうに元気づけることもできれば、けなすこともできれば、さらには今後の命を左右することだって簡単だ。うまくいかなかったら、全部患者のせいにすればいいんだもの…どれくらいの割合で、志があるだろうか?人を救いたいと思えているのだろうか?給料で選ばれた仕事なのだろうか…結局は、“仕事”だからね。謙虚にやっていくしかないと思うんだよ。人の人生を左右してしまうほどの影響力があるのだから、より、謙虚でいなくてはならないのだろう。…真面目に考えちゃった。
9人殺すのは多すぎる
それにしても葉子さん、殺しすぎだとは思わないか?薬に関わる人間を殺したかったことはわかるし、自分の顔を覚えてもらえていなかった・忘れられてなかったことにされていたことが相当悔しかったのだろうとも思う。でも、9人殺すって…けっこうな大罪よ?自分の母親が奪われたことが重いのはわかる。失敗があったこともわかる。失敗した人間が平気でのさばっていることが許せないことも…それでも、故意に狙って殺してしまったら、相当重いと思う。榊教授だって、殺したくてやったんじゃない。試したかった好奇心はあるだろう。結果は人殺し。同じかもしれないけど…何をやっても、誰も戻ってきてはくれない。
榊教授に関しては、“人の顔を覚えられない”病を患っている、ということだった…それって医者としてはかなり致命的な病気なんじゃないだろうかと思うが、どうだろう…その人を知り、仲良くなり、打ち解けあうのに顔を覚えられないのはかなり致命的なのではないだろうか…。それでも医者を続けていたところに私はつっこみたい。それこそ医者であり続けたかったエゴでもあるんだろうか。
葉子もさ、顔を覚えられない病気だったと聞いて「悪いことしちゃった…」って思えるなら、むしろその何歩も前に踏みとどまってくれりゃーよかったのにな。桐谷美玲が犯人役って変な感じだよね。いつもヒロインなのに、悪役で出るのはかなり違和感。新たな境地に挑戦した感じなのかな?
AIだって電源なければ能無し
問題の9人死亡事件に関して、確かに殺人であると断定できたのはAIのおかげ。これは感謝しなくてはならないだろう。人では気づけなかっただろうから…。
最終的に、AIの欠点って、あ、電源ないと無理じゃんって話だった。ハッキング以前に。そして、最終的に決めるのはいつもマンパワーなんだ!ってところは非常に納得。昔は電子カルテなんかなかったんだよ。AIもなくて、そこにいるのはオペ技術のある医者たちだけだったはず。勘と経験、理論でやり抜くのが、地道であろうが、一番確実なんだよ。
計算問題に狂いが出ることはないのかもしれないけれど、そこに表れたデータが果たして信頼できるのかどうか、そして信頼するかは人である。人の命を救えなかったことが機械のせいだと投げ出すこともきっとしてはいけないし、決めるのはいつも人間だなと思う。
なんか東堂さんがいかにもな悪役面だったので、こっちが犯人なの?と疑う時もあったくらい。しかし、引き際は非常にあっさりとしていて、まだまだマンパワーに敵わないなら、もう一度作り直すと決めた彼は非常に頼もしかった。渾身の出来だったとしても、条件に合わないなら何度だって見直すことができる。そういう能力って大事だね。
便利でも万能ではない
AIに関して描かれていたようではあるけれど、主には過去に縛られてどうすればいいかわからなくなっている、医者たちと遺族の話だった。薬害と対比させ、AIが導入されることで生み出されるものの可能性とリスクが提示されたのである。2014年に公開されたときはまだこんなもんだったけど、今となってはAIはさらに進化しているし、どんどん導入されていくんだろうなー…でも、もしかしたら、人よりも怖くないものなのかもしれないって気もするんだ。策略がなく、計算の通りに、機械的に判断してくれたほうが助かることがいっぱいあると思うから。感情が入るからめんどくさくなってるんだよ。
この映画では、機械が入ることでミスがなくなるのか?機械が万能なのか?人がミスを作り出すのか?といったあたりをふかくえぐり、問題提起をしている作品。確かにミスは減るかもしれないが、いざというときは人でなければ決められないはずで、常に全力で努力し向き合っていくことは変わらないということを伝えてくれていると思う。万能なものは1つとしてなく、それをどう活用し、何を生み出すかはそこに生きる人によって確実に決まるのだ。それだけは忘れないように、日々がんばってもらいたいものだね。そして受ける側も、万能なものが1つとしてないということを肝に銘じておいたほうがいいだろう。
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