逃げたい恐怖に勝つまでをテンポよく - ベスト・キッド(2010)の感想

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逃げたい恐怖に勝つまでをテンポよく

4.54.5
映像
4.5
脚本
3.0
キャスト
4.0
音楽
4.0
演出
4.5

目次

ジャッキーと言えばカンフー

もうジャッキー・チェンが出てきたら、カンフー。それしかないだろう。数々のカンフー映画に必ずと言っていいほど登場してきた彼。今作では師匠という立ち位置と、過去に囚われた悲しい男としての立ち位置の2つを持って登場している。あのカンフーのキレ、いつまで続くんだろうね…すごいと思うわ。トレーニングを教えてほしい。

今作では、シャオ・ドレという少年が主人公。アメリカから北京へと母親の仕事の都合で引っ越してきた彼は、新しい土地に馴染めず苦労していた。そこで出会ったメイという少女と親しくなり、打ち解けていったドレ。そんな喜びもつかの間、同級生のチョンなどが転校生のドレがメイと仲良くなるのがおもしろくないとドレをいじめるようになる。チョンがカンフーを習っていて強敵だというのもあり、ドレは一方的にいじめられ逃げるしかなかった…

そこからドレが這い上がるのを助けてくれるのがジャッキー演じるハンである。アパートの管理人をしてはいたが、カンフーの腕は一流。彼に師事してチェンたちを倒すことになったドレの、修行が始まるのだ。ジャッキーと言えば酔拳とかだろう。まさか教えないのかな?と思っていたら…ラストで自然と出てくるように構成されていたなんて…!あの構え、そして首の角度!まさに、ハンが乗り移ったって感じでいい終わりだったよね。ハンがドレを鍛えていくうちに、彼自身が自分の過去と向き合って、それに勝って進まなければならないと気づいていく。結果として、彼らの表情を見ていれば、それがわかる。いい演技だったわー。

文化が違えど立ち向かう勇気を持て

中国とアメリカに限らず、2つの国を歩けば違いがどれだけたくさんあるかがわかるはずだ。そして1つの国の中にいればいかに安全だったかということもわかる。何も知らない、誰も助けてはくれない土地でいかにがんばっていけるか。そのときはいつも、“自分が決めること”なのである。

黒人であることに対して別に差別なんかはする気はないが、肌の色が違うと生き物として違うとみるような輩がいることは確かだ。その中でも、シャオ・ドレは果敢に挑んでいるほうだったと思う。子どもだからこそ、怖いもの知らずだったとも言えるし、負けた相手の同情に直談判に行けるくらいには勇気のあるやつだった。

そんな彼がハンに師事し、あの有名な、上着を脱いで、かけて、着て、おろして、拾って…をさんざん繰り返される。もはやネタなみに浸透したこの「日常の中にカンフーはある」という考え方は、確かに分からなくはない。基本が何事も大事であり、無駄な動きなど一つもないということを言いたいのだと思う。それを日常生活レベルの動きにまで落とし込んで説明するのはユーモアがあるし、結局はそこなんだよ、と教えるのにインパクト抜群の方法であったと思う。

ハンとドレの過酷なトレーニングは…活き活きとしていたし、ドレの肉体がどんどん筋肉質になっていくのもまたリアルで、ちょっとやってみたい気持ちにもなった。耐えられるかどうかなんて置いておき、まずやってみたくなる。それをやったら強くなれるんですか?と信じてみたくなる。カンフーはいつもそこにある、とか言ってみたい。

恋もしっかりがんばっている

ドレは実はしっかり者。厳しいトレーニングの合間をぬってちゃんとメイともコンタクトを取っている。抜け目のない奴である。ハンがずっと過去の自分の過ちを悔いている間にも、若いドレはどんどん進んでいくのだ。

お互いのオーディション・武術大会を見に来てほしい、なんてかわいらしい!ワクワクドキドキするね。もちろん、ドレががんばるのは女のためってだけじゃない。自分自身が、チョンを恐れる気持ち、常に恐怖を感じて生きている自分に勝ちたいと願ったからだ。それがよくわかるのが、チョンと実際に勝負するシーン。目標だった相手を前にして、自分がケガのハンデを追っているとかそういうことではなく、“恐れ”を抱いているのは間違いなかった。表情、後ずさりの様子、息づかい。それがポイントを取られた後に徐々に吹っ切れていき、本番の勝負の中でも成長していっているのがよくわかる。そして、その姿に心が晴れていく気持ちになるハン。言葉はないが、表情が物語るこの魅せ方は、アジアっぽくてやっぱり受け入れやすいよね。

ハンからカンフーを習い始めて、メイとの関係を認めてもらいたいとがんばったドレ。イケメンだったよ。そしてその心意気を認めてくれた、メイの両親もしっかりと善良な人間であったと思う。ハンはドレに影響を受け、ドレはハンに影響を受けている。お互いがお互いのがんばりに応えなければならないと思い、恐怖や後悔に押しつぶされそうになりながらも踏みとどまって1歩進める。こんな師弟関係、最高じゃないだろうか。

ラストの礼にすべてを込めて

チョンを含め、カンフー道場の悪ガキたちがみんな悪い奴だったわけじゃない。それがよくわかるのがラストの礼。姑息な手段に出ることのほうがずっとみっともない。そう感じさせるまでになったドレに、敬意を表することができる。それって、清いよね。汚いのはいつも大人だし、チョンですら、最後は師匠を裏切って敬意を表した。そこがカンフーのいいところ…!強い相手を前に、弟子入りしたいと思ったり、その存在を尊敬したりできるのって、カンフー映画ならではの行動だ。

ラストの場面では、ドレが華麗に勝利をおさめ、会場が湧きたち、メイ・シェリー・ハンの3人が駆け寄り、姑息だった相手チームが強者に礼をする、というハッピーエンドであった。それ以降は特に何か描写があったわけじゃないが、ドレが師範となり、何らかの道場で子どもたちを強くするとか、メイとうまいこといっているとか、体の大きくなったドレも見てみたかった。映画は「ベスト・キッド」であり、大きくなっちゃったら趣旨からずれちゃうのだろうけど、キッドが大きくなって見せてくれるもの、思い出すもの、受け継がれていくものも興味深い。

この映画は2時間20分と時間的には長い物語になっており、これ以上は難しいだろうが、子どもとそれに影響を受けて成長する大人の両側面から楽しめる内容になっている。

全体としては薄いかも

ただ、全体の流れはそんなにひねりがあるわけではない。わかりやすいスポ根映画であり、カンフーを通した心身の成長を描いてる、というだけである。テンポよく進む演出は好きだし、ジャッキーががんばっている戦闘シーンも好きなことは確かなので、個人的には気に入っている映画だ。それでも、だいたいの流れが読めてしまうことからおもしろくないという人もいるようだ。それぞれの好みになるが、カンフー映画でアクションに凝っている映画は、そのわかりやすさとアクションシーンのリアル感(本当にやっているからこその臨場感)が魅力であるし、そこは十分に楽しめる。黒人の男の子が主人公になるのも、アジアの映画としては新しかったように思えるし、全体としてストーリーに薄さはあっても、よくできた作品であろう。そうでなければ、これほど年月が経ってからも愛される作品にはなっていないはずだ。

いつかこんなカンフーの達人になりたい。幼き日にそう考えた人もいるかもしれない。今やカンフー、太極拳なんかは、健康にもいいんじゃないかとブームなスポーツでもあるが、もともとは神聖なる闘いの技。“礼に始まり礼に終わる”基本を忘れずに心身を洗い清めるつもりで挑んだほうが清々しくていいだろう。

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