ファミリー向けということにしておこう
船越さんってこうだよね
船越さんと言えばサスペンス。その雰囲気のままに熱い獣医を演じている。あからさまな悔しがり方、そしてあからさまに気合いの入った子どもたちへの言葉、あからさまな走り方とあからさまな振り返り、感情的で一生懸命…うん、サスペンスの船越さんである。感動を呼ぶ映画として登場したものだが、やっぱり船越英一郎さんならこういうぬるい雰囲気より、スパッと刑事をやってくれていたほうが似合う。ドロドロの服よりもスーツがいいよなーって思っちゃって、少しそわそわしてしまった。船越さんはサスペンスの帝王。いてくれたらすっごい安心感があるんだなーだけど違うジャンルになるとここまで違和感がぬぐえないのかと思ったわ。
「マリと子犬の物語」の作製スタッフによる作品で、第1作目がよかったからといってその次もいいとは限らないよね。てか流れはだいたい似通っていた(というか同じやけどね…)わけだし、違いを出すならキャストだったんだが、前作の西田さんが涙の似合う俳優さんだったのもあって、ずいぶんと違う作品になったなーと思う。ある意味ね。全然演技の種類が違うのよ。落ち着き払って馴染んでいたのはマタギ役の大滝さんかな。もはや馴染みすぎとも言える。
ついでに言えば、深田恭子さん演じる千恵が兄の大慈に対して「兄貴!」と言うにはキャラが清楚すぎだった。なぜ北海道っぽくするための手段が「兄貴」なのかちょっとよくわからない。北海道の大自然は好きだったんだけどなー空気が気持ちよさそうでね。
ウルル超かわいい
狼役のウルルは、超絶かわいい。なぜああも無防備で愛らしいのか、本当に狂おしいくらいにかわいかった。犬好きにはたまらんと思う。
絶滅に瀕したエゾオオカミである可能性が高いと、野生動物保護協会の長谷部に言われ、研究所に連れて行かれそうになるウルル。ウルルにはどうすることもできなくて、決めるのは大慈と昴としずく。「オオカミは家族を本当に大切にするんだ」ということも聞いていたし、家族を連れ去られるつらさ、お母さんと離れなければならなかったつらさを昴としずくは重ねる。でもちょっと待ってほしい。昴としずくにとっての母親は、確かに入院はしているがちゃんとまだ生きていて、育ててあげられないから一時的に離れているような状態だ。ウルルとは話が違うんだよ。ウルルはおそらくもう母親と出会えないかもしれない。山の中で一人で生きていかなければならないかもしれない。本当に大好きなら、ずっと一緒にいることも、研究所に預けて守ることも、野生に返してもいつでも必ず会いに来ることも、やらなきゃいけないとは思わないだろうか。「野生の動物は野生に返す」それはごもっとも。でもここまで育ててあげた我が子のような存在を、ビー玉投げつけて山に返すその残酷さってやばくない?人といることが最高の幸せではないかもしれない。だから手放すんじゃなくて、関わり方を模索して、もっともっと悩んであげて、何かを残してあげることのほうがずっと優しくないかな?子どもに無理でも、大慈が言ってあげるとかさ。単純に子どもから取り上げるんじゃなくて、もっと悩め!と言いたい。「大きな慈しみ」という名前を持っているくせに、全然慈しみが足りないと思うんですけど…
人間に関わり生きていくのとどちらがいいか
そりゃー人間にずっと関わっていたって子孫が残せるわけでもないし、老いて死んでいくだけかもしれない。研究所に預けられるよりは、自然の中で生きているほうが彼らにとってはいいことだろう。もしかしたらどこかで家族が生きているかもしれない。でも探す術は持っていないだろう?ただ野生に返すくらいなら、家族を死に物狂いで見つけてやって返せと言いたいけどね。私たちには関係ない・踏み入れない領域だから、あとは野生で勝手にやってくれってことだろう?
ウルル自体は、自分を大切にしてくれる昴・しずくたち家族と生きているほうが楽で幸せだろうとは思うよ。食べ物にも困らないし、何か外敵がいたとしてもおそらく守ってくれて、病気やけがをしてもきっとできる限りを尽くして治そうとしてくれるだろう。研究所にもし連れていかれたとしても、決して虐待されて死んだりはしない。ただ実験に使われることは命を存外に扱われている気になるかもしれない。どちらがいいかはオオカミにも、人間にすら選べない難しい問題だ。直接には関わらないけど、森を守ろうと動くことも大切かもしれない。ただ離れたくないからって一緒にウルルと生きていくことが何かを生むわけではないだろう。ウルルの命をつなげることは、人間にしかできないこと。だからできることをやっていこうねってところまで示してくれないと、全然納得できないんだよね。ウルルと会った森でウルルをかえして終わりなの?全然感動できないんだなー。
母親との再会
父親が離婚して母親を一人にした、と昴は言ってやったが、やはり暮らしてみればいいところもあって…子どもは親を適当には扱えないものなんだよ。
手術に成功した母親と昴・しずくは再会を果たしたわけだけど、もうウルルの事はどうでもよくなっちゃったんじゃないかなとか思うよ。寂しかったからウルルを大切にしたんだろう?ウルルを通して成長した…って結局ウルルのためにはなってなくて、人間本位じゃないの?って思うんだよなー…
ラベンダー畑で母親の夏子と再会した昴としずく。このシーンを観たら、これはもう北海道の自然をとにかくたくさん見せたかっただけの映画なのかも…って思えてきたよ。確かに綺麗で気持ちのいい映像に変わりはないからいいが、オオカミはどうした?って自分が考える。ハッピーエンドだと言っているが、ハッピーだったのは昴としずく、その家族だけだろう?ウルルを利用したんだろう?って思えるなー。
心臓の弱い母親、まさかのジブリを思い起こさせるうえ、母親が心臓弱い必要あった?っていう感動をわざわざ起こそうみたいな流れも気に食わない。別にただの離婚だって良かったんじゃないの?どうせなら復縁したほうが、家族をつなぐ感じがしてきて自然だと思う。
全体としてはあったかい
そりゃー確かに見やすい映画ではある。独りぼっちのオオカミがいて、拾って一緒に暮らして。でも帰らなくてはならないところがあって、帰る。悲しいけれど、強く生きていこう的な話だ。
でもさっぱり涙の1つも出てこなくて、昴としずくはかわいいけれどぎこちなくて、ウルルがただただかわいいという…不思議な映画であった。あんなにイケメンな顔をしているのに大人しくてなされるがままの犬、いたら絶対一緒に暮らしたい。
しずくが昴を「おにぃ」と呼ぶが、おや?妹好きすぎるお兄ちゃんが出てくる漫画か?と違うものがよぎってしまって集中できない時があった。なんでもかんでも前作と比べるのは良くないが、前作が良すぎたんだろうなと思う。演技にまで文句をつけたくなるからね。ストーリーは同じなのに、第1作目以上のものを期待して映画を鑑賞してしまうせいだろう。
ファミリー向けには受け入れやすい物語なんだろうが、これが絶対正しい方法だったんだよーとは自分のこどもには絶対教えないね。そこんところ、間違えないようにしたい。
これだけは言いたいのだが、ウルルを突き放すのにビー玉って…なんで?むしろちょっとなんかの遊びだと思ってしまいそうなんだが…触れないでおこう。
- あなたも感想を書いてみませんか?
- レビューンは、作品についての理解を深めることをコンセプトとしたレビューサイトです。
コンテンツをもっと楽しむための考察レビューを書けるレビュアーを大歓迎しています。 - 会員登録して感想を書く(無料)