かわいくてときめく柳の恋
乙女な柳くんの憂鬱
このラブゲームは、鈍感女子・九条のギャップにやられたナルシスト・柳が、どんどん乙女心に磨きをかけて恋に翻弄されていく物語だ。たいていは鈍感な男子と乙女な女子の駆け引きを描くのが少女漫画ってもんだが、こういう感じで位置関係を逆にしていると面白みが増す。小学生のころから完全に九条に恋しちゃっている柳だが、それに気づかず(認めず)大学生になるまで来てしまった残念な男である。容姿端麗・成績優秀・スポーツ万能でお金もあるという柳は常にモテており、彼女も数知れず作ってきた。でもすべてにおいて九条に負け続け、勝っているのはお金のみ。餌付けで心をとらえているだけと言っても過言ではないのだが、九条に少しでも喜んでもらいたい・あわよくば勝利したい柳なのだ。彼女が出来たと言っても、そのたび九条に報告する柳のかわいさと切なさと言ったらぐっとくる。哀れで愛しい柳である。から回っているときほどうれしくなる。
序盤で最も感情を表現できていたのは、やはり九条のケータイを買ってあげる初のデート(らしきもの)の時であろう。九条がもしこれから誰かを好きになるとしたら、地位も名誉も家柄も何も関係なく、その人自身を好きになるってことなんだろうと想像した柳。
…いいなぁ そいつ
うわー惚れている。恋い焦がれている。口から本心漏れている!柳の乙女度ハンパない。十分九条にとって特別な存在なのに、気づいていないからこれまた狂おしい。気づいてほしいを思いながら、もう少し遊ばれていてほしいと思う、そんな繰り返しで11巻ずっときてしまった気がする。
まさかの思春期まる飛ばしが新鮮
柳と九条の恋は大学生で花開く。それまでは本当にただ柳が異様にライバル心を燃やして迫っているだけで、九条よりも上に立てることなく、それが恋だと気づくこともなく、必死にくらいついている。普通は小学校、中学校、高校と成長していく中での、恋の発見と成就を目指すもの。ところがこの「ラストゲーム」では、そこは完全に通過点にしかすぎず、お互いは大学生で本当のリア充になるのである。
出会って10年、ようやく関係性を変えようと動き出した2人。片想いのまま打ち明けられなかった柳もヘタレだが、実際そういうパターンはなくはない話。九条にとっても柳は大事な存在になっていたことを、柳のゆさぶり1割・周囲の働きかけ9割くらいの割合で九条に伝えていく。
大学に入る時点で、お互いの信頼関係みたいなものはすでに出来上がっているため、時間はかからないんじゃないかと思っていた。しかしそこは期待を裏切らない柳くん。とにかくヘタレなんだよ…九条を目の前にしてはまったくかっこつけることができない柳。愛しすぎる。九条も、どんどんかわいくなって、笑うようになって、柳しか知らなかったはずの魅力がダダ漏れになってきて…柳は気が気じゃない。九条が少しずつ恋愛感情というやつを学んでいってるから、柳も動かざるを得なくなっていくこのドキドキ感。新しい緊張感を感じさせてくれる物語だ。
気づいたら恥ずかしさ全開
それが恋だと気づいたら、ドキドキが止まらないの…
九条がかわいく恋に気づくときがやってくる。人から好かれることを知り、自分が誰かを好きになる感情を知り、自分が主人公の話があると知っていく九条。母親を大事にし、大学でできた初めての友だちを大切にできる九条は、本当にいい奴だし、どこにお嫁に出してもいいくらいしっかりした女性なのだが、自分も含め感情に疎いところが問題だった。それを、柳が少しずつでも教えてくれていたことに気づいたとき、もう九条のドキドキがとどまることを知らない状態になる。それに応じて柳も動き出さねばならないのに、逆に戸惑ってしまった柳。進展したけりゃ勇気出して進め!と背中を何度もたたいてやりたくなる柳である。
物語の中では、いじめとか陰湿なものがあるわけではない。横恋慕で少しざわつくくらいのもので、柳と九条の基本的な信頼関係には揺らぎがない。ただ、お互いを意識するようになった場合に、これほどまですれ違ってしまうものなのだ。今までどうやって接していたかもわからなくなってしまった九条。君もかわいい奴だね。そこからはもうただの恋愛漫画。お友達のフォローもありつつ、少しずつ本当の距離を見つめ直し、思いを伝え合う2人…柳よかったね。やっと男として意識してもらえるようになったんだもの。九条が笑ってくれるならと、がんばる柳は生粋のオトメンと言えそうだ。
柳と九条を成長させてくれた2人
間違いなく、九条と柳たちだけでは、お互いの成長はなかった。相馬くん、橘さん、あなたたちのおかげである。ずっとこんなアホなリア充のそばにいてくれて、言葉をくれて、励ましてくれて、ありがとうと言いたい。相馬くんと橘さんがいなかったら、絶対にゲームはラストになんかならなかった。いや、もしかしたら、ある意味ラストゲームということで、2人はかかわりを絶ってしまったかもしれない。それくらいの瀬戸際で、いい働きをしてくれていたのだ。
相馬くんの行動力が柳のプライドを揺さぶり、橘さんのストレートな感情表現が九条に恋する気持ちを教えてくれていた。かっこよかった。柳のあの狙ってますって感じのカッコよさより断然輝いていて、さりげなくて、胸をときめかせる。正直にそのまんまぶつかっていくほうが、九条だってわかりやすいんだよ。柳の鋼のプライドを壊してくれてありがとうと言いたい。
橘さんにいたっては、昔太っていたということが黒歴史らしく、それを知られたという勘違いしてかわいかった。過去のことなんだし、それほど気にしなくたっていいのでは…と思った。しかしそれを必死に隠して、きれいになって、好きな人に振り向いてもらおうとする、そのバイタリティは今までの九条にはなかった概念。九条の場合、柳がベタ惚れなので別に何もしなくたっていいのだが、かわいくみられたいとがんばる九条を、柳がさらに好きになるだけの話だ…ゲロ甘の物語。
みんなが幸せになれて嬉しい
大学を終えめでたくゴールインを果たした九条と柳。他の漫画だと実感が湧かなかったり、実はすぐ別れるんじゃないだろうかと想像する時があるが、九条と柳に関しては、とっても幸せでいれる気がする。
結婚式は、何もかもに疎い九条ではなくて、やはり乙女な柳の出番だった。すべてをプロデュースし九条をかわいくして、実際に九条のウエディングドレス姿を見てしまって…ホロリと涙する。親か!ここまで大変だったからね。感極まるのもわかる。今までの苦労が全部報われたような気持ちになるんだろう。そして1回で終わらず何度も泣くから…かわいい…九条に慰められてますます…愛しい柳だった。柳はナルシストだったが、誰かを傷つけたりはできない優しい人であるし、九条に見初められて本当によかったよ!
最終巻でもなぜかゲームという名の愛の告白をしていたが…
ずっと俺の隣にいてよ
はぁ…ノロケだ。キザすぎて鳥肌ものだが、この晴れ舞台だし、許すこととしよう。長い時間をかけて、少しずつお互いを理解し、大学でようやく動き出した2人の恋。お互いがお互いの人間性をまず好きになっているし、穏やかな時間が流れて優しい物語だったように思う。キャラクターの絵的にも、ゆるめな描き方だからね。とっつきやすい漫画であった。相馬くん・橘さんたちも含め、みんなが九条と柳を祝福してくれる、素敵な結婚式をみせてくれてありがとう。
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