仲間を大切に想う気持ちを持って走る
相変わらずのギャグの具合
するどいツッコミがさすが。「悩殺ジャンキー」でもそうでしたが、言葉のチョイスがおもしろい作者である。また生徒会ネタなのか、というデジャブ感はあったものの、今度は生徒会長になるのはヒロインのほう。人間の姿をしたケモノたちが通う学校で、ヒロインとそれを含むメンバーがどう変化し関係をつくっていくか、という物語であった。
編入しなければならなくなった学校がケダモノ高校であったため、人間であることを隠しながら生活していくことになった呉羽。呉羽が人間であることは生徒会の3人のメンバーしかしらない極秘事項。生徒会のメンバーもそれを隠し続けることによって恩恵を受けるということで、獲物を前に必死に食欲を抑えながら、呉羽と関わっていく。
恋のイベントは、特に不思議なところはなく。そのまま呉羽と右京、そして蝶々と茅の組泡になってしまった。右京は俺様野郎で口が悪く、呉羽への愛の言葉も数少なく…呉羽が恋しちゃったのが先になっているのがとても屈辱的。本当は大好きなんだと分かっているけれど、右京は前作のウミより感情表現が豊かじゃないからわかりづらかったなー。呉羽がその分わかりやすく、めげずに走っていけるタイプだった。
自分的には、右京なんかより絶対茅と呉羽のほうがお似合いだと思っていたので、とにかく残念だった。相性的にも、茅の性格的にも。蝶々が右京への想いを断ち切らねばならなくなったことが本当に苦しいというか…たいていは主人公を応援するんだが、蝶々のエピソードはちょっとせつないなー…と思った。
右京がなんか気に食わない
とにかく口が悪いし、感情表現がわかりづらい。すぐ拗ねるうえ、いじわるしまくりである。第一王女の件がどうのこうのと言っていたが、性格が悪いと言いたい。黒髪で長身・かっこいい部類に入るのだろうと思うんだが、ケダモノの耳としっぽはそれを見事に消してくれていて、まったくかわいくない猫のような存在だった。ストーリー的にも、イベントが少ないうえ、恋路よりもケダモノと人間の歩み寄りのようなところがある。呉羽は孤独を持つ少女だったが、それは右京・茅・蝶々たちも同じであり、お互いの持つ寂しさや苦しさを種族を越えて分かり合って仲良くなることができるのか?といったメッセージも含まれていたように感じられる。
確かに右京と呉羽はお付き合いができるようになり、ようやく右京のデレが発生するが、ニヤニヤするシーンが物足りなくて、もっとかわいい右京を見せてくれ!と叫ばずにはいられなかった。ケダモノの学校とはいえ、イベントは人間の学校のものと大きくは変わらない。商品が大好きなエサだったり、種目がだいぶ特殊だったりするだけだ。その中で仲を深め、理解しあい、ときめいていく。表の美しき人間は裏が気になり、俺様野郎の場合はデレるときが見たくなる。人間って困ったもので、逆の要素が欲しくなってしまう生き物なんだよなー本当に欲張り。強引な性格はケモノゆえかもしれないので、右京に関しては大目に見てやるしかないのかもしれない。
そもそもなんでケモノ設定なんだ
ケモノであることを除いてこの物語を見てみると、普通の金持ち学校にぶち込まれた女の子の話に収まってしまう。生徒会長になるっていうのも、友だちだと思えた人の裏切りも、好きだと思える人の苦しみや、好かれるということのありがたみも。全部、よくある話。オリジナリティを出すために、わざわざケモノにしたのだろうなーと推測するが、この作者さんの場合は、いろいろと意味を込めて作っているんだろうと思う。
呉羽が孤独設定であり、ケダモノ高校に通う生徒会の面々もそれぞれに孤独を抱えている。1人でも強く生きていこうとするケモノがいて、人間がいる。でも協力しあって打ち解けあえば、お互いの傷を癒す存在となり得る。ケモノも人も同じように、仲間を大切にして生きているということが伝えられているのではないだろうか。そして別に違う生き物だって、分かり合えるのではないか。そういうデカいことを言ってくれている気がするよ。
もちろん、ほぼギャグみたいな漫画なので、そんなもんだと思って読んだほうがいいと思う。ケモノが裸で一緒に寝るって…いったい何なんだ。ケモノたちの行動の中で一番まともっぽく見えるが、毛がないだけでこれほどまでに受け付けないものなんだなーと感じた。お互いへの信用を表すものであり、裸になって物理的にも温めあえるから、そして鎖も服も身につけていない状態でこそ自由な状態であることが表現されているのだろう。人間の場合、丸裸で分かり合えるなんてことはまずないから厄介だ。本能と理性を持ち合わせ、心が丸裸になることは決してない生き物だからね。
言葉で彼女たちの想いを表現する
作者の福山さんは、場面に合わせた言葉選びがなかなか秀逸な人。登場人物たちの複雑な気持ちを、読者が捉えやすい状態にしてくれる。呉羽たちの迷いを
明日は どっちだ?
と言えばわかりやすいし、毎日一生懸命、道を探している雰囲気がよく伝わる。また、白いウサギに黒いケモノたち。まったく正反対の色でありながら、混ざり合って溶け合って、グレーの色をつくっていくような魅せ方がある。
一緒に
4人で生徒会を作り上げ、4人で一緒に成長してきた。これからも成長し続ける。迷っても必ず仲間がいて、お互いを導いていく姿が印象的であり、それにより狭かった世界・偏っていた考え方がどんどん大きくなっていく様子をうまく表現している。今までの辛かったことも、みんながいるから乗り越えられるし、笑っていられる。決めるのは自分一人だが、導は誰かが示してくれている。前向きで、一生懸命で、正直な言葉をチョイスし、迷う呉羽たちにたたかう勇気をくれる言葉は、ギャグばっかりの漫画の中にも学びをプレゼントしてくれている。若者は悩んで悩みまくってなんぼってところがあるし、そうやっていつも体当たりで一生懸命に道を選んで走っていくことが、何にもつながってないってことはないだろう。生意気な4人組は初めから最後までずっと走っていた気がするね。ドタバタずーっとせわしない物語なので、苦手な人もいるのかもしれない。
もうこの際ケモノになればいいのでは
まさか記憶なくなっちゃって人間になるなんてなー…悲しいわ。それならいっそみんなケモノになってしまえばよかったのに。人間になる時のセリフはそれはもうかっこよくて。「自分たちならまた出会えるし、出会ったら必ずわかる。」みたいなことを言っていた。記憶がなくなってたって、どこかでめぐりあってもう一度仲間になれるんだ!って信じているのはカッコいいなーと思ったね。それでも、出会って何かを思い出すわけでもなく、呉羽と右京のお付き合いがまた一からやり直しなのかと思うとせつなかった。あの終わり方だと、とりあえず4人はまた出会う。そしてもう一度、お互いのことを大切にしながら生きていってくれるんだろうなーとは思えた。孤独を乗り越えて、人と関わって、弱くなったり強くなったりしながら成長する。そういう絆がメインにあったってことで終了。記憶がなくなってしまっても、右京の友だち想いがラストにみれたから、きっと大丈夫だって思えるよ。それでも、終わり方としては不十分だったね。いろんなものをポイっと捨ててもう一回始まるようなラストだった。あとで記憶が舞い戻ってくるとか絶対ないんだろうけど、それにしたってもう少し続きを見せてほしいよねって思うわ。
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