不条理な脱力系SF映画。それだけでは終わらない
旧ソビエト時代のカルト映画
なぜ旧ソビエトのSFコメディ映画を日本で上映しようと思ったのか,映画配給会社のすごすぎるチョイスですが,脱力の演出と音楽,謎すぎる世界観がうけて大ヒット。
上映当時は単館上映でほぼ毎日満席,パクったような飲料水のCMまで流れてた記憶があります。
唐突な展開で異世界に飛ばされる,割とよくできたUFO映像,ボロボロな身の回りの生活品に高度な科学技術。ソビエトってこんな国だっけ。こんな笑える映画が作れる文化あったんだ!と再発見する驚き。でもこの映画は,ただの脱力系不条理映画では,なかった。
SFとコメディーと風刺をまるめる
面白さって,何かと何かの要素を組み合わせることで,新しいものが作られると言いますが,例えばハリーポッターはファンジーとミステリーがどちらも上手だったから面白かったと思うんですよ。
キン・ザ・ザは,SFとコメディ,そこに風刺の要素まで入ってるんです。
旧ソビエト時代の民族差別や秘密警察への批判がこの映画の根底に流れていて,検閲をすり抜ける為SF風に仕上げたという。ただの脱力系のゆるい映画ではないのです。製作者の訴えたいことがとてもうまくシュールなSFに組み込まれ,隠されている。それでいて笑いあり冒険あり,感動もさせられる。すごい映画です。
ストーリーの綿密さ面白さ
SF冒険ものって,世界観をまず作って大風呂敷を広げて,最後うまく終いにできるか,かなり難しいと思うんですよ。それがこの映画は135分の長時間に早い展開で詰めこみ,うまい具合に異世界を冒険して帰ってくる。
過酷な冒険を通して仲間になっていく男たちの絆,きちんとコメディとしてオチもあり,異世界における言語の問題もなぜ通じるのかちゃんと説明がなされる。ただゆるいだけじゃない。話の筋書きもうまくできているなあと思うんです。
ひどい目に合う二人が,もうだめだ・・と絶望したときに,一筋の希望が見える。最低限の持ち物でどう乗り切るか,流行の音楽など伏線の回収もあって,突っ込みどころも多いですが,変な映画をただ作りたいということではなくて,相当編集してかなりきちんと作っているんじゃないかと思うんです。
なぜこんな映画が製作できたのか。監督のゲオルギー・ダネリヤはもともと建築学を学んでいた知識人で,複雑な要素を上手に組み立てるセンスは抜群だったんじゃないかと思います。
それに加えて,当時の社会背景が相当厳しいものだったことで選択の余地が狭められ,いかにして良い創作ができるのか,持てる技術で考えに考えてできた作品だったと思います。
恵まれた時代にはなかなかできない,今後もこんな作品に出会えたらと思う,良作です。
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