テッパンものだけど、目が離せないキャラとストーリーの魅力
異世界モノの鉄板ストーリー
オーバーロードはご存知の通り、DMMO-RPGの大作『ユグドラシル』というゲームの配信停止後、そのゲームの中に主人公がアバター設定そのままに取り残されるという、異世界モノの鉄板ストーリーである。
最初は「ふむふむ、よくある設定ね」と思いならがら文章を読み進めていったが、これがなんのその予想以外に面白い。正直ハマった。
通常ゲームの中に取り残されるなら、ダントツ強い勇者か魔法使いがいいに決まっている。誰も好き好んで悪役や敵キャラとして取り残されることを望んだりしない。
しかし、この主人公は悪役中の悪役、アンデッドの最高支配者「オーバーロード」として異世界に残った。それも自分と仲間たちがゲームの中で苦労して作り上げたNPCたちと一緒に。
しかしここでふと思う。あ……これはこれでありかも。いいや逆に理想的だと。
現実社会では一介のサラリーマンで、上司にはグチグチと文句を言われ、部下にはつつかれ、家に帰ってもゲーム以外に何の楽しみもない。要するに現実には何の魅力も感じない主人公がゲームの中がリアルになるのなら、こんなに幸せなことはないはずなのだ。
なぜ異世界転生モノが流行るのか?
私も類に漏れず異世界モノは大好物である。ではなぜ、異世界転生モノが今こんなに流行っているのだろうか?
ご想像のとおり、理由は現実逃避である。
子供のころは少なからず夢があった。なくてもゲームをすれば楽しいし、小説を読んでいればその世界観に没頭できた。しかし、現実に大人になってみたらどうだろう。大多数の人間は理想と現実の歪に打ちひしがれ、毎日会社に通い、ただただ疲れて帰宅の途に就く。ゲームのアバターのように世界中を旅したり、美女と出会う機会もない。
人それぞれではあるだろうが、自分の居場所が現実社会にはない、もしくはその環境から逃げ出したいと心の奥底では思っているのではないだろうか。
働けど働けど、わが暮らし楽にならざり。この世に安楽な場所など本当に存在するのだろうか。もっと思いつめられた人は、いっそ死んで楽になりたいと本気で考えるだろう。
それだけ現実社会は厳しいのだ。異世界へ、それも自分の理想とする環境に逃げられたらどんなに幸せだろう。そういう読者の心の隅っこを、この本はチクチクと刺激するのだ。
モモンガ様、万歳。
誰しも一度は憧れるだろう。無条件で自分を慕い、全身全霊で尽くしてくれる存在が身近にいるということを。それが子供であるのなら、養育義務が発生するし、どれだけ懸命に育てたところで、最終的に子供が親に無償の愛をささげてくれるとも限らない。どれだけ相手に尽くしても、その見返りがあるとは限らないのが現実だ。
しかし、この本のNPCたちは違う。自分たちの創造主であるモモンガは無二の存在であり、絶対的なのだ。自分が死んでもモモンガが良ければそれでいい。モモンガの役に立てれば、それは己の存在意義になる。こんな純粋な愛情がこの世に存在するだろうか。可愛いNPCたちにそんな純粋な愛情を注がれながらのころの人生を生きられるなら、現実世界などきっぱり捨てよう。そう思うだろう。
ましてやモモンガは絶対的死の覇者である。まず死なないし、莫大な資産があって、ナザリック地下大墳墓という壮大な住処さえある。絶世の美女に慕われ、部下に恵まれたこの上ない幸せ者だと考えざるを得ない。
生まれ変わるなら勇者だって?…とんでもない。絶対的支配者のオーバーロードだろう。不思議とそう思わせるだけの魅力がこの本にはある。
アンデッドなのに、なぜか憎めない人の好さ
人間をガンガン殺す主人公なのに、なぜか「もっと殺れ!」と心の中で応援してしまう何かが、主人公にはある。普通は逆なのに、なんでかな?と考えると、そこにはモモンガの人間性(?)への魅力がある。アンデッドなのに、とっても人間臭いのだ。
自分が部下であるNPCたちにどう見られているのかと、ふと顔色を窺ってみたり、自分の言動を取り繕ってみたりする。そのくせカルネ村の人間には妙に優しかったり、王国の戦士長のガゼフにも妙に肩入れしたりする。己の利益を優先しているような口ぶりではあるが、どうにも憎めない。
そして仲間のアンデッドたちも、素は人間に作られているからなのか、妙に人間臭くて好感が持てるのもこの本の魅力の一つなのだろう。
階層守護者同士でモモンガを取り合ってみたり、将来的に生まれるかもしれない(?!)モモンガとアルベドの子供をあやす自分の姿を想像してみたりと、見た目にこだわらない感情表現豊かな設定も、この作品の魅力だ。
本当に世界征服しちゃう?
空中散歩した際のモモンガの何気ないセリフを、世界征服への欲望だと勝手に解釈したデミウルゴスが、最後に全くモモンガの意思とは関係なく、ナザリックの体制を世界征服の方向へと話を進めてしまうシーンには、思わず笑ってしまった。
しかし、モモンガ(改めアイウンズ・ウール・ゴウン)の意思とは関係なく、話はこれからどんどん世界征服へと進んでいくわけで…。この先、この作品からは目を離せないと思った。
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