アクション映画の中で珍しい部類の作品 - SPIRIT スピリットの感想

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アクション映画の中で珍しい部類の作品

4.04.0
映像
4.5
脚本
3.5
キャスト
5.0
音楽
3.0
演出
3.5

目次

SPIRITはジェット・リーの人生そのもの

この映画に出演しているジェット・リーのインタビュー動画にもあるようにこの映画はリーが世界中の武術家に伝えたいことを伝えてくれた作品である。インタビュー(https://youtu.be/HqNyagk_2lI)内にあった「武術の武という漢字は戈(ほこ)を止める……つまり争いを止めるためにある」というリーの言葉。それを映画全体で語ってくれている作品である。おそらくこのフォユンジャの役は後にも先にもジェット・リーにしか務まらないだろう。メイキングの中でこれが最後のアクション作品になるが、ここにはジェット・リーが武術家の人生の中で語りたかったものが詰まっている。

武術はなんの為にあるのか「傷つけない強さ」

武術とは己を磨くことであり、決して金儲けや憎しみや恨みなどで相手を打ち負かすためにあるわけではない。フォユンジャンが作中で昔からのライバルを「弟子がやられた」という報復目的の理由だけで祝いの席をぶち壊し殺してしまうわけだが、恨みを抱いて武術を振るったところで何も生まれないどころかすべてを失ってしまったフォユンジャン。

この主人公に共感できるのは何も最初からスーパー超人という訳ではなく我々と同じよう(下手するとそれ以下)失敗や過ちを繰り返してきたところだろう。酒と欲に溺れ、強ければ尊敬される人間になると思い込み親友を大事にしなかった。そんな主人公だからこそ前半で愛着がわき、後半の八百長試合を仕組んだミスター三田に憤りを覚えた。

この映画は中国でつくられたというのに日本人の良い役、田中安野が出てきている所だろう。彼は日本の誇りを映画の中でも主張しており、それを踏みにじったミスター三田に憤る。ジェット・リーはジャッキーやブルースリーのように悪い日本人が出てきてそれを主人公の中国人が倒す映画を好まないと言っていた。「茶に優劣などない」という言葉はこういったリー自身の気持ちをうまく表現している。優劣を決めるために試合をするのではない。それはヘラクレス・オブライアンとの試合で語られている。この試合は最初はヘラクレスが対戦相手であるユアンジャを見下しバカにしていたが、試合が終わると彼はしっかりとユアンジャの強さを認め中国式のあいさつの仕方で「ありがとう」といった。ここでユアンジャが力で抑え付けるだけの試合をしていたなら彼はユアンジャに尊敬と敬服の意を持つことはなかっただろう。アニメや漫画でよく見る「傷つけない強さ」というやつだろう。これを大切に扱っているアクション映画はあまりない。この作品の持ち味と言っていい。

謎のラストシーン……

まず最後のリーが死んだあとにユエツーの前で月明かりが照らす中、カンフー(?)するユアンジャの描写。あそこにどんな意味があったのか私の頭では想像もできないような意味があったのか、それとも日本人故なのか……。とにかく、あのシーンが必要とは思えずせっかくユアンジャが盛られた毒が原因で倒れ弟子に遺言を遺し感動のシーン!! だったのに、そこによくわからない幻想的なシーンをいきなり入れこられて、高ぶっていた感情が一気に萎えた。何度みてもあそこのシーンはいまいちで、そこが映画全体の価値を下げている部分だともいえるだろう。

友人のノン・ジンスンの大切さ

酒代も払わない、自分勝手。そんなフォユアンジャの事を支え続けたジンスンの大きさ。彼は本来なら主人公ポジションに収まっていてもおかしくはないほどの人物といってもいいだろう。ジンスンが支えたからこそユアンジャはあそこまで立派になれたのだ。……あんなに立派な人物を出しておいてキャラ的には準レギュラーなのだが映画の主題的にみると脇の中の脇キャラなのだから不思議でしょうがない。あのユアンジャが殺したライバルの方が作品の良い出汁になっていたのは言うまでもない。ジンスンは最後の最後まで「良い人」でしかなく彼の存在がSPIRITの中で最も「気味の悪い」人物になっていた。ジンスンは映画の中でも最初からずっと「良いやつ」であり暫く行方不明になっていたユアンジャのために夢だった料亭をあっさりと売却して、体操会をつくろうというのだから。作中で彼の葛藤や苦悩、あるいはユアンジャに対する嫉妬が描かれていたのであればもう少しは人間性のあるキャラクターになっていただろう。

最終的にフォユアンジャが完璧超人になりすぎた

残念なことにユアンジャが完璧になりすぎたところもこの映画では欠点となっている。田中安野と茶を飲んでいるシーンがあるのだが、そこではユアンジャが少し一方的に田中安野にたいして教えを説いていた。無論ここで田中安野なる人物が未熟者であったなら納得はいったのだが日本側が毒を盛った八百長試合で田中安野がちゃんとした芯をもった完成された人物だった為にあのお茶のシーンでユアンジャの言っていることに何一つ反論せずに頷いき納得するだけだったことにいささか疑問を覚える。ここで完成された田中安野であればユアンジャが言ったことに意義を唱えユアンジャがそういう見方もあるのか。と納得するというのが自然な流れだったと感じた。日本人が悪者をやっていない(ミスター三田を除く)と言えど日本人と中国人の間にはわずかだが差が出ていた。ユアンジャユアンジャの優劣のない茶の心意気は映画に隅々まで行き渡っていないように感じた。

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