実写ドラマに負けないストーリー性 - true tears[トゥルーティアーズ]の感想

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true tears[トゥルーティアーズ]

4.504.50
映像
5.00
ストーリー
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キャラクター
4.00
声優
4.50
音楽
5.00
感想数
1
観た人
1

実写ドラマに負けないストーリー性

4.54.5
映像
5.0
ストーリー
5.0
キャラクター
4.0
声優
4.5
音楽
5.0

目次

多くを言葉で語らず映像で表す作品

true tearsはセリフで言いたいことをはっきり表現しない上質な作品だ。

イエス、ノーをはっきりキャラクターが口にする作品は、視聴者にピンポイントでメッセージを伝えやすい。笑えたり、癒されたり、萌えたりする作品は、作品のメッセージが明確だ。そのかわり、提示したメッセージ以上のことは何も伝えられなくなるのが難点である。true tearsはキャラクターの言葉では語らず、表情芝居や、仕草で感情を表現しようとする。例えば嫉妬していることを言葉だけで「むかつく」などと言わせてしまえば、絵なんて適当でも視聴者には伝わるが、true tearsは睨みを利かすだとか、アングルを変えて影を作るだとか、一見わかりにくい表現方法で演出している。だがこのアニメではそれが非常に効果的だった。登場人物達の複雑な三角関係や、好きなのか嫌いなのかよくわからない恋愛感情が映像だけで表現されていると、視聴者は制作者の意図した何倍もの情報を深読みしてくれたり、ミスリードされて興味を持続しながら楽しむことができる。乃絵や比呂美のような記号性を廃したキャラクターが、実写ドラマのように演じているおかげで、ただのラブコメとは言い難い作品になっている。

閉鎖的だが美しい富山で語られる成長物語

雪の積もった街、薄暗くて異様な酒蔵、そこで閉じ込められたみたいに暮らす比呂美と同居しているのが主人公の眞一郎だ。眞一郎は比呂美を救ってあげたい、解放してあげたいと思っているがなかなかできない。眞一郎と比呂美の関係の進展がこのアニメの主題のように見えるし、実際に最後は眞一郎と比呂美が結ばれるのだから、メインヒロインは比呂美のように思われるが、true tearsは乃絵なくしては成立しないアニメだ。地べた、空を飛べる、本当の涙、などというわかりにくいキーワードがたくさん提示されるこのアニメ。それはすべて乃絵が解決すべき問題のために用意された物だ。

眞一郎が始めに乃絵と出会ったとき、彼女は木の上にいる。それからも乃絵はたびたび眞一郎より高い位置にいる。カメラアングルも見上げる形が多い。これは偶然ではなく、わざわざ高度差をつけているのは必ず演出意図があるはずだ。乃絵はおばあちゃんが亡くなった後に泣けなくなってしまった。おばあちゃんが涙をもらってくれたというが、何らかのトラウマになって泣けなくなったのであろう。悲しいとか悔しいとか寂しいとかでは乃絵は泣かないのである。これは人間的でないということでもある。突飛なことばかりして言動もぶっとんでいる乃絵は、性格も人間性を失っていると言ってもよい。いつも上空にいる乃絵は、地上にいる人間とは似ても似つかないことの暗喩なのだろう。堤防の上を歩いたり、階段の上から弁当を授けたり、乃絵は眞一郎よりもかなり高いところにいる。人間の友達はおらず、鶏とばかり話しているのも、人間性を失っていることの表れだ。たまに挟まれる、超上空から見下ろしたカットはキャラの頭の上しか見えないが、乃絵の視点から見た景色なのかもしれない。普通の人間の目線ではない、天使のような視点だ。物語は、乃絵が人間の視点を回復して、人間らしい感情を取り戻し、本当の涙を流せるようになることが主題となっている。

乃絵は本当の涙を流せたのか

人間離れした乃絵は、鶏が襲われた瞬間からどす黒い感情を持ち始める。鶏小屋の中に閉じ込められた鶏としか会話してなかった乃絵だが、小屋が破壊されてから初めて、比呂美や眞一郎と人間らしい関わりを持つようになる。鶏小屋は乃絵の感情を閉じ込めていた檻というふうにも見てとれる。

比呂美は仲上しおりとの確執の解消、乃絵は人間らしい感情の獲得、眞一郎は絵本作家としての成長、というそれぞれの目標に進んでいくストーリー。それとは別に好きな人のために好きではない人と付き合ってしまうという、誤解やすれ違いを通して、true tearsのキャラクター達は傷ついていく。乃絵は眞一郎に恋をしてしまうが、その恋は絶対叶わないことを理解していく。降りしきる白い雪やせつない音楽も相まって、このアニメは悲哀に満ちている。眞一郎と比呂美の恋が実り、乃絵は最後に失恋してしまう。すべてはラストの乃絵の悲劇のために用意された布石だったようにも思えるtrue tearsの演出。

冬が終わり、桜の舞い散る春が来て、乃絵は友達と共に学校へと登校している。ようやく突飛な性格が収まり、人間らしい女の子になったかと思われるワンシーンだ。ラストシーンでは鶏小屋の横で一人立ち竦み乃絵が景色を見下ろしている。失恋のために泣いているように見えるが、後ろ姿しか映らないためよくわからない。乃絵が人間らしい感情を取り戻して、泣けたのかははっきりとは示されない。タイトル画面になる直前で涙が現実離れした舞い上がり方をするが、乃絵が涙を流したのかどうかは本当のところはわからない。天使の視点から見下ろすカットや、乃絵が生徒達を見下ろしているカットで終わるため、演出的には普通の人間よりまだ一段高い場所にいるようにも見える。何より、壊れていたはずの鶏小屋がきれいに修復されているのも気になる。また感情を鶏小屋の中に閉じ込めたのではないだろうか。つらい失恋をきっかけにまた心を閉ざしてしまったとしたら、乃絵の物語は終わっていないことになる。

ただストーリー的には失恋を期に、乃絵が本当の涙を取り戻してラストを迎える流れになっている。言葉でははっきりと語らず、巧みな映像演出で物語の可能性を広げている。幾通りにも深読みできるのが、true tearsの魅力だ。

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