最後まで見てようやく気付くことが多い傑作
主演の演技力
恥ずかしながら主演の内村さんは、芸人さんなのに大丈夫なのかと不安に思っていたクチです。主人公が死ぬ、しかし気持ちよく死ぬためにどうすればいいか…という重いテーマの作品に芸人さんを使うのはどうなのかと、疑問に思いながら半ば面白半分で見てみました。おそらく演技がどんなものか目当てに見た人も少なくはないのでしょうか?しかしその演技力は多くの人を涙させた素晴らしいものでしたね。
「二話」の誕生パーティの回の最後では、楽しそうに笑う妻を見つめる内村さんの姿が見れます。「おめでとう」と口にした後に一度息をのみ、涙をこらえる様に瞬きを数度。耐える様に目を閉じたあと、やはり耐え切れずに涙をこぼしながら、それでも平静を装い「妻のよさ」気丈に伝え、声を上げて泣く…。その一連の流れの圧倒的な演技力は、この世界に一気に引き込むに足る素晴らしい演技でした。ここで涙した方も少なくはないと思うのですが、ぜひ瞬きなどの小さな動作にも注意して、もう一度見てほしいシーンです。この作品の魅力の大きな部分は、この演技力にあると思います。そして、普段のイメージですね。柔らかく明るいキャラクターの内村さんだからこそ、この設定で胸を痛める。ドラマを見た今では秀逸なキャスティングだと思いました。これが普段からちょっと怖い人が演じたなら、この不遇な主人公にこんなに心を痛めることもなかったですしね。
主人公の「わがまま」
主人公が何を望んでいたかなんて、そんなの生きて妻と子供と一緒にいたいに決まっています。でもそれは不可能だからこそ、タイトル通りの突拍子もない思考になったわけです。悔しくないわけではありません。上記のパーティ描写では涙を流しながら悔しそうにしていますし、旦那候補さんに嫉妬している描写も見られます。正直、「自分が好きな人がほかの人のものになるなんて考えられないし、そんな旦那探しなんてつらいだけでは…」と最初は主人公の思考がよくわかりませんでした。そこに自分のわがままと言いますか、自分の欲がない気がして。そんな聖人君子のような願いをすることがあってたまるか!と。もちろん妻や子供を置いて死ぬことに不安があることはわかりますが、「俺死ぬからこいつと結婚して!」なんて、妻側からすれば何言ってるの勝手に決めないで!?といった感じですよね。なんてことを考えるんだこの主人公は!?と思ったものです。
ですが別に主人公は妻を取られることをよくは思っていません。そんな主人公がなんでこんなことを決めてしまったのかというと、やはり「妻と子供に笑っていてほしいから」なんですね。最終的に友人に妻を託すことになってしまいましたが、その相手は主人公が選んで決めました。これって欲がないわけではなく、「どうせ自分が死んで誰かと付き合いたいのであれば、自分が認めた相手と付き合ってほしい」という欲を通しているのです。結局妻と子供がシングルマザーで生きていくという選択肢をつぶしている以上「妻と子供が苦労なく笑っていること」を前提として。最初はなんて欲のない主人公なんだろう…と思いはしましたが、そういう形で欲を通している人なのです。相手の都合などを考えず、「自分がピンと来た人」に「妻と結婚してくれないか!?」とお願いしているのが、とても献身的に見える主人公の最大のわがままだったのかもしれません。
結局主人公が死んでしまい、なんだか報われた気持ちにならない…と思っていましたが、そう考えると「主人公は自分のわがままを通して死ねた」と、そう考えられると思いました。そう思うと少し、主人公の死も受け入れられる気がしますね。
笑い声演出
気になった人も多いのが、コントのような笑い声演出でしょうか。あれは人を選ぶものだと思います。深刻なテーマのドラマには少々不釣り合いの演出でしたね。私はそれがあってこそ、「深刻で重たすぎるテーマ」が「重くなりすぎない」で見られたのだとは思います。普通に見ていては主人公が死ぬ、しかも奥さんに次の相手を探してあげている、すべて善意なのにいろいろこじれて最終的には喧嘩して…。そんな重たすぎる展開は見るに堪えられないものだったと思います。だからこそ、あの演出が「清涼剤」となってこのテーマでも見られたのだと思うのですが、重いテーマ大歓迎!むしろもっと重っ苦しくしてくれ!という人やあの演出で白けた人にはマイナス点でしたね。
かくいう私も「え、そんなテイストにしちゃう?深刻さが伝わらなくない?」と思っていたのですが、次第にあの演出が「いろんな人を笑わせたい主人公だからこそ」素晴らしいものだと思うことができました。
主人公は「芸人になりたい、皆に笑ってほしい」という信念を一貫して持っています。だからこその妻の次の相手選び(それが正しいかはおいておいて…)だったのです。だからこそあの演出で、「ああ、主人公は視聴者も笑わせることができているんだ」「主人公は皆を笑わせていることができているんだ」という気持ちが生まれ、「こんなにも過酷な運命を背負った主人公が、みんなが笑っていることで救われているという演出」だという解釈が生まれました。実際にあの演出が入っているときは、楽しそうにしゃべっているんですよね。きっとあれは、「清涼剤」として使っているほかにも、「主人公への救い」も表していたんだと思います。
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