「韓ドラあるある」を排除したサスペンスアクションの意欲作
あの「サイン」、「ファントム」に続くキム・ウニ脚本作品!!ですが
「韓国のドラマはキム・ウニが登場した後と、それ以前に分かれる」と世間に言わしめるほど、本格派サスペンスドラマの第一人者として評価されている脚本家・キム・ウニの作品ですから、否が応でも期待しますよね。
しかもパク・シニャンの「サイン」、ソ・ジソブの「ファントム」という超絶スリリングでエキサイティング!全韓震撼!!なドラマシリーズに続く作品(の、劇場版映画)とくれば、当然面白いに決まってる!そんな意気込みのもと鑑賞した後の肩すかし感がそれはもうハンパない本作ですが、何なんでしょうね、さて一体何がいけなかったんでしょうか。
要は扱うテーマをいささかぶっ込みすぎなんです。朝鮮半島の南北関係とアジア通貨危機と軍需産業とアメリカとのしがらみを、大統領暗殺計画と父親の謎の死と製作費1億ウォンでまとめ上げようとしたのでしょうが、欲張りすぎた結果消化不良に陥るという残念な結果になっています。本作はドラマシリーズ「スリーデイズ」本編の1話、2話を編集したいわゆる序盤編で、映画の続きはDVDでご覧ください!ということになるんですが、物語が進めば進むほど、ストーリーの散らかり具合に泣かされてトホホです。俳優陣は演技派、実力派揃いなのにもったいない、ああもったいない。
しかしながら、前作の「サイン」、「ファントム」と同様に、「財閥御曹司との身分違いの恋」、「物語の中盤あたりで発覚する腹違いの兄弟(姉妹)の存在」、「手加減なしでいじめ抜いてくる金持ちの恋のライバル(最後は悪行を反省して米国留学)」という韓国ドラマで視聴率を取るために欠かせない重要な3要素を一切排除し、難解で複雑な謎解きのみを視聴者に提示した脚本家キム・ウニの心意気は感じます。次回作にも期待。
もう、主演のパク・ユチョンに尽きる
主人公のクールで生真面目なエリート大統領警護官を演じるパク・ユチョン。繊細な涙のシーンから激しいアクションまでこなす彼が、日本の韓流ブーム全盛期に大活躍したアイドルグループ「東方神起」のメンバーだったことをご存知ですか。当時は紅白に出場するほど人気・実力共にNo. 1のグループでしたが、ユチョンは事務所との契約を不服とし、他のメンバー2人と東方神起を飛び出して、新たに「JYJ」というグループを結成しています。
この世紀の分裂劇は、未だに一部の根強い東方神起ファンにより恨み節で語り継がれていますが、大手芸能事務所に反旗を翻したユチョンは、その後日本でも韓国でも歌番組に一切出られない状況となります。そこで芸能界での生き残り策として選んだのが、「演技」という新たな挑戦でした。
苦肉の策として始めた韓流アイドルの俳優業、と当初は思われていたユチョンですが、「トキメキ☆成均館スキャンダル」「屋根部屋のプリンス」などの人気ドラマや、「殺人の追憶」のポン・ジュノ監督が手がけた社会派スリラー映画「海にかかる霧」に次々と主演、これがまたけっこういい演技するんですよ!端正ながらもアイドルにしてはちょっと地味目で古風な風貌が幸いし、演技派揃いの韓国俳優陣に引けを取らない、どんな役にも染まれる役者としての才能が開花しました。そして本作への出演により「東方神起の後ろの方にいた目立たないメンバー」から、「歌って踊れてアクションもできる演技派イケメン俳優」に見事に脱皮したのです。
私生活では全身にタトゥーを入れて喫煙、最近では兵役勤務中に風俗店に行き、関係した女性4人から訴えられるという事件にも巻き込まれ、女性ファンの胸を締め付ける罪な男ユチョン。いっそこれを機に今後は汚れ役にもチャレンジし、役者としてますます演技の幅を広げてほしいものです。
出てくる人がみんな怪しい・・・キャスティングの妙
日本の2時間ものミステリードラマの容疑者の中に名取裕子がぽつんといたら、その時点で真犯人は95%以上の確率で名取裕子だと分かってしまうという、推理劇にはそんなキャスティングの限界とジレンマが常につきまとう訳ですが、韓国ドラマや映画にも、そういうのはもちろんあります。「あれ?この人、前に○○に出てたチーム長役の俳優さんじゃない?」などと、以前別の作品でお会いしましたね的再会がやたらと多いのもよくある話。
本作では、主人公が信頼していたハム室長が実は裏切り者だったと発覚するシーンが大きな見どころの一つとなっていますが、この室長を演じるチャン・ヒョンソン、善人も悪人も演じられるバイプレイヤーとして韓国ドラマではしょっちゅう見かける俳優さんです。そして大統領秘書室長のユン・ジェムン、特別検事のイ・ジェヨンもしかり。見たままの単純な役柄では終わらず、この先絶対何か裏があるよね?と思わせる演技派達が脇を固めています。
出てくる人が揃いも揃って善人も悪人もイケる役者さん=すなわち全員怪しいというこの状況では、やっぱり続きが気になりますし、張りまくった伏線をこれからどうやって回収していくのかぜひとも見届けたくなりますよね。新しい登場人物が現れるたびに「絶対この人訳あり!」と思わせるので、韓国映画やドラマに詳しい視聴者の方が、よりストーリーの先読みが難しい作品と言えるでしょう。
そんな気合の入ったキャスティングだけに、肝心のストーリー展開がとっ散らかってしまったのが少々残念。ちなみに本作の次にキム・ウニ脚本で制作されたドラマシリーズ「シグナル」は相当出来がいいと評判のようです。「スリーデイズ」にがっかりした方はぜひ。
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