貧乏を隠さない心の清さが笑いを誘う
全員美しすぎるからなんとかなっている
家族全員美しすぎるって…一番得していると思います。貧乏でもかっこいい・かわいい人なら付き合いたいと思うじゃないですか。お金だけがすべてじゃない!とか言って。だってどんなダサい服を着ていようが、顔がしっかり整っていて、言葉遣いがきれいで、成績優秀で、運動できて、フレンドリーだったら…欠点なんかない!全部綺麗に見えてしまいます。この山田家にいたっては玉の輿は目の前だよな~…どんな一般家庭の人も、山田家の人からしたら超金持ちでしょうからね。
ちょっと疑問に思うのは、太郎が私立になんで通えるのかなー?っていうあたりですかね。その美貌で教科書も授業料もどうにかしてしまったのかもしれません。お友達はみんな金持ちだし、軽く出してくれそう。御村がね、いいですよね~イケメンで金持ちで、ピンチのときは何気なく現れて全部さらっと解決してしまうんですから。太郎にとっては最強のお友達です。圭ちゃんがホモ疑惑でしたけど、御村も十分序盤はホモ疑惑がありました。
美しすぎて、全部許せる…結局ラブ要素は少なめで、ひたすら貧乏に負けないギャグエピソードが続いていくお話ですが、飽きないんですよね。1つ1つの話題がとにかく凝っていておもしろい。隆子の親とか、まさに昭和のなごり感があります。ただ、最初の100万円もらって薬を食べちゃって…っていうエピソードは、今だとちょっとおいおいって思う話題だと思います(というか幻覚剤食べて平気なわけないじゃん…)。かなり薬物関係に関してはシビアな時代になってきてるので。これをさらっと流しているあたり、昔だな~という感じがします。テレホンカードとかもろもろ古いものも出てきますけど、大人が読むと懐かしいなーと思うし、クスッと笑えちゃいますね。
太郎とその弟・妹たちとの年齢差どうした?
太郎が高校生で、弟と妹たちはみんな小学生じゃないですか。その間の数年間って子ども作らなかったんだなーってちょっと不思議でした。ここで思うのは、1人目の太郎を育てるときは、母親も父親も相当がんばったんだろうなってことです。そうじゃなかったら、太郎の性格はここまで美しくなってない気がします。太郎がこれだけ清く正しく、誠実に家族のためにがんばる子に育ったのは、親の愛情をしっかりと受けて、ある程度物心ついてから兄弟ができて、支えていくのが当たり前という心が育てられていったのかなと。そして、父親はまったく頼りにならないし、自分が長男として母親を・弟や妹たちを守っていかなくちゃならない!と決意したんでしょう。そんなちょっと真面目な妄想もできました。裁縫も料理も、人を手伝うという行為、勉強…自分のためより人のため。まさに理想の人。
ただ、何となくですけど、貧乏だったらつつましく・優しく穏やかであれ、というのは希望・理想論だなとも言えますね。だって容姿が美しくなかったらこれだけ人にあがめられることもないわけですから。他の作品では貧乏なら野心で這い上がりすべてを手に入れろみたいな物語もあります。そのほうがリアリティがあるということで、最近では山田太郎ものがたりのような話は少なくなったなーという気もしています。あれだけ明るく食べ物にがっつく人って…よく考えたら怖いよね。人が近づかなそうです。
太郎が不憫すぎる…
太郎の母親が…ひどいなー…お金というお金使いまくって…お金のありかはすぐに見つけられるという特殊能力もあり、美しく優しいお母さんでもこれは…太郎は小さなころからこの母親の行動を見てきたからこそ、自分が支えなきゃ!っていう性格に育ったんだろうけどね。母親のほうも、帰ってこない旦那の好きだったもの、芸術に投資しているので、旦那のこと、想い続けてるんでしょう。100歩譲って、素敵な家族!…とは言えないわ~一番母親が楽をしている…!これが許せないポイント…!美しかったらいいのか!女の武器を使って泣けば許してもらえるのか!と、責めたくなるよ…太郎よ、そんな感じだから恋ができないんだって。太郎はもうお金→食事→家族養うしか考えてなくて、自分の幸せ=家族の幸せになっていて、それ以上も以下もない。本人嬉しければそれでいいのかもしれないけど、下の兄弟たちが普通に恋をしたり結婚したりできているのも全部太郎のおかげなのに…太郎のこと、誰か支えてやってくれないだろうか。大学編以降にラブがやってこないだろうか。切実に思います。かといって圭ちゃんは嫌だし、家族を養っていない太郎は想像ができないし…コメディーですからね、期待してはいけない要素なんですが、よし子のことがあるので、もう少しなんかあったっていいじゃないですか!
めげない心はいったいどこから来る?
山田家はなんでこんなにひねくれないのでしょう?そして嫌われないのでしょう?もう本当に、自分たちの生活がかかっているから、悪口も何も関係ありませんよね。勉強がんばって、運動がんばって、人にやさしく、そして人にやさしくされてその日を生きていく食べ物を手に入れる。それしかないんです。がんばらないと生きていけないからそうする。まさに「情けは人のためならず」のことわざのとおり、すべて自分たちのためになっています。他の人から見ても、本当に困っているんだな、助けてあげなくちゃ!という庇護欲をそそるのでしょう。見返りは最高の笑顔以外にないのによくやるなー…小さなころからそれで育つと、物憂げに頼めば全部許されるということが癖になってしまいそうで怖い…そんな気もします。
もしも…の話なのですが、すべて計算の上だったら、最高に怖い物語です。自分が持って生まれたものをフル活用して自分たち家族のためだけに生きていく。人は利用してなんぼという世界。実にブラックな話が作れそうです。そんな中でもすべてを理解する友達として御村だけは仲良くしていそうな気もします。ブラックに人を利用する太郎をにやにやと上から楽しみながら見物していそう。実際にすごく楽しんでいるしね。
前半の太郎ものがたりは後半で山田家物語へ
前半の5巻くらいまでは太郎の日常が描かれていきます。今日はいったいどんな方法で食べ物をゲットするのだろう?そんなことを楽しみにしながら、一話一話を読み進めていきます。一番衝撃的だったのは、食べ物が欲しかったらキスもできるということ。太郎にとっては、今日を生きていく食べ物に比べたら全部価値がないのでしょうね。第一話で100万円をただで受け取ったときはさすがに迷っていたけど、話が進むにつれどんどん大胆になっていきました。翻弄される周囲の人たちがかわいそうな気もします…
そして後半は太郎の弟・妹たちにスポットライトが当たっていきます。それぞれの考えることは違うけれど、でも山田家のみんなは家族が本当に大事で、守るために生きているのは素敵でした。家族はいつでもそうありたいなと思うし、そうであってほしいなと感じることができると思います。太郎が大学に行けたのは成績優秀で奨学金でもなんでもどうにかなったんでしょう。ただ、まさか太郎の下の子たちが10代のうちに子どもを養うという方向に話が進んでいこうとは…辛すぎる。もっと考えなきゃだめだよ!この話題に関してはディープです。
結局まとめると、貧乏暇なし。でも明るく楽しく生きている。お金がなくたってどうにかなる。そんなふうに思わせてくれる、ちょっとくだらない、でも元気が出る。そんな話にまとまっていると思います。
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