ポップで分かりやすい作風にチェンジ - チーム・バチスタ3アリアドネの弾丸の感想

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チーム・バチスタ3アリアドネの弾丸

4.754.75
映像
4.00
脚本
4.75
キャスト
5.00
音楽
2.75
演出
3.50
感想数
2
観た人
3

ポップで分かりやすい作風にチェンジ

4.54.5
映像
5.0
脚本
5.0
キャスト
5.0
音楽
4.0
演出
4.0

目次

エンターテインメントに振り切った人気シリーズ第三弾

本作は、人気ミステリー小説を原作にもつ第一弾「チーム・バチスタの栄光」、第二弾「チーム・バチスタ2 ジェネラル・ルージュの凱旋」に続く、テレビドラマシリーズの第三弾として制作されました。
前作同様、原作は小説ですがシナリオはテレビドラマ・オリジナルとなってます。このオリジナル展開がミステリー小説としてみても、クオリティが高いことがこのシリーズの人気の根幹にあります。
1作目、2作目ともに評価が高く、個人的にはテレビドラマのミステリーで五指に入るのではないかと思っています。特に2作目「ジェネラル・ルージュ」は、シリーズ最高峰との呼び声も高く、実際そうだと思います。
そうなんです。世間一般の評価としては、第三弾にあたる本作はジェネラル・ルージュに比べて「一段劣る作品」なんですよね。
では、なぜ一段劣る作品という評価なのか?
私個人としては、そんなことはないと思うのですが、そう評価される理由は相応にあるとは思います。このレビューではその理由に注目したいと思います。

アリアドネの弾丸は、バチスタシリーズの「エイリアン2」

シリーズものの宿命として、同じことを繰り返していると飽きられるというのがあります。つまり、ファンは前作と同じような作風(それでいてクオリティはパワーアップしたもの)を望みながらも、しかし、無自覚・無意識下では変化を望んでいるのです。ですから、このバチスタシリーズに限らず人気シリーズはファンの期待に応えるべく、徐々に変化、あるいは劇的な変化をしながら続編を展開していきます。
その続編の展開のしかたには、様々なパターンがあるのですが、このバチスタシリーズは映画エイリアンに似ていると思います。
リドリー・スコット監督の映画エイリアンは、宇宙船という閉鎖空間のなかで、船員がエイリアンに次々と襲われるというSFホラーです。
テーマの重いどっしりとした作風で、船員たちの心理描写と、終盤まで姿をあらわさないエイリアンの恐怖が素晴らしい……ミステリ・サスペンスとしても秀逸な映画でした。
そんなエイリアンのヒットを受けて、エイリアン2が制作されるのですが、こちらはさらにヒットしましたので観た方も多いと思います。
まあ、ひとことで言えば、「こってこてのハリウッド・アクション映画」になってしまいました。前作のまるでスリラー小説を読むようなどっしりとした作風はどこにもありません。だから前作が好きだったコアなファンは激怒しました。商業的には大成功をおさめ、それだけでなく後の映画にも影響を与えるほど優れた作品であったにもかかわらずです(ちなみにエイリアン2の監督・脚本はジェームズ・キャメロン)。
これは「重厚な作風から、ポップで分かりやすい作風にチェンジして、さらに多くのファンを獲得する」というシリーズ展開としては間違っていない、いや、むしろ正攻法ともいえるやりかたなのですが、反発する人がいるのも事実です。その反発する人たちよりも、多くの新規ファンを獲得できるからやるのです。
で。
バチスタシリーズの第三弾である本作は、どうやらこの「エイリアン2」に似たポジションに着地してしまったのですね。
つまり、病院の手術室という密室で人知れず連続殺人が行われているという、いつ自分の身にふりかかるかもしれない身近な恐怖を描いた作風から、本作は、医療の現場から飛びだして警視庁や社会に潜んだ悪に立ち向かうという、あまり実感のわかない、だからこそエンターテインメントとして楽しむことのできる作風にチェンジしたのです。
ただ、これは悪いことではないと思っています。
前作ジェネラル・ルージュでは、エンターテインメント作品なのかドキュメンタリー色の強いノンフィクション的な作品なのかがハッキリとせずエンディングで評価が二分してしまいました。のめり込んで観ていた熱心なファンほど、ラストで笑ってしまったのです。
それを受けて本作では、初めから方向性をハッキリ提示しました。
この作品はノンフィクションじゃないぞ――そう宣言してバチスタシリーズは、ポップで分かりやすい作風にチェンジしたのです。

テーマソングと作品内テレビドラマ

第1話を観たファンがまず驚いたのが、作品の軽さではないでしょうか。
ドラマのなかで、テレビを観るシーンがあり、そのテレビで医療ドラマが放送されている。しかもドラマのタイトルが「アリアドネの弾丸」という本作のサブタイトルを説明するために使われているというミーハー展開。しかもエンディングには、女性ボーカルの入った分っかりやすいテーマソング。ジャニーズの人気タレントが主演の月曜9時のドラマなんじゃないかと目を疑ったくらい、ライトでキャッチーな作風です。
でも、これでいいのです。
バチスタシリーズは前作までで、もうこれ以上ファンの獲得が望めないというくらいヒットしました。ここに放るしか新規のファンを獲得できないのです。
そしてライトな作風であるにもかかわらず、「現在日本では、多くの死体が殺人の可能性をしっかり検証することなく、心不全として処理されている」というビシッと重いテーマをぶち込んできます。普通に暮らしていれば、まず自分に関係なさそうなテーマというのもエンターテインメントとして素晴らしいです。安心して楽しむことができるからです。作風から「そういう心構えでこの作品は楽しんでね」という制作者からのメッセージをヒシヒシと感じます。

高橋克典と仲村トオルのバトル

どちらも有名なベテラン俳優です。
本作の主軸は、このふたりのバトルでは決してないのですが、どうしてもこのふたりの対決に注目してしまいます。それは結論から言うと、犯人は斑鳩(高橋)だとミスリードさせようという思惑があったからでしょうし、ふたりの迫力のある演技が他の役者を圧倒してしまったからかもしれません。
ちなみに仲村トオルの演じる白鳥圭輔ですが、前作に比べてやや熱血度が増してはいますがキャラの方向性は基本的には変わっていません。それなのに、本作では以前のようにチャラくも軽くも見えませんし、演劇のような演技も異物のように映りません。
それほどこの3作目は、作品そのもののテイストが軽いのです。
作品が軽いから、相対的にみて白鳥圭輔が軽く見えないのです。
前作までで白鳥が担っていた「これはリアルな話だけど、エンターテインメント作品なんだよ」と視聴者に伝える役割は、今作からは作品そのものが担うことになりました。
これは前作が抱えていた問題点を見事に解消したのではないでしょうか。

ミステリー作品として完成度が高い

最後になりましたが、軽くなった作風ばかりに注目しがちな本作ですが、地味にミステリーとしての完成度が高いと思うんですよね。
前作でも速水のクールな性格そのものが事件の伏線になっていましたが、本作でも登場人物の性格設定が伏線として機能していて、ニヤリとさせられる場面が多かったです。たとえば、島津吾郎が初登場したときは「ずいぶん子供っぽい性格だなあ」と思ったのですが、それは海外でずっとキャリアを積み重ねてきたという経歴が良い感じに目くらましになっていて、不自然に映りませんでした。ところが父親がえん罪事件の被疑者だということが分かってからは、彼の子供っぽい性格が効果的に発揮されます。子供のように感情をあらわにしても不自然にみえませんし、それがドラマを盛り上げることに有効に働いています。
そして優れたミステリー小説は、登場人物が必要最小限なのですが、この作品も20年前のえん罪事件の当事者とその子供たちが「Aiセンター運営会議」に偶然集まっているという、まさに必要最小限の人物だけで構成された優れたミステリーなんですよね。
さすがに同じ病院のそれも似たような検死に携わる役職に法医学者の娘と、えん罪事件の被疑者の息子がいて、しかもお互いの正体に気付かずにいるというのは、さすがにありえないだろうとは思いましたけど、でも、そう思うことを野暮だと感じさせるくらいこの作品は完成度が高かったです。

というより、ポップで分かりやすい作風にチェンジしたからこそ、そんな野暮なツッコミをしないで楽しむことができる作品になりました。
この変化を嫌う気持ちはすごく理解できますけれど、それでも、私は好ましい変化だったと思っています。

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5.05.0
  • 雅
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