BL界の最高傑作【Jの総て】
切ないまでの一途さ
私が始めて涙したBL漫画、それが『Jの総て』でした。
主人公のJ(ジェイ)はマリリン・モンローに憧れる美少年。きらきらと輝く金髪、零れそうな色気ある大きな瞳、細やかなまつ毛が白黒の紙の上でも艶やかに輝きます。
実際Jの見た目に魅了されていく登場人物たちが物語の中で沢山出てきます。
しかし当のJはその煌びやかな見た目に反して、案外一途で世話焼きなんですね。クラブオーナーを(作中では商品と自分の事を言っていますが)助けたり、付き人のリタを路上で拾って住まわせたり。最後には母親に寄り添う姿も見られました。
彼の人生は自分を襲った実の父親を母親が錯乱し撃ち殺すという不幸な出来事から始まりますが、それですら作中で自分がどうにかすれば母親も父親も幸せになったのではないかと考えています。
最後は自殺未遂をするのですが、それですら「自分が苦しいから死ぬ」のではなく「自分が生きていると周りに迷惑がかかる」というものなんですね。
自分の中の葛藤と性別に悩み苦しみ抜いたJが、リタの産んだ娘と初めて出会うシーンは苦しい人生の中でも一途にそして懸命に生き続け、幸せを手にしたことを読者に印象付けるような美しい泣き顔です。
なにもかもオカシイが憎みきれない愛おしさ
1巻からずっと読み続けていくと、知らない間に「Jの策略」に嵌っていることに気が付きます。
それは「全部Jが悪いのではないか」ということです。しかしこれは作中でも否定されていますし、よく考えれば現代でもありえない話です。
しかし、知らぬ間に私たちはJに責任を擦り付けるようにして読み進めてしまいます。
なぜここまで読み進めないと気が付かないのか。
その大きな原因の一つに「Jには親がいない」という点があげられるのではないでしょうか。
例えば何か間違ったことや、失敗してしまった事があってもそれをたしなめる人や慰めてくれる人がいれば、人は何かやらかしても軌道修正することが出来ます。それをしてくれる一番身近な存在は「親」です。
しかしJには親がいません。
しかも父親は自分のせいで死に、母親は自分のせいで精神を病んでしまいます。
自分のせいで自分を精神的に支えてくれるはずの親を無くすという、矛盾のようなものを読者も抱えながら読み進めていくせいで「Jの策略」にはまっていくわけですね。ですがこの境遇があるからこそ、Jは私達に魅力的な人物として映るわけです。
Jについて
この本のタイトルは『Jの総て』です。
話の終わりはJが母親のお見舞いに付き添うシーンで歌を歌いながら終わります。(番外編はありますが)ここの作画で母親の精神的な病気が快復したのか、それとも病気が行き過ぎておかしくなったのかは定かではありません。しかし、母親はうっすらと笑みを浮かべ、Jはマリリン・モンローの象徴ともいえる白いワンピースをまとっています。
マリリン・モンローに憧れた彼は、マリリンのように歌を歌いながら、幼い頃に手に入れることが出来なかった母との触れ合いを手にすることが出来たのです。
辛く苦しかった人生とこれから幸せになる人生が『Jの総て』というタイトルにふさわしいのではないかと思います。
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