ファンの夢が詰まった作品……のはず
致命的な1クールという短さ
『聖闘士星矢』メディア展開で初となる、黄金聖闘士が主役となる『聖闘士星矢黄金魂(以下、黄金魂)』。
ネット配信によって全世界同時放映に挑戦し、その盛り上がりはまさしく全世界待望というにふさわしく、日本のみならず世界中のファンが放送を待ちわびていた。
だが、制作発表当初から、ファンの間では大きな期待に隠れて不安視する声があがっていた。
というのも、「黄金聖闘士全員を主役にする話なら、1クールでは絶対に無理」という至極まっとうな話である。
放送前からファンの間でもたびたび指摘されていたこの問題は、むしろ、制作発表会の段階で、制作側が最初から「キツイ」と述べるほどであった。
それもそのはず、黄金聖闘士は12人(双子座のカノンは除く)、それに加えて彼らと戦う敵役が必要である。登場するキャラクターが多いということは、それだけ尺が必要ということである。
しかも、ただ戦い勝って終了という訳にはいかない(いや実際、そこまで単純だったらもっと話は早かったのだろうが、制作陣なりに原作の足りない部分を補おうという気持ちがあったのだろう。そこに関しては頭の下がる思いである)。聖闘士たちそれぞれの個性を引き立てつつ、戦わせ、それなりに苦戦させたうえで、結末へと向かわせなければならないのだ。
1クールで黄金12人全員を活躍させること自体が難しいのだが、各キャラクターに根強いファンがいる以上、そこをおろそかにする訳はいかなかった。それでは13話は厳しい、と誰もがわかることだ。
どういった(大人の)事情かはわからないが、全世界同時配信という大勝負に打って出た以上は、それ相応の力を持って制作にあたるべきではないのだろうか。それは次項で取り上げる、作画の問題にもいえることである。
長年愛された作品だからこそ難しい、解釈違いと作画崩壊
人気作を取り上げる以上、避けて通れぬ問題であったが、『黄金魂』は原作アニメとたびたび比較される。比較したうえで、「これはダメ」「あれはダメ」だと言われてしまうのは、仕方のないことと言えるだろう。
特に作画崩壊には、厳しい目を向けられた。
『聖闘士星矢』旧アニメの作画(荒木伸吾・姫野美智氏、通称荒姫コンビによって手がけられた作画)は、アニメ界で伝説的扱いとなっている。原作者車田正美をして「俺より上手い」と言わしめるほど、美しい作画の数々。特に劇場版『真紅の少年伝説』や『天界編』などは、全編通して髪の毛の流れ方や表情、眉毛の美しさが繊細優美で、神がかっていると称えても良いほどだ。
それに比べ、『黄金魂』では時間の都合か予算の都合か、デッサン狂いまくり、荒すぎる線、ゴリラのような眉毛、塗りつぶししか使っていないような色使い、と惨憺たるものだった。荒姫コンビの画に慣れた『聖闘士星矢』ファンにとって、この手抜きとも呼べる作画の完成度の低さには呆然としてしまう出来であった。
また、各キャラクターの解釈違いも、ファンの間では論争となった。
特に問題となったのが水瓶座のカミュの行動原理である。
カミュはスルトに対する過去の償いとして、ミロをはじめとした黄金聖闘士たちを、一時的とはいえ惑わせ、裏切るようなそぶりを見せた。それをして、カミュはこんなキャラクターではない、と熱心なファンたちが激怒したのである。
更に、では「カミュらしさ」とは何かについてネット上でファンの間で論争が起こるほどで(これも30年続いた作品ならではだろう。愛ゆえに、ということである)、公式が何をしたところで収拾がつく有様ではなかった。
あらためて、長年愛された作品の続編を作るのは難しい……としみじみと思う次第である(ちなみに、カミュとミロはゲーム『聖闘士星矢ソルジャーズ・ソウル』にてだいぶ仲直りしているようなので、未見の人はこちらもチェックしてほしい)。
こうした熱心なファンの思いが強いからこそ、各種レビューサイトにも辛口の意見が多数書きこまれ、長じて『黄金魂』の世間の評価はイマイチなものへとなってしまったのである。
ちなみにオリジナル黄金聖衣(神聖衣)の販売時の盛り上がりも、長蛇の列と即日完売が当たり前の原作と比べて芳しくはなかったことを追記しておく(ここには聖闘士星矢フィギュア販売における劣悪な転売問題が絡んでくるのだろうが、本稿ではそこまで言及しない)。
まず、ありがとうを伝えたい
とはいえ、本来なら嘆きの壁にて閉ざされてしまったはずの、黄金聖闘士たちのその後を公式作品で補完してくれたことには、ファンとして感謝の気持ちしかない。
特に、放映当時から30年経っているにも関わらず、20歳そこそこの黄金聖闘士を演じきったオリジナル時代からの声優の皆さま(アイオリア役の田中秀幸さん、アルデバラン役の玄田哲章さん、デスマスク役の田中亮一さん、アフロディーテ役の難波圭一さん、アイオロス役の屋良有作さん、シャカ役の三ツ矢雄二さん)には感謝のあまり平伏したい気持ちでいっぱいである。
オーディオコメンタリーにて、屋良さんが「必殺技を叫ぶとこっちがぶっ飛びそうになる」と言うほど『星矢』のアフレコは叫びが多く、いくら大ベテランとはいえ、還暦超えの声優の皆さんは大変だったことだろう。
かなりの苦労や障害があっただろうに、『聖闘士星矢』30周年という節目に『黄金魂』を企画・制作してくれたアニメスタッフ陣に、この場を借りて感謝申し上げます。
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